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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第四章 黄の色
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第147話 未知の色

 半月が過ぎた頃、翔一行は王都の一歩手前の街に滞在することとなった。ここいらになると街の規模も大きくなってゆき、ノワイエほどではないが建物も人も多くなっていた、それに伴って翔の顔の入った指名手配書のポスターが多くなっていった。


「にしても、翔いったい何やらかしたんだよ。こんなに手配書が回ってるだなんて、よほどの重罪人だぜ?」


「まぁ。王都騎士団に喧嘩売って。挙句の果てにそこの隊長を攫ってこのザマさ」


「王都騎士団に喧嘩って……、どうやったらそんな状況作れるんだよ」


 全くもってハンクの言う通りである。確かに、普通に、真っ当に生きていれば王都騎士団に喧嘩を売るなんてことには陥らないだろう。だが、売ってしまったものはしょうがない。


「とりあえず。このあと街で色々と動くだろうから、後ろの木箱の中に入ってるそいつ、つけておけよ」


「……なんだこれ? 仮面? マスク?」


 ハンクに言われた通り、翔は木箱の中を漁る。出てきたのはいかにも古そうな口元のみを覆いかぶす作りをしているマスクだった。


「そ、前に寄った古い廃城で拾ったんだけど。デザインが良くてさ、つい持って帰っちった」


「……」


 ハンクの説明に曰く付きなんじゃないかと問い掛けたいところだったが、確かにデザインは般若の下部分だけを切り取ったようなマスクで、かっこいいと言われてみればかっこいいが、それなりに年季の入っているそれを被るには躊躇してしまう威圧感はある。


「さてと、今日泊まる宿に着いたぜ」


「あぁ、わかった」


 馬車を所定の位置に留め、翔とハンクは今日泊まる宿へと向かう。フロントの犬の獣人の男性が翔の姿を見た瞬間一瞬驚いたような表情をしていたが、それでも通報するような素振りはなかったため、マスクの効果はあるように翔は思えた。


 宿は、二人一部屋で銀貨五枚。部屋の広さとサービス的に正規の値段より少し安い程度だったが、正直に言えば琥珀亭の方が居心地はいいなと翔は感じていた。


「さ・て・と。ではでは、翔さん? また俺の着せ替え人形になっていただきましょうかねぇっ!」


「はぁ……、わかったよ変態。それで、どうなんだ。僕の教えた新しい洋服のデザインは?」


「ん? あぁ『ワフク』ってやつね。うん、ボディラインが出ないから女性に人気が出そうなデザインだなって思ったけど、いかんせん作るのが難しくてさ。王都に行くまでに作るのは難しそうだなぁって思ったよ、うん」


 前回、居合道着を作ってもらった翔だったが、ここら辺で自分の普段着をいくつかハンクに作ってもらおうと和服のデザインについてわかる範囲で翔はハンクに教えていたのだったが、いろんなものを作る彼でもやはり和服のデザインは難しいらしい。


「あと、この腰の紐? 帯? これの結び方が慣れない人には難しいと思うよ」


「だよなぁ、やっぱりベルトみたいなので代用するしかないか……」


「でも面白いデザインだと思うぜ? 少なくとも、普通の人にはない発想だから色々参考になるわ。これ、あれだろ? 翔がいた、別の世界の民族衣装ってやつなんだろ?」


「そう。とは言っても、それを着てる人自体。自分の生まれた時代にはほとんどいないんだけどね」


「フゥン……こんなに綺麗なデザインなのに。なんでかねぇ、やっぱ着るのが手間だからかな?」


 と、頭を掻いているハンクには自分自身が別の世界の住人であるということは翔は伝えてある。最初は半信半疑だったが、日本の和服について力説したところ信じてくれたようで、翔の世界の洋服であったり、和服などのデザインをハンクに教えている最中であった。


 そして、ハンクに言われるがままに男性用女性用問わず様々な洋服を着せられデッサンモデルとして活動すること小二時間。すでに時刻は深夜を周り、側から見ればただの変態であるが、そんな状況に慣れてしまっている自分自身に翔はまだ気づいていなかった。


「よし、今日はこんなところで。お疲れさん」


「ほんとだぜ……、はぁ……眠い」


 ロリータファッションのままベットに飛び込む翔。頭につけたウィッグを取り外して床に放り投げる。その様はどこかシュールで、西洋美術でこの構図を描いたら少しは絵になるだろうとハンクは苦笑しながら思っていた。


「おいおい。商品にシワがつくだろ。自分の服に着替えてからベットに入ってくれよ」


「あぁ。ごめん」


 翔はゆっくりと立ち上がり、丁寧にロリータの服をパーツごとに脱いでゆき、ハンクに預けたあと、彼に追加で作ってもらった作務衣に着替えてゆく。


 明日も早いだろう。


 そう思い、ベットに再び飛び込もうとしたその時だった。


「隙有り」


「え?」


 突如、目隠しをされ目の前が真っ暗になった翔。あまりにも突然のことに翔は反応できなかったが、これをやった犯人は決まっている。


「ちょ、いったい何をっ!?」


「まぁまぁ、いいからいいから。黙って俺についてこいって」


 ハンクである。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 目隠しをされたまま翔と、そしてそれを扇動するハンク。側から見たらそういう特殊なプレイに見られてもしょうがないだろうが、幸いにも日付の変わる直前のためか街を歩いている人は少ない。深夜巡回をしている警備兵も男二人のうち片方が目隠しをされているような状態の彼らに声をかけるはずもない。


「な、なぁ。ハンク。どこ連れてくんだよ?」


「まぁまぁ。俺ちゃんに任せてついてきなって、天国ってやつを見せてやるからさ」


「……余計に不安なんだが……」


 そうやって手を引くハンクに悪意というものは翔は感じられなかった。少なからず、心配していた警備兵に突き出されるようなことはないと思った。


 そして、ハンクの歩みが止まる。


 耳から入る情報では人の気配を感じることはないため、どこか路地裏だということはわかる。


「ゆっくり、ゆっくり目隠しを外してみ?」


「……外すぞ」


 これで、正面に警備隊がいたらハンクを一発殴り飛ばして、その場を逃げるつもりだったが、目隠しを外した瞬間目の前に飛び込んできたのは、路地裏は路地裏であってもどこかピンク色の空気感に包まれた場所だった。


「……どこ、ここ?」


「やっぱり。翔はお堅いからなぁ、ここはな。俺が王都に来るたびに通ってる色街だよ」


「……は?」


 色街。その意味がわからないほど、翔は朴念仁ではない。ハンクの言っていることは用は、風俗街ということである。


「帰る」


「ちょっ! ちょっと待てってっ!」


「ぐぁっ!?」


 その場から逃げようとした翔だったが突如ハンクから後ろから羽交い締めにされ地面に転がる男二人。ハンクに腕で首をギリギリと絞められ、その腕を翔は何度も叩き拘束を解こうとするがより一層力が強まるばかりで一向に解けない。


「は、ハンク、ギブっ! ギブっ!」


「今日は俺の奢りだからさ、いいじゃんか、付き合えよぉっ!」


「わ、わかったっ! 付き合うっ! 付き合うからっ!」


 翔の必死の声にハンクは拘束を解く。しばらく地面にむせるように咳をする翔だったが、ハンクは逃がさないぞと言わんばかりに肩に手を回し翔にそのニヤついた悪巧みを考えている顔を近づける。


「よしっ! そうと決まったら行こうっ!」


「はぁ……、とんでもないことになった……」


 項垂れる翔に意気揚々なハンク、全く対照的な二人が色街の中を練り歩いてゆく。店先にはどこも露出の多い女性が立っておりこちらに向けて客引きをしているようだったが、翔は気恥ずかしくて周囲を見渡すことができない。


 そうして歩くこと数分。


 ハンクが一件の店の前で足を止める。


「あらら? おしゃれな洋服着てるって思ったらハンクじゃないっ! 二年ぶりくらいじゃないかしら?」


「ステラちゃんっ! おっ久っ! 元気にしてた?」


「最近来てくれなかったから寂しかったわよ。ささ、お店に入ってっ!」


 店先の青いドレスを身に纏った線の細そうな美女がハンクの手を引いて店の中へと導いてゆく。当然肩を組まれて精気を失って拘束されている翔と一緒に。


 店の中は少しだけ薄暗く、どこも女性の濃厚な香水の匂いで溢れかえっており呼吸をするたびに頭が揺さぶれるようなクラクラとした感覚がした。


 まずい、ここはとにかくまずい。


 翔の本能がそう告げているが、逃げることもままならず先程ハンクと話していた美女の話の矛先は翔へと向いた。


「あら、そちらの可愛いお兄様は?」


「ん? この人は俺が盗賊に襲われた時に助けてくれた命の恩人よ。すごいんだぜ、十数人の盗賊をパパッとやっつけちゃうくらい強いんだわ」


「へぇ、そうなの。冒険者の方? 強い人、私好きよ」


 そう言って手を握ってきた彼女の手は温かく、そして柔らかい。思わず顔を上げる翔の顔の線をゆっくりとステラは指先で艶やかになぞってゆく。


「長旅、ご苦労様です。お強い剣士様。私の大切なお客様を助けてくれてありがとう」


 そういうと、彼女はゆっくりと目を閉じ翔の頬にキスをする。思わず咄嗟に身を引いて反応してしまうが、その反応が面白かったのだろうか、それとも愛らしいと思ったのか。微笑んだステラは両手を重ね、ゆっくりと丁寧にお辞儀をする。


「今日は私のお店『エリシェ』で、十分に癒されてくださいね」

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