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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第一章 赤の色
22/201

第22話 分隊長の色

 大きく張られた革製のテント。騎士団を示す旗が多く掲げられており、それらが普段見慣れた平原に所狭しと並べられている。そんな中で、翔とラルク、その他冒険者で騎士団のテントを増設する手伝いを行なっていた。


「フゥ……、こいつで最後か?」


「あぁ。にしても、お前本当に騎士団の訓練受ける気かよ」


「まぁ、受けても損はないと思うし」


「物好きな奴、お前。入ったばっかの冒険者辞めて騎士団になる気かよ」


「そんなんじゃないって」


 テントの端に地面に留めるための杭を打ち込みながらラルクとそんな話をする。周りを見渡せば、先ほど隊長と似たような鎧を身にまとった人間がテントを出入りし、それぞれ剣などの武器を手に取り、手入れをする姿やら振るう姿がよく見える。


「それにだ。どうして急に騎士団が、俺たち冒険者を急に訓練の参加を募集したか。お前わかってんのか?」


「……さぁ?」


「貴族連中の前に突き出して、見世物にして笑うために決まってんだろ? 精々気をつけろよ」


 ラルクの悪口は止まることを知らず、その言葉に対して周りの冒険者も頷きながら作業に取り掛かっている。リーフェの言う通り、騎士団と冒険者の間にはどうしても埋められない溝があるらしい。そんな溝があるにも関わらず冒険者が協力するのはギルドから報奨金が出るからである。


 テントを立て終え、その中に騎士団の荷物の木箱を運び込む。そこそこに重い箱だったが身体強化術を使うことで簡単に運ぶことができた。


「それにしても、お前。どんだけ魔力の貯蓄があるんだよ。さっきもテントの機材運ぶのに使ってただろ」


「それは秘密だよ」


「ハァ……、俺も魔力量が高かったら仕事がたくさんあったのになぁ……。そんなに有り余ってるんだったら、俺の分も運んでくれよ、ショウ〜」


「頑張れよラルク。もう少しで昼飯だからさ」


 そもそも、身体強化術は魔力量が多くなくては使うことのできないものらしく。最初に使って見せたときはひどく驚かれたことを翔は思い出す。予備知識がなかったとはいえ、ガルシアは自分にとんでもないものを教えてくれたものだと思った。


 太陽は一番上に登り、草原には昼食の炊き出しのいい匂いが立ちこみ始める。


 草原には配膳待ちの騎士団と冒険者が並び、それぞれ大釜の前に出された食事を手に取り草原の上で座りながら昼食を取り始めている。配膳内容は、豆と鶏肉のトマト煮とパンが二切れと貴族の食事にしては質素ではあるが、冒険者が嫌いな騎士団に協力する理由の一つとしてタダ飯が食えると言うのも含まれていた。


 配膳を受け取り、仲間の元へと向かう翔だったが。騎士団と一緒に取ろうとする冒険者はおらず、まるで昼休憩中の高校の教室のように綺麗にグループが別れていた。


「どうした?」


「いや。なんか、懐かしいものを見てる気になってさ」


 昼食を取り終えた仲間とそのまま別行動となったラルクと別れ、翔は騎士団の中を進んでゆく。時折、すれ違う騎士団の視線が気になったもののまっすぐと建てられたテントの中でも一際大きく、立てられた旗が多いテントに辿り着く。


「止まれ。何用だ、貴様」


「訓練参加希望の今一色 翔です」


 テントの前で槍を持った騎士団二人に翔は止められるが、訓練参加の旨を伝えるとその二人は互いに顔を見合わせ、しぶしぶと入り口で交差させた槍を退ける。


 軽く頭を下げ、テントの中へと入る翔、テントの中は暗く壁にはランタンのような明かりが並べてかけられている、そして二重の構造になっているのか円周状に廊下のような通路があり、その壁越しに数人が話をしている声が聞こえた。


『さてと……、そこの。入って来なさい』


「っ! はいっ」


 入り口にすら立っていないのにも関わらず、聞いたことのある声が壁越しに翔を呼び止める。そのことに思わず動揺をした翔はすぐさま返事をし、外の入り口と反対にあった壁越しの部屋の入り口へと早足に向かう。部屋の中に入ると、大きな机の上に広げられた地図、そしてそれを取り囲むようにレギナを真ん中にして左右に二人の騎士が並んでいた。


「ようこそ、イマイシキ。紹介しよう、私の両腕だ」


 レギナが大きく手を広げる。その先には、左にはガルシアよりも背が大きく筋肉が大きく膨れ着ている服が限界と言わんばかりにパツパツになっている、まさに『漢』と言わんばかりの大男と、線が細く、切れ目の薄命な高身長金髪イケメンがそこに立っていた。


「諸君、自己紹介を」


「王都騎士団九番隊分隊長、ガレア=ファウスト。主に前線の指揮を担当している」


「王都騎士団九番隊分隊長、アラン=アルクス。後方の指揮が主な担当だ」


 三人からの鋭い視線が翔に降り注ぐ。それは敵意ではなく、試されているという目線だ。しかも、目の前に並ぶ騎士たちは歴戦の猛者だというのは見てわかる。人間との戦いに慣れた者達の重圧だ。


 生唾を吞み込む。だが、ここで臆せば負けた気がした。


「冒険者、今一色 翔です。この度は訓練の参加に誘っていただき、ありがとうございます」


 深く頭を下げ、翔は少しでも目線を逸らそうとした。


 しばらくの静寂とともに鼻腔をテントの皮の匂いが突き抜ける。と、そんな静寂の中かすかに聞こえたのは微かな笑い声。そして、それは徐々に大きくなってゆき、やがてテントを震わすほどのものへとなっていった。


「……え?」


 思わず顔を上げる翔。そこにはガレアと名乗った男が大きな体を小刻みに震わし、口元を押さえながら笑っていた。それに釣られてか、席の真ん中に座るレギナも少しだけ口から息を漏らし笑いを堪えている。


「ハハハハッッ! いやぁ〜、すまんすまん。貴殿はよほどのクソ真面目だと思ってついなぁ。ハハハハッッ!」


「ガレア……、すまない。この筋肉バカが失礼をした」


「ハァ〜。いやいやアラン、珍しいぞ? 今時こういう若者は。見ろ、この如何にも軍法会議に引っ張り出されたと言わんばかりの顔を。フゥ、ここ最近で一番面白かったわ」


 太い指を翔に向け、さらに大きく笑うガレア。だが、一頻り笑った後ガレアは翔の前に地面を揺らしながら近づく。そのあまりの巨体に、翔は思わず身を守る体制を取ってしまうが、差し出されたのは丸太のように鍛え上げられた右腕だった。


「気に入った、貴殿の面倒は私が見よう。見込みがある」


「ど、どうも……。こちらこそ、よろしく……?」


「うむっ!」


 バシリと手と手の皮が激しくぶつかり合う音ともに万力に締められたかのような感覚が翔の右腕を襲う。あまりの力強さに翔の口端が大きく歪むが、握手を行った張本人は如何にも満足と言わんげの顔をしていた。


「と、いうわけだ。レナっ! この男は私に任せてくれるかっ!?」


「レナは辞めてくれと何度……。ハァ、構わん。元より貴公に頼もうと思ったからな、いいぞ。前線部隊の訓練は私に任せろ」


「相分かったっ! では、早速向かうぞショウっ!」


 グイと引き千切れる勢いでガレアと握手をしたままの手で引かれる翔。抵抗しようにも、掴まれた手から全く動かすことのできない、ただズルズルと引き摺られテントの部屋の外へと連れ出されてゆく。


「ショウ」


 ふと、レギナの声が翔を呼び止める。その声に気づいたのかガレアの動きが止まった。部屋からわずかに見えるレギナの表情は少しだけ明るく見えた。


「肩の力を抜け」


「っ! はいっ!」


 ガレアに引き摺られ、翔はテントの外へと出た。


……………………………………………………………………………………………………………


 テントの外では視線が一点へと集中していた。


「いっ、いいですからっ! 自分で歩けますってっ!」


「オッ、すまんすまん。気づかなかったわ」


 手を離すガレア、そして離された手をさする翔。そんな二人に、訓練を行なっていた騎士団のメンバーからの視線が降り注いでいた。それもそのはず、ただの冒険者風情が、自分の部隊の隊長と一緒に行動をしているのだから無理はない。


「ふむ。ここでは少し具合が良くないか……、ショウよ。ここいらであまり人目のつかない場所はあるか?」


「ってぇ……、でしたら。ここから東にまっすぐ行ったところに軽い林が」


「なるほど。では、そこで訓練を行うとしよう。ついて来なさい」


 颯爽と先に進むガレアは、通りがかりの騎士達に敬礼されながら進んでゆく。大柄の体格のせいか一歩一歩の歩幅が大きく翔が小走りでやっと追いつくことのできる速度だ。


 騎士達の間を抜けてゆく最中にガレアは訓練用と思われる木製の大剣と翔の体にちょうどいい大きさの木剣を手に取り進んでゆく。そして、だんだんと人は少なってゆき見慣れた林の中へと入ってゆく。そこは、普段あまり魔獣などの出ない至って普通の林で、その代わりにEランク時代には世話になったキノコ採取などの依頼でよく使っていた場所だった。


「ふむ……、ここならちょうどいいだろう。さて、ショウよ。まず、貴殿が扱うのは剣だな」


「えぇ。はい」


 林に着くなり、普段扱う武器を訪ねるガレア。その質問に対し、翔も腰に帯剣しているパレットソードをガレアに見せるように動かす。


「良し。だが、今回はこれを扱ってもらう。真剣は危ないからな、ちょうどその剣の重さと同じはずだ」


 放り投げられた木剣を片手で受け取る翔。ずっしりと右手に感じる木剣は普段手にしているパレットソードよりも幾分か重い。だが、地球にいた頃に使っていた木刀とほとんど重さが同じように翔は感じた。


「ふむ。やはり、慣れている感じはあるな。あと、貴殿の装備。それは普段から使っているものか?」


 ガレアは翔の体を上から下へと視線を動かし眺めるが、今翔が身につけているものは作業が多いことを見越して、地球から持ち込んだ古着Tシャツと作業ズボンである。


「いや……、普段はギルドから支給されてる革製の胸当てとかですけど」


「なるほど、軽装か。ちなみに、ランクはいくつかね?」


「最近Cランクに」


「ほう。若いのによくやる……、となれば。そろそろ防具を自分で揃えてもいい頃合いだろう。考えておくと良いかもな」


 やけにギルドの事情に詳しいと翔は思った。すると、おもむろにガレアは翔の手を取り、曲げたり伸ばしたりを繰り返し始めた。右手、右腕、左手、左腕、右足、左足と順番に大きな手で触り始める。あまりに突然のことに、反応をすることすら忘れていたが体を弄るガレアの目は真剣そのものだった。


「ほう……、これは、また……。貴殿、何か武術の心得があるな?」


「あ、はい。それは……」


「とてもしなやかだ。それに、とても柔軟性がある。相当な鍛錬を積んで来たのだろう。誰に武術を?」


「親父に……、です」


「貴殿の父君か……、さぞ名のある武芸者だったのであろう。ショウよ、今の年は?」


「十九になります」


「そうか……、よくぞここまで……。さぁ、早速始めようか」


 こうして。林の中で、筋骨隆々の騎士と、駆け出し冒険者の訓練の幕が上がった。


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