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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第四章 黄の色
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第146話 思いがけない出会いの色

 馬車の荷台に乗り込み、パレットソードを肩に携えながら翔は目を閉じ考えごとをしていた。


「考えごとかい? にしても、剣客ってのは考え事してても様になるってもんだねぇ」


「そんな大それたものじゃないですよ。それにしてもびっくりしました。まさかハンクも僕と同じ行き先だなんて」


「まぁ、商人やるんだったら王都って相場は決まってるからなぁ。あそこに行けば素材も困らないし、それに王都には美人が多いっ! それに限るっ!」


「ハハハ……、ハンクは洋服屋さんなんですよね?」


「おうよ。生まれた家が呉服店でね。肩っ苦しい田舎を飛び出していろんな国で服を売り捌いている行商人さ」


 そう言って周りを見渡す翔、馬車の荷台に積まれている木箱の中には洋服の素材となる布であったり、すでに完成品として荷台の壁にハンガーから吊り下げられている物もあったりした。そのほとんどが女性物だったが、ハンク曰く男性物は作ってもテンションが上がらないらしい。


「でも、ショウの服だったら今回の報奨金におまけして作ってやってもいいぜ? そこらへんにスケッチブックがあると思うんだけど、そこから好きなデザインを選んでくれよ」


 馬車を操るハンクの背後で、ゴソゴソとハンクの言っていたスケッチブックを探す翔。すると、木箱の中から数冊の羊皮紙でできたスケッチブックを発見し、それらを一枚一枚開いて見てゆく。


 スケッチブックに書かれている絵はどれもデッサンの域を出ないがよく描かれており、人族、獣人からエルフ、男女問わずさまざまな種族の人物がさまざまな服を着ていて、中には民族衣装らしきものをデッサンしたような物もある。


「すごいですね。こんなにたくさん、エルフにも会ったことがあるんですか?」


「おうよ、戦争が起きる前に描いたものなんだけどな。いやぁ、エルフのあの完成された顔と肢体。もう芸術品だろって感じでテンション爆上げでたくさん洋服作っちゃってさぁ」


「確かに、エルフの人は美人が多い……っ!?」


 スケッチブックをめくる翔の手が一瞬止まる。


 そこに描かれていた物、それはこの世界には存在しないはずのもの。


 ある意味、民族衣装ではあるが、それを着ている人種はこの世界を探してもきっとどこにもいないであろうそれは、翔にとってはひどく懐かしさを感じさせるものだった。


「ハンク……これは?」


「ん? これ? あぁ、俺のオリジナルデザインの服なんだけど。なかなか売れなくてね、結局作るのやめちゃったんだんだ」


「ということは……これは誰かが着ていたのではなくて……?」


「うん、そう。俺のオリジナル」


 翔の手に握られているスケッチブックに描かれていた物。


 それは、翔が普段地球にいた頃に道場で着ていた居合道着だった。


 まさかこんなところで地球で慣れ親しんだものをお目にかかれるとは露にも思っていなかった翔は唖然としたまま、スケッチブックを眺める。


「ハンク……僕、これにする」


「へ?」


「この服が欲しいっ! 在庫はあるか!?」


「ちょ、ちょっと落ち着けって。こいつは全然売れなかったから、今在庫はないけど、王都に着くまでには完成させるからっ!」


 喰ってかかるようハンクに詰め寄る翔。


 こうして、異世界にて道着手に入れることに成功した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「んで、なんで。僕がこんなことを?」


「まぁまぁ、報奨金は弾むからさ。ちょっと付き合ってくれよ」


 王都へと向かう道を馬車で走り続けて一週間が経過した頃。翔は現在何をしているかといえば、ハンクに言われるがままに着せ替え人形をさせられている。ちなみに、現在来ている服は男物ではなく、女物のドレスである。


「いやぁ、ショウって男のくせに線が細いからさ。もしやとは思ったけど、女物もいけるねぇっ!」


「別に着てもいいんだけどさ……」


「なんなら、ウィッグもあるけどつけてみる?」


「いい加減怒るぞ」


「ハハハ、冗談冗談。よしよし、そのまま動かないで……」


 女物の衣装を着る機会など全くなかったため、恥ずかしさで悶絶しそうである。しかし、これも王都へと向かうための付き合いのうちの一つである。


 と、翔は思い込むことにした。


 そんな翔の思惑とは裏腹に、焚き火の灯りを頼りに一心不乱にペンを走らせているハンク。その表情を見る限りでは、男を女装させるのが趣味の変態ではなく、服職人としての真剣な表情をしているため、翔も何も言わずにハンクに付き合っているのである。


 この道中、危険な道を通っているため魔物に襲われたり、盗賊に襲われかけたりと散々な旅路ではあったが、それでも一人旅でここまで来るよりもずっとマシな旅路だろうなと翔は思っている。


 やはり、自分の旅は誰かがいてこそなんだと。


「よし、完成。次はこいつを着てくれっ」


「はいはい。わかったよ、ハンク」


 一週間も旅をしていれば、二人の間には友情も芽生え始めていた。それはハンクの人懐っこさがそうさせたのか、少なからず翔の中ではハンクに対しての警戒心も距離感も消えつつあった。


「次はこいつだな、ジャーンっ! 今王都で流行りのゴシックドレスっ!」


「うわぁ……」


「なんだよ、その顔」


「いや。いい大人が、こんなゴテゴテのドレスを一人ニヤニヤしながら作ってるのを想像したらちょっと……」


「……うん、それは……まぁ……否定しないけど」


 翔に指摘されて、流石にハンクも自分が今手に握っているドレスを作っていた時のことを想像して気分が悪くなったのだろう。先ほどより、少しだけ勢いが落ちたハンクだったが、すぐさま切り替えて箱にドレスを戻すともう一着の服を翔に手渡す。


「ほれ、それじゃこいつを着てくれ」


「……これって……もう完成したのか?」


「おうよ。素材は難しかったけど、こいつを作るの自体は他のドレスに比べれば簡単だからなぁ。何。片手間でやったってやつよ」


 ハンクから手渡されたもの。それは、翔があのスケッチブックを見て一目惚れした居合道着の上下セットが現物として目の前にある。採寸は、翔が居合道着を注文した時に済ませており、あとはハンクが作るだけであった。翔の目算では一ヶ月かかるものとばかり思っていたためこんなに早くも手元に渡るとは思っても見なかったのである。


「にしても、耐火性にして欲しいなんて要望は初めてだったぜ。まぁ、たまたま素材が余ってたから作れたけどよ」


「いや……、本当に嬉しい。ありがとう、ハンク」


「……その格好でお礼言われると、なんだかなぁ」


 ハンクに指摘されて気づく。今、翔は男であるにも関わらずゴテゴテのドレスを着た状態であるということに。確かに、その格好でお礼など言われよう物ならば複雑な気分になるのも無理はない。


 すぐさま、ドレスを脱ぎ捨て。ハンクに渡された居合道着に袖を通す。


 黒を基調とした居合道着はサリーの力を使う翔の注文で耐火性にしているため、生地が普通の居合同義よりも厚く作られている。若干ゴワゴワした作りではあるものの裏地が滑らかに作られているため袖を通しても違和感が少ない。


「どうだ? 動きやすいか?」


「あぁ、ちょっと待っててくれ」


 居合道着には本来はない、ベルトを通す穴が空いており、そこにパレットソードのベルトを通してゆく。日本の居合道着に西洋剣というミスマッチな組み合わせではあるものの異世界でそれを指摘するものは誰もいない。


 パレットソード共に、パルウスの防具も身につけてゆくが全くもって違和感を感じない。むしろ、防具の赤色と居合道着の黒色が見事にマッチしていてかっこよくすら思える。


 試しに、腰からパレットソードを引き抜き演舞を行うが、体で動かしづらい部分はほとんどなくこれであれば問題なく戦うことができると確信した。


「うん、全く問題ない。すごいな、ハンク。いつ作ったんだよ」


「行商人やってるとさ、暇な時間を見つけるのが上手くなってくるものよ。馬車操ってる時も、こうやって夜に火の番をする時も。ショウが魔物の相手をしているときも暇な時間を見つけてやってるわけさ」


「……おい、待て。今、僕が魔物の相手をしている時に作業をしてたって言わなかったか?」


「……あ、やべ」


 思わず口を滑らせたハンクのことを追いかけ回しながら、翔は考えた、きっとこの先に待ち受けている困難も自分であれば乗り越えられると。確証はないけど、そんな気がする。


 そう、思えたのだ。


 そうして時はすぎてゆき。さらに二週間。


 王都まで、残りわずかというところで、翔は再び思いがけない出会いを果たすこととなる。


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