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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第三章 緑の色
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第122話 共に歩む色

 円形の空間の中をレギナと翔はゆっくりと互いに壁沿いを歩きながら、壁に描かれている絵や文字を眺めている。レギナはその文字を読むことは叶わないが、翔はそこに書かれている文字をつつがなく読むことができる。


「古代エルフ語だ。なんて書いてある、ショウ」


「……酷いことが、あったみたいです」


 青の精霊石を封印した経緯についてが、壁に事細かく記されている。


 その大まかな内容について。


 聖典における、ターニングポイントである無色の国の消滅から数カ月。各地で洪水の被害が頻繁おこったらしい、その洪水の主犯格とされたのが青の精霊、ウィーネだった。各王国は青の精霊を捕縛するために当時最高レベルの精霊術師の大半を投入、しかしそのほとんどが返り討ちに合い、その死傷者数は述べ数万人に及んだとされている。だが、数年かけようやく青の精霊を捕縛することに成功、そしてリュイの地で儀式を執り行い、遺跡に精霊石を封印することで青の精霊はその力のほとんどを消失し、青の精霊はそのまま行方知れずになった。


 以上が、青の精霊石を封印するに至った大まかな経緯である。


「王都に行けば記録の一つや二つは残ってそうな話だな」


「ですね。あと一つ、最悪のことが書いてあります」


 レギナの言葉に同意しながら翔は、壁に書かれた一文を指刺す。そこには以下の文章が書かれていた。


『禁忌に触れし者。その探求にて自身を破滅させる、己の欲に埋もれ自らの過ちを悟れ』


 文章が飛躍しすぎていて、翔は意味を理解するのに数分かかったがこの言葉の意味するものは。


「たぶん。この精霊石を取ったら、この遺跡が崩壊するって意味じゃないですか?」


「……そうだな。そんな気がする」


 翔の言葉に同意するレギナ。互いに顔を見合わせながらゆっくりと後ろを振り返り部屋の中心に水の柱を鎮座させている青の精霊石を見る。見れば見るほど引き込まれそうなくらい美しい蒼の光を放っているが、あれを手にした瞬間ここが崩れ去るとなればかなり恐ろしい話ではある。


 おそらく、いやきっと。助かることはあるまい。


「何か、何かヒントは……っ」


「落ち着け。私が見た方の壁を貴殿は見てないだろう。そこに何か書いてないのか?」


 壁を触りながら何か隠された文字やヒントを慌てながら探す翔をレギナが肩に手を置いて引き留める。レギナのいう通り、翔が見てきたの壁には青の精霊を封印するに至った経緯についてである。レギナが見てきた方の壁を見てない。


 急いでレギナが見てきた壁側のところに書かれている文面を見る。レギナの方に書かれていたのは、遺跡を作り上げた経緯、そして描かれているのは謎の絵だった。絵に関しては何の説明がない。だが、それが何かの打開策になるヒントのように翔は見えた。


「これは……剣を持つ人だよな……」


「あぁ。だが、次の絵では槍に変わってる」


 レギナが指差す絵、翔の隣に書かれているそれは剣を持つ人間が槍を持って地面に向かって突き刺している姿が描かれている。描かれている絵はこの二つのみ、ヒントにしてはあまりにも不親切すぎると翔は思った。


「……貴殿の剣。確か、赤の精霊の力を使う時姿が変わるな?」


「はい。確かに、刀になりますけど」


「……もし。仮にだ。仮に、青の精霊の力を使った場合、その剣は槍に変わるんじゃないか」


「!!」


 ハッとした翔。すかさず、チョーカーを起動させ外で待機しているウィーネとコンタクトをとる。


『ウィーネさんっ! 聞こえますかっ!』


『何ようるさいわねっ! そんな大声で呼ばなくても聞こえるわよっ!』


『す、すみません……。あの、聞きたいことがあるんですっ、ウィーネさんの。青の精霊の力を使った時のパレットソードの姿って、その……槍、ですか?』


『……そうだけど。それが何?』


 ビンゴ。


 その返答を聞いたレギナと翔が顔を見合わせる。だが、問題は別にある。果たして、剣を槍に変えたところで一体何になるのだろうというのか。青の精霊石を取り出したら遺跡は崩れ下敷きになる。


 そこで、翔は思い至る。青の精霊の力は、きっとそんな危機的状況を打開するためのものではないのだろうか。


『ウィーネさん、お願いがあります』


『……何よ』


『俺と、契約を結んでくれませんか?』


『……』


 無言。


 しばしの無言。


 やがて、ポツリとウィーネは語る。


『……見たんでしょ……? 私のしたこと……』


『……見ました』


『……それでも、あなたは私と契約したいと思うの?』


『それは……』


『確かに。アンタの寿命を伸ばすのも、この遺跡から出るのにも私の力が必要よ。でも……私は、今でも。あいつらのしたことを許してない』


 ウィーネの怒りの根源。それは、彼女の前の契約者が多くの人間から迫害に遭っていたこと。そのせいで契約者は死に追いやられたと言っても過言ではない。


 だが。


『でも。ウィーネさん、あなたは。後悔しているんでしょう?』


『っ……』


『一緒に旅をしてわかりました。きっと、この壁画に書かれていることは事実でも、それはきっとウィーネさんの本心じゃない』


『……』


『確かに、ウィーネさんは多くの人の命を奪いました。でも、僕には、どうしてもウィーネさんとこの壁画で描かれていること姿と重ねることができないんです』


 チョーカーの先で啜り泣く声が聞こえる。きっと、彼女はずっと苦しんできたのだろう。彼女は精霊石のことを心臓と例えたが、この数千年の間一人寂しく心臓を無くしたまま森の中で自責の念に駆られていたに違いない。


 それは、自分も同じで。


 同じ苦しみを抱えていたから。


『ウィーネさん。苦しいなら、僕も、同じ苦しみを背負います。一緒に乗り越えようとは言いません。苦しみを抱えたままでも、それでも前を向くために。僕と、契約を結んで頂けませんか?』


 返事を待つ。彼女の嗚咽を聞きながら、ただ返事を待つ。


『わかった……、それに。約束だもんね、私の精霊石を見つけたら契約をするって』


『そう言えば、そうでしたね』


『いいこと。私の苦しみも一緒に背負うなんて口にしたからには、アンタ死ぬまで私に付き纏われると思いなさいよっ! いいわねっ!』


 いつもの調子が戻ってきたようだった。ウィーネの言葉に、思わず軽く吹き出してしまう翔。それに気づいたウィーネがギャーギャーとチョーカー越しに話をしているが、そんな彼女の声をよそに翔は一歩づつ部屋の中心にある水の柱へと近づいてゆく。


 水の柱の中は水が穏やかに流れており、そして程よく優しく冷たい。まるで清流の中に手を入れているようだった。


『ウィーネさん、契約を結びます。確か、本当の名前が必要なんですよね?』


『えぇ、そうよ。私の本当の名前は。ウンディーネ、ウンディーネ=モネ。貴方と一緒に歩む精霊の名前よ』


『……よろしくお願いします』


 翔の指先に微かに触れる青の精霊石。その瞬間、頭に流れ込んできたウィーネの過去の記憶。


 涙を流しながら、街を洪水の渦に巻き込ませたこと、


 大勢の術師の攻撃を前にしても、一歩も引かなかったこと、


 そして最後には、囚われの身となり無理矢理精霊石を引き剥がされたこと。


 だが、そんな悲しい記憶の片隅にある。小さな思い出、それはこのパレットソードの前の所有者、すなわち彼女の過去の契約者とともに戦った輝かしい記憶。


 これは、


「ショウっ!」


「っ! レギナさん、精霊石を取り出しますっ。できるだけそばにいてください」


「あぁ、わかった」


 翔の背中にレギナが付く。


 きっと、さっき見た記憶が正しいのであれば。


 彼女の力の使い方は。


「行きますよ」


 精霊石を水の中から取り出す、水の抵抗はあったものの何の縛りもなく取り出せたことに驚いた翔だったが、精霊石を取り出した瞬間遺跡全体が大きく振動し始める。


 天井に亀裂が走り、まず出口が天井から落ちた瓦礫で塞がれる。しかしそんなことお構いなしに翔はパレットソードの赤と緑の精霊石の間にあいた穴に青の精霊石を嵌め込む。


「ショウ、急かすわけじゃないが。本当に大丈夫なのだよな」


「これで、行けるはずっ。ウィーネさんっ! 行きますよっ!」


『えぇっ! アンタの魔力を感じるっ! いつでも行けるわよっ!』


 チョーカーの声を聞き、パレットソードの柄を握りしめ魔力を青の精霊石に一気に流し込む。同時に、体全身に青の精霊石から流れ込んだ魔力が翔の体全身へと行き渡る。それは、サリーの力を使うのと同じ感覚だった。


『『水面刺鏡すいめんしきょう!』』


 同時に崩れる天井、


 しかし引き抜いたパレットソードが青く輝き一振りの槍へと姿を変える。それを地面に突き立てた瞬間、翔を中心に蒼いドーム状のガラスのようなものが形成される。瓦礫はその内側に入ることがなくドームの外側に積み上がってゆく。


睡蓮鉢すいれんばち、この内側はどんな物質も魔術も通すことはないわ。適応範囲は極小から街全体を覆うことも可能よ。まぁ、アンタの扱い方とこれからの熟練度次第ね』


 得意げに語るウィーネの声、しかしその声のほとんどが遺跡の崩壊の音で聞こえなかった。十五分くらい経っただろうか遺跡の崩壊の音がほとんど聞こえなくなった。その間、翔とレギナは怪我一つ負っていない。


『私と契約した限り、アンタに傷ひとつ負わさせやしない』


 保護領域拡大、睡蓮鉢で保護していた領域を広げる、その瞬間保護されていた外側に積み上がっていた瓦礫が徐々に押し除けられていき、そして徐々に太陽の光が見え始めた。


「ショウ、顔の刺青。消えてるぞ」


「え、本当ですか?」


「あぁ。腕にまで回ってた刺青もだ」


 レギナに言われて、自分の姿を確認する。すると、確かに自分の体に巣食っていたサリーの呪いの刺青が綺麗さっぱり消えている。ついでに言えば、レギナに切り込まれた肩の痛みまでも消えている。


『私の力の主な効力は、治癒、防御。まぁ、あの赤トカゲの真逆の力ってことね』


「とりあえず……助かった……」


「……信用していなかったわけじゃないが、久々に肝が冷えたぞ……」


 ウィーネの説明をよそに遺跡が崩れるまでの間、全く気を抜くことのできなかった二人。


 青の精霊石確保、そして、青の精霊ウンディーネ=モネとの契約に成功。

 

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