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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第四章 黄の色
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第165話 揺さぶられた色

「さて、まずは私がここに来た理由を話すべきかな?」


「……そうですね。もし、自分と関係ない内容であれば是非、自分と彼女を通していただけますか?」


「……残念ながら、それは無理な相談というものだ」


 その顔は、さっきまで対面していた時と全く変わらない微笑みだ。だが、彼の言葉には有無を言わせない圧力を感じる。


 背後に立つメルトをかばいながら、一歩身を引く。その動きに合わせるようにしてペンドラゴンは一歩ゆっくり前へと進む。すでに、自分の左手はパレットソードの持ち手にかかっている。


「君が今、左手に持っているその剣に用があってね」


「こいつに……?」


 彼が静かに目線を向けているのは、自分が今左手に持っているパレットソードだ。だが、一体なぜ。


「その剣の正体、君はもうすでに知っているはずだ」


「はい、確か聖典の勇者の持っていた剣だと……」


 そう、それは救国の勇者の持っていた剣。だが、実際にはその勇者もろとも無色の国を吹き飛ばすために使われた兵器だということも。


 だが、その回答に対して彼は軽く頷き、こう答えた。


「半分正解で、半分不正解かな」


「……は?」


「原典については私も知らないわけではない。そして、その剣がどのような使われ方をしていたかも」


 そう言いながらジリジリ近寄ってくる彼に対し、自分はただただ後退を続ける。後ろの方で、メルトが軽く自分のローブを握りしめる。


「ショウさん……」


「大丈夫です……それで、あなたは何が言いたいんですか」


 軽くメルトの方を振り返り、そして再びペンドラゴンへと向き合う。そこで、彼の歩みは止まった。


「その剣は、あの戦いの後。行方が分からなくなっていた。にもかかわらず、君はその剣を手にしている。それは一体なぜかな?」


「……拾ったんです」


「確かに、君は嘘を言っていない。だが、それを何の縁もなく、目の前にあったから。などと、君は断言できるのかな?」


「それは……」


 断言はできない。


 自分がこの世界に来た瞬間、そして自分の足元に落ちていたこの件。全くもって無関係だと言えるのか。いや、それはない。だとしても自分に一体何の関係があって。


 思い返されるのは、レベリオの船の上で聞いたウィーネの言葉。


『アンタは……っ! あの剣を受け継ぐ者っ、あのバカの意思を継ぐために生まれた、世界に裏切られ、勇者と讃えられた道化の魂を受け継ぐ人間……っ!』


 その言葉が本当であるのならば、自分はきっと……。


「それとだ、もう一つ話すのならば。その剣の作者である、私のご先祖様からの言い伝えでね。その剣は必ず王都に納めなくてはならないものなんだ」


 突然の発言に頭の整理が追いつかない。混乱している頭が状況を判断しようにも、逃げるべきだというのはわかっているのに、その話の続きが気になってしょうがない自分がいる。


『ちょっとっ! しっかりしなさいっ』


「うわっ」


 突如耳元で叫ばれた声は一気に混濁した思考を覚醒させる。ふと耳元に目をやると、そこには懐かしのミニマムサイズになったウィーネが肩にちょこんと乗っかっている。


『今は逃げるときでしょっ! あんな爺さんじゃなくても、私が教えてあげるわっ! 私を使いなさい、守りながら逃げるのは大得意よっ!』


「っ、いきますよっ」


 言われるがまま、腰のパレットソードの持ち手を回転させる。


 鞘の青い精霊石が輝き始めた。


 その姿を見たペンドラゴンの表情がピクリと動く。


 一瞬だが、口元が動いたような気がした。


 だが、そんなものには目もくれず一気にパレットソードを引き抜く。その瞬間、パレットソードの持ち手は槍の持ち手へと変化し、鞘と剣は同化して、鞘の先端が槍の先端に変化する。


『水面刺鏡』


「……なるほど、使い方は知っていたようだね」


「そうでもしなきゃ、生きていけなかったもので」


 そう。


 自分は、このよく分からない剣の、よく分からない能力に何度も救われてきた。だが、


 あまりにも、無知である自分には大きすぎる力だと思った。


 槍を右手に構え、先端近くに左手を添える。


「そこをどいていただけますか? なんであれ、この剣をあなたには渡せません。何に使うかわかりませんが、どうか部下の方と一緒にお引取りを」


「それはできない。君がおとなしく私についてくるというのならば、私は部下を連れて戻ろう。当然、後ろにいるお嬢さんの身の安全は保障する。どうかな」


『ダメ、行っちゃダメよ。あの爺さん、嘘をついてる』


 槍を握る手に力を込める。すると、土の水分が槍の周辺に集まり、渦を巻き始める。


 メルトの身の安全が確保され、彼らがこの家から手を引く。だが、それでは、今自分のために戦っているであろうエギルはどうなる。必死に約束を果たさんと戦っている彼の意思を無駄にするのか?


 当然、できるわけがない。


「もう一度言います。そこをどいていただけますか?」


「……では、わかった。返答しよう」


 するとペンドラゴンは、軍服につけているマント取り外し地面へと放り投げた。だが、腰に差してあるはずの武器は抜いてこない。


 軽い林の裏庭に風が吹く。


 舞い上がった木の葉が、一瞬視界を横切った。


「抜かないんですか?」


「君を殺しに来たわけではない。それに、この状況では剣を抜かない方が合理的かな」


「……わかりました」


 一歩。


 一気に駆け出した瞬間、足元の地面が一気にえぐれる。


 木の葉の散る中、微笑んだままのペンドラゴンに向かって迫り込む。自分だって彼を傷つけようとは毛頭も思っていない。


 無力化、それ以外方法はない。


 ペンドラゴンの数歩手前で、槍の先端を地面に突き刺す。その瞬間、地面から数本の水で編まれた鎖が一気にペンドラゴンに襲いかかる。


『水鎖っ!』


 それはそれぞれペンドラゴンの両腕、両足に向かって伸びる。


 だが、


「なるほど」


 ペンドラゴンはその場から少しも動かない。


 それどころか、まるで珍しいものでも見たかのように微笑んだままだ。


 次の瞬間。


 ペンドラゴンの手がスッと動く。そして、手の先が鎖に軽く触れた時、鎖がまるで内部から破壊されたかのようにその場で弾け飛んだのである。


「な……っ」


「ここまで大量の水を操るものはなかなかいない。だが、青の魔術特有の水脈を刺激すれば、その魔術は」


 内部から破壊できる。


 すぐさまに回避、後ろへとまた逆戻りだ。


 槍を構えた状態で今度は、自分の目で見える空間の水脈を絶ってゆく。そして、それらに一気に魔力を押し流す。


水槍投影すいそうとうえいっ!』


 その瞬間、水で複製された槍が数本両側に形成される。


 左足を思いっきり引き、そして槍を低空姿勢で構える。


『水槍射出っ!』


 形成された槍は空気中の魔力の水脈に乗って一気に射出される。射出された複数の槍の流れに乗り、再び攻めにかける。


 だが、水脈の流れに乗った槍の軌道は全て読まれているかのようにペンドラゴンは躱してゆく、このままでは隙をついてメルトだけを逃すという方法も取れない。


 もらうのは両足でいい。


 両足さえ封じてしまえば、自分たちのことを追うことはできないだろう。


 次の瞬間、上空から迫った数本の槍を回避するためにペンドラゴンが地面から足を離して飛び出す。


 その一瞬、自分も地面を蹴り槍の先端をペンドラゴンに向ける。


 だが、


「やっぱりね」


「っ!」


 両手から何かを打ち出したペンドラゴン。空中で槍の先端をすれすれで躱し、こちらに方向転換をする。


 突如迫るペンドラゴンの顔に対応ができない。


 そして、突き出した槍は彼にガッチリと掴まれた。


「君、やる気があるのかな?」


「ガっ!」


 一気に引かれた槍に体がペンドラゴンに近づく、そして迫った右手が自分の顔面を掴み、そのまま地面に後頭部を抉りこませた。


 激痛は感じなかった。だが、意識がどこかへ遠のく感覚。全身から自然と力が抜け出る。地面にめり込む後頭部の感覚がした頃にようやく激痛が目の奥で爆ぜる。しかし、それだけには止まらなかった。


 押さえつけられた右腕と、自分の槍を未だに掴んでいる彼が何やら唱えている。その瞬間、全身が抉り返されるかのような激痛が走る。それと同時に、頭の中のウィーネの声も悲鳴を上げ始めた


『イヤァァアッッッ!』


 そして、ブツリと電源が切れるような音が響いた瞬間、右手で持っていた槍が激しい音を立てて、元の剣へと姿を戻す。


「使い方を知っているようだが、まだ使い慣れてはいないようだ」


「く……あっ……」


 意識が消えそうになる。


 掴まれていた剣が地面へとドサリと音を立てて崩れ落ちる。


 こんなの、敵うわけがない。


 おそらく、このパレットソードについて彼は余さず熟知している。弱点も、そして扱い方も。だとすれば彼に勝つ方法は自分の素の強さのみだ。だが、それですら彼には到底敵わない。


 詰みだ。


「予言を君は知っているかな?」


「……っ」


「私の先祖は剽軽なものでね、無色の国で得た予言の鍵をその剣に彫り込んでいると知ったのだよ」


 鍵……


 ダメだ、思考が行き届かない。


 ものすごく重要なことのはずなのに、全く頭に入ってこない。


 このまま、自分は捕らえられて。でも、その前に、エギルさんは、そして、メルトは。


「ショウさんっ!」


 いつかきっと、戻ろう。


 約束。


 まだ、諦めてはいけない。


 諦められない。


「く……っあ!」


 右手に持った剣の持ち手をペンドラゴンの腕に思いっきり身体強化術を乗せて殴りつける。だが、とっさに手を離した彼には掠りもしない。


 だが、その一瞬で起き上がり、すぐさまメルトの方へと向かう。


「ショウさん……っ!」


「大丈夫……いいですか。もし自分が捕らえられても、走って逃げてください」


「え……?」


「いいですか。絶対ですよ」


 頭から流れた血がヌルリと顔を濡らす。


 ようやく全身の感覚が元に戻ったところだ、パレットソードを腰に戻し、右手に添える。ふと、鞘にはまった精霊石を見ると、青い精霊石のみがくすんで見える。


 おそらく、ペンドラゴンが使ったのは精霊石の力を封印するための魔術。精霊石を封印されてしまえば、こちらの負けは必須。


 なら、封印される前に眼前の敵を叩き斬る。パレットソードを鞘に納め持ち手を捻り接続するのは赤の精霊石。


 姿勢を低く、


 これが、おそらく最後の反撃。


 全てはこの一撃に全力を注ぐ。


 呼吸を整える。


 おそらく目の前の敵は自分のことを舐めている。なら、その隙に漬け込むしかない。だがそれでも、勝率は一割あるかないか。


 目を見開く。


『今道四季流 剣技抜刀<夏> 風渡』


 左足に込めた力で爆発的勢いで間合いを詰める。


 すでに射程距離内のペンドラゴン。


 手首を勢いよく捻らせ、全身に炎を纏い速度を乗せながら剣を引き抜く。同時に炎に包まれながら刀に姿を変えるパレットソード。


 勝てるか勝てないかはわからない。だが、メルトが逃げれるだけの時間さえ、稼ぐことができたら。


 引き抜いた剣はそのまま、ペンドラゴンの足に迫る。そして、そのまま入り込むかと思ったその時。


 激しい火花が横で散った。


「な……っ!」


「なかなか面白いな、君は」


 ペンドラゴンが一歩前に踏み入れ、抜刀術を防いでいる。そして、その防いでいる代物は、彼の横につけているレイピアのように細い剣だ。だが、その剣は完全に破壊されることなく、パレットソードを防いでいる。


 そして、


 その剣の色、自分がよく見慣れている真っ白な姿をしていた。


「これは抜かないと思っていたのに、抜かされたの初めてだ」


「く……そっ」


「だが」


 これで終わりだ。


 次の瞬間、少し力を込められた時、


 右手に持ったパレットソードがレイピアの力に押し負け、一気にヒビが入り込む。さらに数歩、力がこもった瞬間。


 突如、右手の感覚が軽くなった。


 それと同時に、視界の横でパレットソードの刀身が太陽に照らされながらクルクルと飛んで行く。


 それは、地面に何の抵抗もなく刺さった。


 今まで、幾度となく戦ってきた中で刃こぼれすらしなかった剣が、今ここで。


 完全に、破壊された。


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