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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第三章 緑の色
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第134話 本の色

 街を練り歩く翔に写る目には最初にこの街に来た時と変わらない、どこかズレた感覚が支配している。だが、通りを見れば朝ロザリーの姿を見た時と同じ制服を来た少年少女たちが楽しそうに談笑しながら帰路についている姿を何度か見かける。だが、その中にロザリーの姿はない。


「まずったな……」


 勢いで飛び出してきてしまったが、せめて彼女の通っている学校の場所くらい聞いておけばよかったと翔は後悔していた。だが、翔にはパレットソードがある。これを使えば一人の人間を探すことくらいは容易く行うことができる。


 そうと決まればだ。


 腰からパレットソードを外し、鞘の先を地面に突き立てる。


 その瞬間、翔は世界とつながる。ここまで何回も使えば、扱いに関しては慣れたものだ。すぐさま探す対象をリュイからノワイエへ、そしてさらに絞り込みロザリーを探索。


 まず見えてきたのは、街の中心から少し外れたところにある大きな煉瓦造りの建物。おそらく校舎だと思われるその敷地の中の森に一つの古い木造の小さな倉庫のようなもののような建物が見える。


 倉庫の裏、校舎裏、下校時間。この単語を並べられて頭に浮かぶのは甘酸っぱい青春演劇ではあるが、どうも中を覗いた限り、状況は芳しくないようである。


「……」


 だが。これを一個人の、ましてやなんのほとんど関係のない人間が介入してもいいものなのかと一瞬考えてしまう。


 なら自身に問いかけよう。


 なぜ、飛び出してきたのか。


「行くだけ行って見ますかね」


 鞘を地面から離し、駆け足でロザリーのいる学校へと向かう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「失礼しますよッと」


 校舎の入り口はすでに門が閉ざされており、まるで城のような厳重な警備体制だと翔は感じていた。


 それもそのはず、革命戦争が起きてからはや四年が経つがエルフと人間の溝はより一層深まったままである。治安の悪化を恐れた国は公共施設の警備を倍以上に増やし、より強固にエルフとの確執を深くさせていった。


 そんなことお構いなしと言わんばかりに、門を軽々身体強化術で飛び越える翔。石畳の地面に、煉瓦造りの大きな建物。その立派な佇まいに思わず感心しながら見上げてしまうが、この学校は本来であれば貴族クラスの人間しか入ることのできない名門校である。しかし、革命戦争で貴族の神威も地に落ち、平民と一緒に同じ学校に通うことが許されるようになった。


 よって学園内では貴族一派と平民一派での争いがあるとかないとか、貴族と平民を間に生まれた恋の物語があるとかないとか。


「さて、ここか」


 校舎から西に離れて少ししたところに訓練用の森があり、その中にある木造の倉庫の中にロザリーはいる。


 そして、翔の見た光景では。ロザリーが何人かの同年代の学生と思われる男に囲まれている様子だった。愛の告白をするにしては一対多数はなかなかに珍しい構図だろう。故に、なんらかのトラブルに巻き込まれていると考えるのが普通である。


 試しに扉越しに耳を押し当て中の様子を聞き取ってみる。


『平民の分際で、こんな本を持つなと言っているんだ』


『返してっ! それはパパからもらった大事な……っ!』


『魔法も碌に使えない貴様が何を言うっ! 貴様には無意味なものだと何度言ったらわかるんだっ!』


 聞き耳を立てる限りでは中の状況はあまり芳しくないようである。どうやら、貴族の連中と揉めているようだが、ロザリーの性格上一歩も引く気はないのだろう。だが、相手は複数しかも男のみと見える。ロザリーをこのまま放っておけばどうなるかは火を見るより明らかだ。


 であれば、第三者の介入が必要だろう。


「……流石に、開かないよな」


 倉庫の扉に手をかけるがびくともしない。外から誰かが入ってくるのを警戒しているのか中から鍵をかけて外から誰か来るのを拒んでいるようだった。


「なら、ちょっと。乱暴に行くとしますか」


 パレットソードの柄に手をかけ、精霊石を赤に接続する。県から刀に変化した切先をドアの鍵に向けて軽く差し込むような形で突きつける。念の為、中にいる人間の安全を考慮して最低火力で『炎下統一』に魔力を流し込む。


 その瞬間、ボンという軽い音を立てて鍵が壊れギギギと音を立てながらゆっくりと扉が開いてゆく。


 さて、問題はここからどうするかだ


「な、何者だっ! 扉には鍵をかけていたはずだぞっ!?」


 ロザリーを囲っていた三人の男子たちの中で一番いい服を着ている男子が突然開いた扉に驚きながら声を荒げる。おそらくではあるが、その男子が今回の騒動の原因なのだろう。見れば、片手にその姿にはあまり似つかわしくないボロボロになった本を手にしている。


 そして足元には、破られたであろう本のページが数枚散らばっていて。その真ん中で、ロザリーは涙目になっていた。


「……」


 子供の痴話喧嘩にしても、これはやりすぎである。ロザリーが悪くないのは明らかだ、であるのならば。


 徹底的に相手のプライドをへし折ってやる。


「ロザリーお嬢様。お迎えにあがらせて頂きました」


「「「「……は?」」」」


「お母様が心配されております。早く宿に戻られなくては」


 突如現れた成人男性。その男が、今までいじめていた、格下だと思っていた女のことをお嬢様呼ばわりしたという事実を受け入れるのに、周りで取り囲んでいた少年たちは数分の時間を要した。


 だが、理解が追いついた少年たちは嘲笑という形で目の前に現れた男を罵り始める。


「ぷっ、あんなボロ宿に使用人でもいたのかロザリー? 見れば、服装だってちゃんとしてない。ローブを羽織っただけの冒険者みたいな姿をしてるじゃないか。どうせ、お前のところの品のない客だろ」


「そ、そうよ。カケルさんは……っ」


 と、ロザリーが翔の正体を明かそうとした瞬間に、翔は身体強化術で一気に間合いを詰めてロザリーの前に跪きながら彼女の口を人差し指で塞ぐ。その洗練された動きに、全く反応ができなかった少年たちは翔からジリジリと距離を取り始める。


『ごめん。今は僕に合わせて』


 小声でロザリーの耳元で囁く翔に無言で頷くロザリー。これで舞台は整った、あとは与えた役割を演じるのみである。


「さて、少年諸君。その手に持っているのは我が主人の教本ではないかな。できれば返していただけるとこちらとしてもありがたいのだが」


「はっ、平民の分際で僕に話しかけるなっ! あの女が持っているべきものじゃないんだよ、この本はっ! この本は選ばれた人間が持つべきものなんだっ!」


「なるほど。だが、それを決めるのは諸君の仕事かな? 私が思うに、諸君らが勝手に自分の考えを押し付けているようにしか見えないのだが」


「平民は貴族のいうことを聞いていればいいんだっ!」


 全くもって会話にならない。見れば、先ほどから吠えている少年の取り巻きが腰に下げたレイピアを引き抜いて完全に臨戦体制である。たった一冊の本にここまで執着するというのもどうかと思ったが、子供には子供の世界がある。それに対して一方的に否定することはできない。


 だが、一つだけ言えることは。彼らのやってることは、単なるいじめであってそれを看過するのは大人としては見過ごすことはできない。


「さて、お嬢様。向こうはやる気のようですが。どうかご命令を」


「え……?」


「逃がせというのであれば、今すぐにでも。ですが、その代わりあの本は諦めた方が良いでしょう。ですが、立ち向かえというのであれば、お嬢様に必ず勝利を約束します。もちろん、本も無事に取り返しますとも」


「……わかったわ。琥珀亭の次期主人として命じます。本を無事に取り返しなさい」


「了解」


 体に循環する魔力を外へと放出させる。最近知ったことなのだが、レギナ曰く威圧感を与えるためにはあえて自分の魔力を外へ放出させることで空間を支配し得るプレッシャーになるらしい。


 現に、今魔力を外へと放出させたことによって三人の少年たちは後ろにたじろいでいるようだった。


「さて、一日中そこで突っ立っているつもりかな?」


「バカにしやがってっ! トムっ、アルバっ! 後ろで魔術を展開させろ。前衛は僕とフラッドがやるっ!」


「「「了解っ!」」」


 相手が武器を持ち出した、その上に魔術まで使用していることから考えて、相当相手は怒り心頭らしい。何が彼らをそこまでさせるのか理由は不明だが、あちらが武器を持ち出した以上、こちらも徹底抗戦しなくては怪我人が出てもおかしくない。


 両手に持ち替えた『炎下統一』の火力を少しだけ強める。


 まず先にやってきたのはブロンドの髪をポニーテールに結んでいる少年。先ほどフラッドとと呼ばれていた少年がまっすぐレイピアを突き立てながら翔に向かって突っ込んでくる。


 レイピアといっても、少年用の護身用の武器のため刺されたところで致命傷にはならない。だが、ここで怪我人を出せばそれこそ事である。ましてや相手は貴族、入念な調査の上にロザリーの介入がバレれば彼女は退学を迫られるかもしれない。


 であれば、方法は一つ。

 

 徹底的に、相手の心を折る。

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