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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第三章 緑の色
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第127話 動き出す影の色

 一方そのころ、王都騎士団九番隊の本部の執務室ではガレアが書類の束を前にして貧乏ゆすりをしながら大きな欠伸をしていた。すでに、レギナが翔に連れ去られて半年以上の時が経過しようとしている。その間、ポツポツと情報は上がってくるものの、数ヶ月前のポルトスでの目撃情報が最後である。


 ガレアの頭の中ではすでに、あの二人は国外に逃亡したものだと確信していた。なぜ、レギナがなんの抵抗もせずにあの青年について行っているのかは謎だが、国外に逃亡されたとなると九番隊だけでは手に負えなくなってしまう。


「はぁ……、まさか本当に相引きじゃないよな……?」


 恋愛、恋情などという言葉が一番似合わない女がレギナである。その男勝りな性格は男よりもむしろ女の方が彼女に惹かれている場合が多いが、ここまでくると本当に翔にほだされてついて行っているような気がしてならなかった。


 仮にそうだとして、それはそれで面白い話ではあるがとガレアは思っているが、やはり心配なものは心配である。


 そして何より、王都からの圧力が日に日に強まっている。半年以上九番隊隊長不在を理由に九番隊の本分である聖遺物の探索と巡礼の旅が行われていないのである。他の騎士には自己鍛錬を続けるようにと指令を出しているが、それもそろそろ限界に近くなっている。


 元々、荒くれ者、落ちこぼれ、そういったものの吹き溜まりが集まるのが九番隊だった。今は上官の命令を聞いているが、いつ暴動が起きかねてもおかしくない状態にあるのも事実である。そして何より、翔とレギナとの一戦を目の当たりにし自信をなくしている騎士も決して少なくはない。


「ったく。俺もいっちょひと暴れして全部放り投げちまおうかなぁ……」


 ガレアとて、九番隊の吹き溜まりの一員の一人である。元は、由緒ある家系の人間だったが、覇権争いに敗れ、捨てられるかのように九番隊に放り込まれた経緯がある。それなりの家の人間だったということと、剣の才があったことが幸運だったのか部隊の中で出世には困ることはなかった。


 しかし、家族とは絶縁状態、荒くれ者ばかりが集まり問題が絶えない九番隊の隊長に任命されてからというもののその圧迫感プレッシャーから酒に逃げるような日々を過ごしていたところに現れたのが、レギナとアランだった。


 彼女の印象を今でもガレアは鮮明に覚えている。彼女の目は、他の王都騎士団が向けてくる、見下したものではなく。これから先の未来を見通している希望に満ちた綺麗な瞳をした人間だと生まれて初めて思った。


 故に、その瞳を濁らせてやりたいと心底思った。


 何も現実を知らない小娘に、非情な現実を叩き込んでやりたいと心の底からおもっった。


『新しくここの隊長に任命された、レギナ=スペルビアだ。よろしく頼む』


『ハッ……、ここはテメェみたいなちっこいのがくる場所じゃねぇんだよ。ましてや女の来るとこじゃねぇ。騎士ごっこしたいならよそをあたりな』


『ほう。私が騎士ごっこをしていると?』


『……王都から支給されたてのアダマンタイト製特注の軽装備。傷汚れひとつついちゃいねぇ。ここにいる奴らの装備を見てみろ、まだゴブリンの装備の方がマシだってもんだ。そのお腰の剣もそうだ。装飾は派手じゃねぇが、それなりにいい家から持ってきた宝剣だろ、そういう輩は一番隊の王都勤で十分だろうさ』


『……ふむ。貴殿は、私の技量を疑っているのか?』


『あぁ、そういうことだ。ここは家柄も年齢も関係ぇねぇ無法地帯だ。ここじゃ力がものを言うんだよ。お嬢ちゃん』


『……なるほど。では、手合わせをしよう。お互い、模擬練習用の剣を使って』


『……ハッ! おもしれぇ! 怪我しても文句言うんじゃねぇぞっ!』


 そして始まった勝負だったが、ガレアはものの数分で完膚なきまでに叩きのめされた。自分とおそらく二回りは歳が違うであろう少女に完膚なきまでに叩きのめされた。だが、不思議と悔しさはなかった。そのあまりの流麗な剣技を前にして、叩きのめされたことが帰ってガレアの中に忘れかけていた何かに火をつけた。


 そこから先は、レギナの手腕により九番隊は見違えるように変わっていった。レギナの指示で前線部隊の隊長を務めるようになったが、自分は誰かの上に立つよりも誰かの下で働いたほうが力を発揮できると改めて思い知らされた。


 そんな彼女のことを、いつの間にか心の底から尊敬するようになっていた。


「……ん?」


 ふと、執務室の外が騒がしくなっていることにガレアは気づく。あまりこの辺りを歩く人間は少ないため、おそらくアランが再び戻ってきたのだろうとガレアは思ったが、それにしては人数が多いことと、一定のリズムで聞こえてくる足音に違和感を覚えた。


 同時に、嫌な予感も。


「入るぞ」


「……後ろの奴らはどうした?」


 執務室の扉を開けて入ってきたのはアラン、そしてその後ろに並ぶ数人の白い影。白いローブを深く被り顔はあまり良く見えないが服装と装備を見る限り、王都から派遣された人間だということは一目瞭然だった。


「まず結論から言う。お前を九番隊監督不行届と無色の人間を擁護した罪で軍事裁判にかけるため今から連行する」


「おいおい待て待て。話が急すぎてさっぱりわからん」


 突然の宣告にガレア動揺しながら立ち上がるも、しっかりと片手は腰の剣の柄に手を置いている。それを冷たい目で見たアランは左手を軽く上げると、後ろで待機していた数人の人間がアランの前に立ち、それぞれ腰に刺してある剣を抜刀する。


「抵抗するな。すれば怪我をしないで済むぞ」


「……はぁ。わかったわかった。降参だ、こ・う・さ・ん。ほれ、手枷なりなんなりしろよ」


 渋々と両手を上げるガレアを見た王都の騎士たちはそれぞれ剣を鞘に収めるとガレアを拘束するための手枷を懐から取り出し近づいた。


 まさにその瞬間だった。


「甘ぇよっ!」


 近づいた男二人の頭を鷲掴みにしそのまま地面へと叩きつけるガレア。悲鳴を上げる間もなく突然目の前で二人が戦闘不能になったことに驚いたのか、後ろの三人は剣を抜くのが遅れる。


「遅ぇっ! おらぁっ!」


 鷲掴みした片方を横に並んだ三人にぶつけ、もう一人を窓の外へと放り投げる。これで動ける人間はアランのみ。


 アランは後衛部隊の隊長であることから、接近戦でいえばガレアの方がアドバンテージがある。そして、アランは丸腰。とにかく邪魔な人間を排除し、一度捻り潰して話をするしか方法はないと考えたガレアは、腰から剣を引き抜きアランに向かって駆け出そうとした。


 一歩、


 ガレアの持つ剣の柄がアランの鳩尾にのめり込もうとした瞬間だった。


「……おい。なんだ、そいつは……?」


「情報が遅いな、王都ではすでに普及し始めてる武装だ。剣よりもずっとコンパクトで扱いやすく、致死性が高い」


 ガレアの額に押し付けている細長い筒状のもの。それが一体何であるかは、全く理解できなかったが、自分の生殺与奪の権利はアランに握られていることは考えずともわかった。


「と、まぁ。これから死ぬ男に話をしても無駄か。安心しろ、ガレア。これからは、俺たち《《十番隊》》がお前らの使命を引き継ぐ」


 軽い破裂音が、執務室の中で響いた。


 

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