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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第一章 赤の色
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第36話 開戦の色

「ほほう……」


「これは……」


 ギルドの前。その中で冒険者たちから熱い視線を浴びているのは、冒険者の防具を身に纏った我らがイニティウムの名物看板受付嬢のリーフェ=アルステインだった。そんな冒険者たちの好奇な目に耐えられず、恥ずかしげにガルシアの後ろに隠れている彼女だったが、翔自身、彼女が冒険者をやっていたということは知っていたが、まさか肌の色眩しい露出の多い防具を身につけるようなスタイルとは思っても見なかった。


「これ着るの百年ぶりで……、しかも少しきついですし……」


 とんでもない数字を出す彼女だったが、今となっては驚くことでもない。冒険者の中では、彼女はギルドの受付嬢としての印象が強い、何せ百年以上も、ギルドの受付に座り冒険者たちの成長を目の当たりにしているのだから無理もない。そんな彼女が自分達と同じ冒険者としての防具を身に纏い、獲物を担いで同じ土俵に降りたと言うのであれば親近感を持つなという方が無理な話である。


「と、まぁ。今回は俺が無理を言って一時的にではあるが、冒険者としてサポートしてくれる。みんなよく知ってるかもだがリーフェさんだ。ポジションは黄色のバンダナで、市街地を守るのをサポートしてくれる。こう見えて、結構なベテランだから、黄色いバンダナを持っている連中は彼女の指示をよく聞いてほしい」


「よ、よろしくお願いします……。恥ずかしい……」


 彼女のポジションを聞き歓喜の声を上げるもの、悲嘆の声を上げるものなど、反応はさまざまだが、それでもイニティウムの紅一点が作戦に参加するという事実に、特にイニティウムの冒険者たちは少なからずその指揮を上げていた。


「でも、リーフェさん……、本当によかったんですか? だって、あなたは……」


「それは……」


 彼女の事情を知るもの。翔の質問にガルシアも眉を顰める。しかし、その言葉の意味を振り切るように首を横に振ったリーフェはその目に決意を滲ませ翔を見つめる。


「私は、あの時の後悔を今しないためにここに立ちます。私が、私自身が守りたいものの為に。私も戦います」


「……わかりました。今日一日、よろしくお願いします」


 彼女の決意に、翔は深く頭を下げる。このように、強くあれたらどれほどよかっただろうかと翔は思った、ただでさえ今でも戦いに出向くのに恐怖している自分が恥ずかしいとすら思った。


 守るべきものは何か、それは今の自分を作ってくれたものだ。


 何者でもない自分を暖かく迎え入れてくれた、この街を守るために、存分にこの力を振るおう。


 役者は揃った。あとは、夜を待つのみ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「にしても、ガルシアの術式ってマジですごいですね。王都に勤めてる魔術師よりもよっぽど効率良く術式を発動できるじゃないですか」


「なぁに、伊達に年だけは食ってないさ。それに、こいつは本来別なところで使う予定だった」


 夜深く、空には三日月と満月が彩っていて夜にもかかわらず平原はさほど暗くはない。しかし、その藍色の闇の向こう側に揺れているのは魔物の瘴気とも言える魔物が出す独特な魔力の揺らぎで埋め尽くされている。


 数は、数百か、数千か、数万か。いずれにせよ、ここで迎え撃つ数十名では圧倒的に数が足りない。干上がった砂漠を潤す一滴の水ほどに虚しい。


「さて、見えてきたぞ。本番はこれからだ、全員魔力を流す準備をしろ、詠唱は教えた通りだっ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


 後方に控える魔術師、ガルシアを含め総勢十二名。全員が一斉に両手を地面にやると、地面に刻み込まれた魔術回路が一斉に発色し始め平原を鮮やかに赤く彩り始める。


 刻まれた溝に流し込まれた魔力触媒が反応し時折火花を散らしながら煌煌と燃えながらと炎の息吹を平原に刻み込みながら魔物たちを包み込んでゆく。


『其は赤 赤竜の名を冠すものなり その息吹を持って力とし この地に顕現せんっ!』


 次の瞬間、質量をもった咆哮を轟かせ地面が大きく揺れる。魔物の前に立ち塞がるもの、それは巨大な赤竜の右腕。夜の空に炎の柱の如く立ち上った竜の腕は、魔物の大群に目がけて、その巨大な質量をもって次々と敵を薙羅って行く。


『その双腕に炎を乗せ 我が敵を打ち払うべし 大地を燃やし尽くし その全てを喰らい尽くせ』


 魔術師の詠唱に続き再び地面から、膨大な熱量をもった竜の左腕が生え、平地を焼き払いながら虚空をかき回すが如く、その空気を熱しながら強大な風に乗せて周囲一帯を焼き払ってゆく。その姿は、地上戦の爆撃と何ら変わらない火力と熱量である。


『顎門を開き咆哮せよ 道を開き今こそ炎門の扉を叩かんっ! 赤竜の眷属 モーン=ストラムドラゴッ!』


 ガルシアの声によって平原に描かれた巨大な魔法陣が完成する。その瞬間、魔物の足元から巨大な赤竜の顔が立ち上り、空中に散らばった魔物たちを焼き払い喰らってゆく。それは、魔術師たちの詠唱が終わった後も魔物たちを焼き払いながら、その圧倒的戦力差を埋めるかのように頭と腕だけで暴れ回っている。


「緑の魔術師、いるか」


「はいっ! ガルシアギルド長」


「何、かしこまらなくていい。遠見の魔術は使えるか?」


「はい、ただいま」


 ガルシア自身が開発した魔術ではあるものの、その圧倒的威力に内心若干引いているのを隠しながら、そばにいる魔術師に遠見の魔術を使うよう指示する。正直、この程度で全滅してくれれば儲け物だと考えてはいるが、現実はそうそう甘くないということをガルシアは知っている。


「敵勢力の半数が壊滅、現在発動してる魔術と交戦中の魔物がほとんどです」


「……そうか、わかったご苦労」


 あれだけの火力をもってしても、まだ半数しか削れていない。その言葉の意味とは、先日相手にしたゴブリンやオーク以外にも厄介な魔物が紛れ込んでいることを意味する。


 今回、想定されている魔物は、完全武装したオークとゴブリン、そしてその中でも知力があり多少の下等魔物であるワーウルフ等を操るハイオーク等、そして特に厄介なのが飛行系の魔物であるガルーダやワイバーン。


 そして、最も警戒すべきは人語を操り、魔術を扱うことのできる魔物。


「これより、第二作戦に入る。大規模魔術の自然消滅を確認した後、魔術支援を受けながらの白兵戦へと移る。必ず、三人で一組のクイーン&()ツーナイトの陣形を意識することっ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


 後方で控えていた、魔術戦以外の白兵戦を行う赤いバンダナをした冒険者たちがガルシアの呼び声に吠える。その姿を確認したのち、再びガルシアは平原を焼き尽くす竜の姿を見ながら片手に握る槍に力を込める。


 それは、バルバルスに向けて出発するためにリーフェが用意した、ガルシアの為に調整された長槍。


「……必ず、勝ちます。リーフェさん……っ」


 槍に頭を押し付け誓うように口ずさむ。


 今日を生きて、明日を生きる。


 帰りを待つ人のために。

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