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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第四章 黄の色
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第174話 大事な物の場所の色

 ここに来るまでの食事はどうしていたかといえば、翔の他にも料理が得意な女子二人組がいた為、あまり翔自身が腕をふるう機会はなかった。そもそも腕をふるうこと自体が今難しいわけだが、この日の料理はメルト作の煮込みビーフシチューだった。作り方は、翔が教えたものである。


「美味しいです。自分が作るのよりも美味しいですよ」


「ありがとうございます。ショウさんの教え方がうまかったからですよ」


 そう言い合いながら、左手を使ってなんとか食事をしている。工房の玄関のソファーを取っ払って、全員が地面に座っての食事となったが。


「……うめぇ」


「良かったです」


 バンも、ビーフシチューを一口含むと感嘆の声を上げる。その隣でジジューがパンを浸して食べて、その隣でハンクが器をこっちに差し出しお代わりを要求している。


 やっぱり、食事は人が多いほうが楽しい。


「そんで、設計図どうする気だ?」


「……ですよね」


 バンの質問は最もだ。


 さて、前回の話を振り返ろう。まず、この剣は第一世代と呼ばれる錬金術の賜物だということだということがわかり、そして剣身に使われている素材は『月の涙』と呼ばれる鉱物で、その名前の通り、月からの飛来物を加工して作られたものだというらしい。


 そして、それらの修復には設計図が必要だというのだ。


 設計図とは、当然ながらこのパレットソードの設計図だろう。だが、そんな第一世代、ましてや聖典の聖遺物の設計図など翔が持っているわけがない。そして、その設計図を一番所有していそうな人物は、この剣の作者を先祖に持つペンドラゴンだろう。ただでさえ、こんな状況であるというのに、接触を図ろうなどと自殺行為も甚だしい。


「でもおかしくない?」


「何がです?」


 口にモゴモゴとパンを突っ込んでいたジジューがぽつりとこぼす。全員の視線は自然と彼女に集まった。


 そして、ゴクリと喉を鳴らし飲み込んだ後、再び口を開く。


「だって、その剣を狙っている理由って、予言に関係しているはずなんでしょ?」


「まぁ、そうらしいですけど」


「だとしたら、そう言った大事なことって、設計図に書いておかない?」


 ジジューの言葉を聞き、翔は左手で顎を触り考え込む。確かに、彼女の言うことにも一理ある。彼女の言いたいことは、予言の内容でこの剣が大きく関わっているだがそれが何であるかわからない、故に剣を狙っている。だが、そう言ったことは大抵設計図にこと細かく示されているはずだろうと。すなわち何が言えるのかというと、ペンドラゴンはパレットソードの設計図を持っていないのではないかと考えられるわけだ。


 しかし、その逆も考えられる。


 設計図に書いてあるがゆえに、パレットソードを狙っているということも考えられる。どちらかといえば、こちらの方が可能性が高い。そんな神話級の代物の設計図なんか、当然受け継がれているはずだし、何よりこっちの方が考え方としては自然だ。


 だが……


 前者の可能性もゼロではない。


「だとしたら、どこに設計図を隠すかよねぇ……」


「....」


 全員軽く息を吐き、考え込んでしまう。パレットソードがこのまま直せなくなるというのは、サリーたち精霊が今どのような状況にあるかわからないということだ。衰弱しているのかわからないが、日に日に鞘にはまっている精霊石の色は燻んでゆき、徐々にただの石みたいな色に変化しつつある。絶対に良くない状況だというのは一目瞭然だった。


 そのままでいいかと言われれば、答えはノーだろう。この旅で彼らには世話になったのだ。ここで一つ恩を返しておかなければ、寝つきが悪い。


 だが、どれもこれも設計図がなければそれも叶わない。


 と思ったその時。


「ねぇ、いつまで僕のこと無視するんだよぉっ! お代わりっ!」


「あ、すみません。ハンクさんっ」


 今の今まで、ずっとお椀を持って待機していたハンクが涙目になってお代わりを訴える。それにようやく気付いたメルトが、慌ててハンクからお椀を受け取り、中にビーフシチューを注いで行く。


 それを受け取り、早速がっつくハンク。だが、一瞬彼の手の動きが止まった。


「でもさ、設計図って大事なもんだろ」


「まぁ、そりゃぁ……」


「だとしたらさ、一番手元に置いておきたいわけじゃん」


「だな」


「もしかしたら」


 そういって、ハンクのスプーンがパレットソードを指す。


「この中に、設計図があるんじゃねぇのか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「バラすぞ」


「戻せ……ますよね?」


「物による」


 パレットソードは現在『炎下統一』の姿をしているため、柄と刀身の外し方は日本刀のそれと同じである。まずは、目釘を抜き柄を優しく叩くと徐々に柄と刀身が外れかけてゆく。


 そして、


 カランと軽い音を立てて、刃の部分が地面へと抜け落ちた。


「まずは、外せたな」


「ですね」


 バンと自分。そして、周りにはそれをまるで実験を見守る小学生のごとく目をキラキラさせてその様子を見ているメルトとハンク、そしてどこから出したのかわからないが、一升瓶を抱きながらその様子を見ているジジュー。彼女に至っては、もう色々とあべこべである。


 そんな姿背後に、地面に落ちたパレットソードの刃を持ち上げるとちょうど持ち手と刃の部分を接続していた部位に何かが掘られている。もしやと思ったが、見てみるとそれは、何かのメッセージのようだ。


 目を凝らし、見てみる。


『平和あれ』


 たったそれだけが彫り込まれていた。


 正直、ふざけるなといった話だ。聖典は偽り、その本質は、この剣を勇者に持たせ散々迫害した挙句、罪のない無色の国を滅ぼした兵器だ。であるのにもかかわらず、『平和あれ』というのはなかなかに片腹痛い。


 刃の部分は、折れているにしても40センチ以上はある。だが、それはつまみ上げるだけで十分に持ち上げることができた。本当に、月からの隕石で作ったとは思えない。


「持ち手の方にも何もねぇ。ハズレだったようだな」


「う〜ん、ありそうだと思ったんだけどなぁ....」


 バンの回答を聞き、ハンクが少し残念そうに肩を落とす。見れば、持ち手が回転する部分も分解をしており、回転する部分を外すと、そこには銀色の基盤のように細かく張り巡らされたような模様が描かれている。なんだか、これでは剣を分解したというよりも、機械を分解したみたいな感じだ。


「つくづく気味の悪い剣だぜ、まったく」


 そう言って、バンが元どおりしようとしたその時だ。ちょうど地面に落ちている一枚の細長い布に目が止まった。


「これは?」


「あぁん? あぁ、それは持ち手の滑り止めだな。調べたけど、何も書いてねぇただの布だよ」


 落ちた布を拾い上げる。確かに、かなりすり減って薄汚れているものの、しっかりと持ち手の滑り止め代わりにはなりそうな布だ。そして、裏表確認するも、何も書かれておらず、やっぱり思い違いかと思う。


 しかし、そこでハンクの言葉が頭をよぎった。


『一番大事なものって、一番手元に置いておきたいじゃん』


「……まさかな、メルトさん」


「はい?」


 布を握りしめ、メルトと顔を見合わせる。確か、今日のメニューはビーフシチュー、そして自分がその時に必ず入れる隠し味がある。


 それは、


「レモン、ってまだありますか?」


「え? レモン……ですか?」


「えぇ、もしあったら切ってレモン汁を使いたいんですけど」


「わ、わかりました」


 少し困惑気味で、工房を出たメルト。数分して、四つにカットしてきたレモンを皿の上に乗せて戻ってきた。彼女に礼を言い、そしてそれを皿の上で搾り取る。


「何する気だ、坊主」


「まぁ……うまくいったら褒めてくださいよ」


 皿の上に溜められたレモン汁を指で拭い、それを広げて床に置いた先ほどの布の一部に染み込ませてゆく。染み込んだレモン汁は、特に何の変化もなくそのまま布に染み込まされていった。


 だが、


 その布を持って、工房で鉄を溶かすための溶鉱炉のそばまで近づけて行く。


「ショウさん……?」


「もしかしたら……」


 しばらく、その布を溶鉱炉の火のそばに近づけてみる。裏側から、真っ赤な炎が透けて見え、かなりの温度で熱せられた布はもはや燃えるのではないかと誰もが思った、


 その時。


「っ!」


 レモン汁を染み込ませた一部分に変化が生じた。


 熱せられ、あぶり出したその布にははっきりと文字のようなものが浮き出てきたのである。


「いますぐペンを。それと、大量のレモン汁っ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 確か、亜鉛反応だったか。昔見た映画でこんなシーンが出てきて、それが何らかの手がかりになるというのがあったが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。


 そして、やっぱり一番なものは手元に置いてあるものなのだということを痛感した瞬間でもあった。


「一応、全部書きだせたわね」


「すごい量……」


 あぶり出された文字は、時間が経つと消えてしまう。なので、あぶり出した文字の上をペンでなぞってしまえば消えることはない。それを布全体に少しずつレモン汁を垂らし、熱して全員で手分けをして行ったのだ。


 そして、浮かび上がったのは。


 このパレットソードの全体像。そして、内部構造から、魔術回路の細かい詳細をくまなく書き込んだ一つの設計図だった。


「....鍜治屋やって百八十年になるが、こんなもん、初めて見たぜ....」


「えぇ、なんかすごいのはわかります」


 そこに書かれているのは、彼女たちのよく使う言語ではない、自分だけが読める精霊文字が使われている説明書きだ。翻訳は自分が行うものとして、これさえあれば、おそらくバンはパレットソードを復活させることが可能なのではないだろうか。


「そんで坊主。ここにはなんて書いてある?」


 バンがしゃがみ込み、魔術回路を示した一部分を指差し翻訳を求める。


「えぇっと、『回路に満たすは、生命の起源なり』なんか抽象的ですが……」


 そう、こういった表現もしばしばあるため、完全に設計図としては意味をなしていないのである。


 だが、バンは『生命の起源』という言葉に対し、顔にシワを寄せブツブツと何かをいっている。だが、しばらくして。大きく目を見開いたバンは、大きく舌打ちをし、設計図を思いっきり殴りつけたのである。


「な、どうした……っ!?」


「どうしたもこうしたもあるかってんだっ!」


「え、な……」


 すると設計図を大きくクシャクシャに丸め、それを溶鉱炉の中へ放り込もうとし始める。大慌てで自分とジジューが止めに入るが、一向に止まろうとしない。一体何が。


「バンさんっ!」


「いいかっ! 『生命の起源』てのはな」


 生贄なんだよっ!

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