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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第四章 黄の色
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第159話 歴史の色

 これは翔がメディウムに入る、少し前の話である。


「入りたまえ、我が旧友よ」


「失礼します」


 穏やかな陽光差す部屋に入り込んできたのは、白い法衣を着込んだ男性。首から下げたペンダントから聖典の信者であることがわかる。だが、腰から下げた二丁拳銃と履いているブーツから覗く短剣からただの信者ではないということがわかる。


「この度は、十番隊発足、および隊長への昇格おめでとう。我が旧友よ」


「こちらこそ、昇格の時はお力添えありがとうございます。サー・ペンドラゴン」


「お互い、一つの部隊の隊長という身になったのだ。堅い言葉は抜きとしよう」


 部屋にある大きめなソファーへと案内した初老の男性は、その朗らかな表情のまま変化がない。案内された男はソファーに座るとそこで、初めて法衣のフードを外した。


 アラン=アルクス、王都騎士団十番隊隊長に昇格した騎士団の一人だ。


「さて、忙しいところで悪かった」


「いえ大丈夫です。部下が優秀なものですから」


「なるほど。だが、どうやら君の部隊には聖典の信者が多いと聞く。王都聖典教会の人間も多いようだね」


 その言葉に、アランがピクリと反応をした。しかし、彼のその無表情は崩れることはなかった。


「えぇ、確かに多いです。何か問題でも?」


「いや、もともと騎士団は信仰心の厚いものが多い。王都聖典教会の者も騎士団に加わるような時代になったかと思ってね」


 そう言いながら、用意していた紅茶を一口含むと一言「うまくできてる」と言ってカップをソーサーに置いた。


「父君も喜ばれるだろう。ただ無理は良くない、しっかりと王都騎士団に恥じぬように万全の状態で行動ができるようにしなさい」


「ありがとうございます」


「ところで……色落ちの隊長はどうしたのかな? いつの間にか報告が途絶えていたが、見つけることができたのかね?」


 アランがテーブルの上に乗った紅茶に手を伸ばそうとし、その手がふと止まった。そして、止まったてはそのままカップを掴むことはなく、膝の上に戻った。


「えぇ、見つけることはできました。ですが、結局逃げられて捜索を行っているものの、いまだに有力な情報は集まっていません」


「君が……九番隊を解体して、新たに十番隊を設置したことは知っているのかな?」


「えぇ、知っているはずです。直接言いましたからね」


 無表情のまま、淡々と答えるアラン。そして、再び手を伸ばしカップを持つと紅茶を一口含ませ、軽く息を吐く。


「そうか……彼女はどうだった?」


「どんなだった……一言で言うなら、『絶望』でしょうか? 今まで信頼してきた部下に自分の部隊が潰され、ましてや新しく設立した部隊に追われる羽目になるんですからね」


 淡々と語るその表情。無表情だったはずのその顔には若干ではあるが笑みを感じ取れた。それを聞いたペンドラゴンは、無言のまま立ち上がると戸棚から一冊の本を取り出した。


 古そうな見た目ではあるが、全くもって埃が付いていない。


「サー・ペンドラゴン。これは……?」


「この本は、私そのものだ」


 そうして、ほんのページをめくると最初のページには一枚の絵が挟んであった。そこには、若く髪を腰まで伸ばした若い男が映っている。だが、耳が人よりも若干長いことから考えて人間ではないということはわかった。


「これは、私が初めて王都からの勅命で王都騎士団を発足させた時に絵師に描かせたものだ。今見ても、青二才が背を伸ばしているようにしか見えない」


 そう言いながら次のページをめくると、そこには今の王都騎士団の軍服よりも古いタイプのものを着込んだ凛々しい顔つきの男が三人映っていた。


「発足したばかりの騎士団は三番隊までしかなくてね。当時一番隊隊長だった私と、二番隊のホルス=クレイトン。三番隊のキリエ=グロリア。二人とも、頼れる私の戦友だった。時には助け合い、時には争いもした。彼らだけではない」


 そうしてめくってゆくページの次には、再び違う人物の姿が描かれた絵が現れた。そして、つづられた絵には必ず真ん中にペンドラゴンが座っているのだ。一見すると気味の悪い絵ではあるが、ハーフエルフであるペンドラゴンだからこそできる所業ではある。そして、絵はだんだんと新しくなって行き、絵の中にいる人物も徐々に多くなってゆく。


 そして。


「君の父君だ」


「……」


 すでに数十人に超えた一枚の絵の中の真ん中には、金髪を肩まで伸ばし軍服を身にまとった背の高い優しい顔の男性が立っている。


 だが、その中にペンドラゴンの姿はない。


「私が初めて一番隊の隊長を他人に譲った、記念すべき一枚だ」


「……」


「この絵が一番のお気に入りでね。何にしろ私の人生は長い、故に何かを残せたような気がしたのだよ。これでようやく、思い残すことはないと思ってね」


 しみじみと語るペンドラゴンの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。その表情を横から覗いていたアランが本の次のページを開く。


 だが、そこにアランの父親の姿はなかった。


 かわりにいたのは、若干前の絵に比べやつれた感じのペンドラゴンだ。その絵を見た瞬間、ペンドラゴンは今までとは違いあっさりと次のページへと移ってゆく。


 そして、しばらくしてめくられたページ。そこには見覚えのある絵があった。


「これが一番新しい絵だ」


「……」


 そこには、ペンドラゴンの隣に立つ凛とした表情の女性。一見すると男性にも見えてしまうが、軍服からわかるわずかなボディーラインで女性であるとわかる。


「レギナ=スペルビア。王都騎士団始まって以来、初めての女性としての隊長だ」


「サー・ペンドラゴン、何が言いたいのですか?」


 すると、ペンドラゴンはレギナの映る絵を一枚取り出し、また前のページに戻り、今度はアランの父親が映る絵を取り出した。


「これを君に譲ろう。昇格祝いだ」


「……ありがとうございます」


 黙って、渡された二枚の絵を受け取るアラン。そんな彼の肩の上に、そっとペンドラゴンが手を乗せ引き寄せた。


「……我が旧友よ。君もまた、私の作った歴史の一部になるだろう」


「はい」


「後悔は……ないんだな?」


「……やっぱり。あなたには隠し事は出来ませんか」


「当然だ。ライが死んでから私が君たちの父親代わりだった。わからないはずがない」


 アランがペンドラゴンの肩に手をまわす。その温かな心に思わず身を委ねる。そしてしばらく抱擁した後、二人は離れアランは渡された絵を大事そうに腰に巻いてあった袋の中にしまった。


「辛い道だぞ、我が旧友よ」


「覚悟してます。俺は、最後まで戦います」


 そう、戦う。


 たとえ、今目の前にいる人物を裏切ろうとも、世界の全員を裏切ろうとも。


 為さねばならないことがある。

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