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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第四章 黄の色
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第190話 向かい合う色

「……」


「……」


 さて、どうしたものか。ここに留置されてから結構な日数が経った記憶がある。なにせ、ここには陽も刺さない廊下に置かれた松明の灯だけが頼りの地下牢だからだ。


 そして、どうやら幻覚が見えているようだ。


 つい最近、向かい側の独房に入った新人。しばらくは一人の部屋で気兼ねなく筋肉トレーニングを行う事ができたのだが、これでは周りの目を気にしてなかなか思うように備え付けのベットでベンチプレスできない。


 そして、その新人はどうにも見覚えがあるのだ。


「どうした? お得意の筋肉トレーニングはしないのか? ガレア=ファウスト元九番隊隊長?」


「副隊長だ。元1番隊エギル=グラウス殿」


 互いがどのような理由でここに捕らわれているかは分からない。だが、お互い顔見知だと言うことと、互いがただ悪さをしただけで捕らわれる人間ではないと言うことをよく知っていた。


「何をした? 得意の酒癖の悪さか?」


「大体そんなとこさ。御宅は、妹さんの溺愛しすぎて職務怠慢の容疑で捕まったのか?」


「あぁ。大体あってる」


 鎖のジャラリとした音が地下の空間に響く。


 二人とも腐っても元王都騎士団。厳重に厳重を重ね、牢屋内でも魔力が使用できないように結界を張り、そして常時両腕は動かせないように拘束されている。


「ここに来てどのくらいだ?」


「さぁ、2ヶ月くらいか? なにぶん、時間の感覚が狂っていてね」


「なるほど、今度からはここの監獄に時計の設置を提案しておこう」


 毎日決まった間隔で出て来る食事ははっきり言って、軍の遠征でよく使う簡易携帯食よりもずっとひどいものだ。食えなくはないが、匂いがきつい上にいろんなものを無理やり混ぜ込んだかのようなひどい味がする。


 もとより、囚人の食事などこんなものだが。


「ついでに食事の改善も頼む」


「あぁ、言っておこう」


 さて、監獄に閉じ込める側の人間がそれぞれ改善点を列挙し始めたところで、再び静寂が訪れる。


 時間が過ぎるが早い。いや、遅いのか。


 誰かが来る気配もなく、ただこの虚無の空間でどうしてこのようなことになったのかが思考の切れ端を渦巻いている。


 しかし、どうしてこうなったのか考えても考えても分からないというのが本音だ。2人が共通して抱えている記憶にはそれぞれ『今一色 翔』の顔と姿がちらつく。


「レギナ……レナの姿を見たか?」


「いいや、彼女はこちらで指名手配を引かれていた。もし会ってたら功績を挙げてこんなところにぶち込まれてはいないだろうさ」


「……」


 手をジャラジャラと震わせて全く分からないというアピールをするエギルの姿を見て肩を落とすガレア。あの時、彼に誘拐されて連れされたレギナ=スペルビアの行方をつかむことなくガレアはここに捕らわれてしまった。その事が食事の時も、筋肉トレーニングの時も気になってしょうがなかったのだ。


「九番隊が解体された後はどうなった?」


「十番隊が設立。隊長はアラン=アルクスが担当。ついこの前正式に部隊の設立が認められて活動中だ」


「構成メンバーは?」


「九番隊にいたほとんどの人間が退役も命じられて、新しく王都から派遣された騎士団たちで十番隊を形成したらしい。お前たちみたいな一般人からの募集ではなくな」


 もともと9番隊の人間たちは一般市民から募集で集められた兵士たちが大半だ。残りは王都からの人間だが、それでも王都の部隊からはじき出された人間たちが集まるような落ちこぼれの部隊だった。


 それを、彼女。レギナ=スペルビアは立派な一つの部隊になるまでまとめ上げ、鍛え上げたのだ。


 だが、同時期に来た彼。アラン=アルクスがその部隊を解体。そして、今現在ガレアはここに捕らわれている。罪状は王都反逆への容疑だそうだ。


 ふざけてる。


 血反吐を吐く思いで王都に仕えて来たというのになぜ、このようにして捕らわれるような仕打ちを受けなければならないのだ。


「はぁ……どうしてこんなことになっちまったのかねぇ……」


「そんなの決まってるだろ」


「……なに?」


 突如そんな独り言に反応したエギルの言葉に、ガレアが反応し、足につけられた鎖がジャラリと音を立て独房の入り口に設けられた鉄格子に頭をくっつける。


 その言葉に含まれた若干の悪意に、2ヶ月間閉じ込められていたストレスがうまくリンクしたのだ。今ここで、一つ暴れて発散させておくのもいいだろう。


 だが、向かい側の独房から見えるエギルの表情は実に清々しい。


「さっき自分で言ってたじゃないか『酒癖の悪さ』だって。この短期間で、自分の言ったことを忘れるとは。とうとうヤキでも回ったか?」


「……ぷっ……ガッハッハッ! そうだったそうだった。そうだったなぁ、それでお前は妹がらみか。はぁ〜、いやぁ久しぶりに笑ったわ」


「そうだ、どうせ俺たちが捕らえられているのもこんなくだらん理由さ」


 下らない、確かにそうだ。


 実際に起きてないことを理由にここで捕まっているわけだ。そのように考えて来たら、これはこの牢を出た後には笑い話にでもしてやるか。


 そんなことを思いながら牢の天井を眺めていると廊下から何かが聞こえて来る。足音ではない、人の足音でもない。


 この音は、


 鳥?


 そして、その音はどうやらエギルにもわかっていたようだ。2人して向かい合わせになりながら、牢の鉄格子から顔をのぞかせ暗い廊下を覗き込む。すると、松明の明かりに照らされて一羽の青い小鳥が廊下の中を飛んでいるのが見えた。


 こんな地下に一体なぜ。


 だが、その小鳥は迷う様子もなく、ガレアの牢の鉄格子の中へと入って行った。そしてその鳥は、人懐っこくガレアの足元に足を擦り付けながら寄って来る。


「おいおい、どこから入り込んだんだ……ほら、ろくに体も洗ってねぇから汚ねぇぞ?」


 だが、そう話しかけたところで鳥が人の言葉をわかるはずはない。仕方がなく、ガレアは指を差し出し青い小鳥をそこに乗っける。


 チルチル鳴く小鳥の姿はこの狭い独房の中で凝り固まった精神を優しく和らげてくれているような気がした。


「おい、どうする気だ? さっさと帰してやれ」


「あぁ、だがなかなか離れなくてよ……ん? 何だ、お前は『チル』って名前なのか。可愛いなぁ」


「はぁ……マジかよ……」


 ガレアはこんな見た目だが、可愛いものには目がない。


 そして、小鳥と戯れる筋肉ダルマの姿を見たエギルは、どこかで読んだ怪物と一国の姫が結ばれるだなんていう物語の端くれを思い出していた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「我が旧友、よくきてくれた」


「サーのお呼びとあらば、いつでも」


「さて、今日君は。この世界の真実を知ることになるだろう」


「……それは、一体……?」


 ペンドラゴンの普段いる塔の中で、アランは彼から突拍子もないことを聞いたと思った。もとより、彼は普段から表をなかなか見せることがない人物ではあった。そんな彼が『世界の真実』という言葉を口にした。


 それが、一体何を意味するかはアランには分かった。


「その表情を見る限りだと、気づいているようですね」


「……聖典に関わることですか」


「あぁ、その通りだ」


 徐に立ち上がったペンドラゴン、その長い髪を差し込んだ太陽の光が透かすように白銀の髪がかすかに揺れる。


 彼は、本棚の前で立ち止まると一冊の本を持ち出そう、とせずに奥へと押し込む。その瞬間、ガコンという音と共に、本棚が横にスライドしてその奥から人が二人分入ることができるような小さな部屋が現れる。


「さぁ、こちらへ」


「……はい」


 あっけに取られたアランを優しく手招くペンドラゴン。この数年、彼の部屋に通い続けたが全く気づくことができなかった隠し通路、だが今はそんなことはどうでも良かった。


 この先に、自分の知りたかった真実が待っている。


「少し揺れると思うが、安心しなさい。定期的に修復は重ねている」


「……わかりました」


 部屋の中に入ると、ペンドラゴンは壁に備え付けられたボタンを押す。その瞬間、小さな揺れと共に、アランは今まで感じたことがない浮遊感に襲われる。


「この技術は、私たちが開発したものではない。これは、無色の国では普通にあった技術だそうです」


「これは……」


「階段を使わずに、高いところから低い場所へと移動する技術……私は昇降機と呼んでいますがね」


 部屋の壁の一部はガラスになっており、そこから伺えるのは確かに自分たちは直線的に上から下に移動しているということである。


 そんな光景を眺めていたアランの目に驚愕な風景が飛び込んでくる。


 それは城の地下と思しき場所。そこには巨大な地下空洞が広がっており、その広さはこのメディウムの広さとほぼ同等の広さはあると見ることができた。


「この王都、メディウムが何の輸出で成り立っているかは知っていますね」


「……はい、魔石です」


「今、君が目にしているのはその魔石の産出地です」


「ここが……」


 目を凝らしたアランがよく見ると、確かに壁には原色の濃い魔石のようなものが埋まっているようにも見える。そして、それを採掘しているような人物が無数に蠢いているのも見ることができる。


「ですが、魔石は本来。私たち、色を持つ民にとっては毒なのです」


「毒、ですか」


「魔石一個や二個程度ではどうこうなる問題ではありませんが、このように、魔石の産出地で直接働くと徐々に自分の色が汚染されてゆくのです」


「なら、ここで働いている人間は……」


 アランの目の前で魔石を採掘している人間。その男女問わず、種族問わず、年齢問わず様々だ。であるとするならば、共通点は。


「彼らは全員無色の持ち主です」


「無色の……、なら。聖典教会が行ってきた無色狩りで連れてこられた人間がここに……」


「えぇ、そうです」


「ここで働かせるためだけに、ここに連れてこられた。というわけですか」


 アランの拳を握る手に力が籠る。それは紛れもない怒りだった、ただこうして暗闇の中で働かされるためだけに、家族と引き離され、もしくは大切な人を失ってここに連れてこられたのだと。


「我が旧友よ。あなたの怒りも尤もです。ですが、それでも成さなくてはならないことがある」


「成さなければならないこと……?」


 昇降機が動きを止め、目の前にひらけた空間が広がる。そこではアランが今まで見たことのないような物体が立ち並んでおり、そこには十数人の人間が物体に向かって何かを操作をしたり、数値をチェックしたりしていた。


「サー。お疲れ様です」


「進行状況はどのくらいかな?」


「全体の65.2%完了といった具合でしょうか。想定している進捗より7%遅れが出ています」


「なら、急がせなさい。遅れが出れば出るほど、後がなくなります」


「了解です」


 一人の若い聖典教会の白いローブを羽織った服装をした男が、ペンドラゴンに報告を行い、そしてすぐさま作業へと戻ってゆく。アランは目の前で行われている会話の内容を理解できないまま呆然と立ち尽くしていた。


「サー……、これは一体何なんですか」


「……予言、この言葉が真実になろうとしています」


「予言……ですか……?」


 予言。それは、王都聖典教会がひた隠しにしている最重要機密である。アランは正式には王都聖典教会のメンバーではないため、その事実を知ることはない。だが、長年追いかけてきた真実が今明かされそうになっていた。


「かつて、我々は無色の民、魔を持たない王。魔王の企む大量殺戮兵器の発動を阻止するために、勇者召喚を行い、無色の国を壊滅に追いやりました。ですが、事実は違った」


「違った……?」


「大量殺戮兵器は、なかったんですよ」


 淡々と事実を語るアランの固定概念が崩れていく。今まで聖典で学んでいた事実が異なっていたことに、吐き気が起こりそうになっている。


「なら、無色の民は。魔王は一体何を作っていたというんですか……っ」


 アランの脂汗が浮かんでいる表情とは裏腹に、涼しい顔をしているペンドラゴン。そんな彼が部屋の奥へと進んでゆき、その後をついてゆくアラン。部屋の奥のガラスの向こう側には、巨大な塔のようなものが立っており、その塔の下ではこの地下空洞で働いている人間が回収した魔石を塔に向かって投げ込んでいる。


「これは、無色の民。魔王が作り上げたもののレプリカになります」


「レプリカ……?」


「そう。まだ完成に至ってませんが、王都騎士団発足からずっとこれの完成を目標に動いていました」


「これはいったい何なんですか」


「大量殺戮兵器……かつてはそう呼ばれていましたが」


 これは、世界を救う砲台です


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