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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第三章 緑の色
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第120話 旅立ちの色

「ここを出ていくんですね」


「はい。短い間でしたが、お世話になりました」


 レースの前で正座をしながら、ゆっくりと頭を下げる翔。現在、上裸になりながらリーフェの治療を受けている最中である。治療している彼女の目は、どこか怒っているように見えるが、それでもどこか落ちついた様子で肩の傷を縫合している。


「これでおしまいっ! いいっ! 絶対に安静っ! これで剣なんて持とうものなら私があなたの脳天かち割るからねっ!」


「はは……、肝に銘じます……」


 苦笑いを浮かべながらリーフェの言葉を聞く翔、こればかりは本気だというのは顔を見なくてもわかった。


「……ショウさん。いい目になりましたね」


「……そうでしょうか?」


「えぇ。迷いを振り切ったわけではない、けど自分の道だけはしっかりと見据えている。そんな素敵な目をしていますよ」


 レースの灰色の目が翔の目とかち合う。


 そう、決めたのだ。迷うことを諦めない。迷ってたどり着いた道の先に自分の望む未来があると信じている。


「さて。青の精霊石を探すのでしたよね」


「はい。場所はわかっているのですが、事前情報があればありがたいです」


「いいでしょう。青の精霊石は我々エルフの作り上げた神殿の最奥にあります。当然封印の役割を担っているため、侵入者を拒む設計しています。まず、神殿の中では魔術が使うことができません、それは身体強化術も同様です」


「そう……ですか」


 身体強化術まで使えないとなると厄介ではある。しかし、そこは泥臭く探索をするしか方法しかない。


「他にも、いくつかトラップがありますが。すみません、記録があまりにも古くて詳細についてはわかりかねます」



「トラップ……か……」


 罠、精霊石の封印をしているのだからおそらく致死性のものと見て間違い無いだろう。確かに前情報があればいいとは言ったが、レースの言葉を聞く限り不安しか頭によぎらない。


 不安げな表情を浮かべる翔、そんな彼の表情を前にレースは後ろからあるものを翔の前に差し出す。それは、翡翠色の透けるような薄さの二枚のローブだった。


「これは……?」


「これは、我々エルフの髪を編み込んだローブです。我々エルフの体は魔術の親和性が非常に高い、このローブを無色の色を持つあなた方が持てばきっと、役に立つはずです」


「でも、魔術は使えないんですよね?」


「すでに起動準備が整っている魔術は例外です。ですから、きっとあなたの剣も使うことは可能なはずですよ。ローブの使い方は単純で、身体強化術と同様にローブに魔力を流してください」

 

 レースに言われた通り、ローブを着込み魔力を流し込む翔。その瞬間、ローブで覆われている部分の後ろの風景が透け始める。ふと袖を目で見るが袖の向こう側で優しく微笑んでいるレースの姿を見ることができる。


 いわゆる、透明ローブである。


「すごい……」


「これを使えば、少なからず神殿の中に巣食っている魔物たちには気づかれずに進むことができるでしょう」


「ありがとうございます……けど……本当にいただいてしまっていいんですか? こんな貴重なものを……」


 翔の問いかけに、一瞬だけ戸惑った表情をしたレース。だが、それもただ一瞬。彼の表情はあった時と変わらずひどく穏やかだった。


「貴方たちがいなければ、私は妻に会うことはできなかった。最後の瞬間、彼女のそばにいれたことは私にとって何事にも変え難い幸福だった。その機会をくれた貴方がたに最大の感謝を」


 レースが深く頭を下げる。同じく、リーフェも彼に倣って翔に向けて深く頭を下げる。感謝をされるのはこれで何度目だろうか、しかし、感謝をされるにはあまりにも多くの犠牲を出してしまった。革命派の人間を何人犠牲にして、自分はここに立っているだろうか。



 考え出したらキリがない、ここに立つことのできなかった人間の分。そして、今生きている人間の分、自分は恥ずかしい生き様を見せるわけにはいかない。


「……生きてみます。頑張って、貴方がたに貰った分。生かしてもらった分」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「話は終わったか」


「えぇ。早速ですが、出発しましょう。レギナさん」


 ツリーハウスの外で腕を組み待っていたレギナ。そんな彼女にレースから渡されたローブを手渡す。


「なんだ、これは?」


「すごいですよ。これに魔力を流すと透明になれるんです」


「……なるほど。エルフの髪か、なら納得だな」


 まじまじとローブを眺めるレギナを横目に翔は前へと進んでゆく。向かう先は、この村で飼われているワイバーンのいる場所である。今回もレースの好意でワイバーンの二匹借りることができたわけである。タイムリミットの近い翔にとってはありがたい話だった。


 雨あがりの森の空気を目一杯に吸い込みながら、ツリーハウスを繋ぐ吊り橋を渡っていく翔とレギナ。


「ショウさんっ! レギナさんっ!」


「え。リーフェさん」


 ふと、後ろから声をかけられ振り向くとそこにいたのは肩で息をして両手に何やらバスケットのようなものを持っているリーフェの姿がそこにあった。


「これ……っ、持ってってっ!」


「……これは?」


「お弁当っ。急拵えだけど、お腹が空いたら食べて。体にいい薬草とか入っているから、きっと役に立つわ」


「すみません、ありがとうございます……」


 深く頭をさげバスケットをリーフェから受け取る翔。バスケットの中から漏れているハーブのような香りが、これから神殿へと向かう翔の気持ちを少しだけ和らげるような気がした。そして、イニティウムの彼女とは対極的で、こちらは料理が上手なんだなと翔は軽く吹き出してしまう。


「え?」


「いいや。なんでも……、昔のことを少し思い出したんです。ありがとうございますっ、これは美味しくいただきますね」


「そう、何か変なものでもいれちゃったのかって心配しちゃった。それと、いいこと。絶対に無茶はしないように、そして。定期検診ってわけじゃないけど、ことが終わったら傷の様子を見せに戻ってくること。いいわねっ!」


「はい、必ず。約束は守ります」


「……本当。生きて帰ってきてね」


 愁を含んだ瞳でリーフェは翔に言葉を重ねる。そんな彼女に優しく微笑みかけ、踵を返すと先を歩いていたレギナの後を追いかける。


「今度は何をもらったんだ?」


「お弁当ですって。美味しそうな匂いがしますよ」


「……本当。最初は殺されるかと思ったが、最終的には色々と世話になってしまったな」


「……そうですね。そういえば。レギナさんの暗示は?」


「とっくの昔に解けてる。暗示とは言っても永久的にかけられるものじゃない。三日もすれば自然に解ける」


「そうですか……、それはよかった」


 レギナの言葉を信用するのであれば、すでに彼女に命の危機はない。若干ではあるが翔の肩の荷が軽くなったように感じた。


 ワイバーンの待機場では、監獄に向かった時に乗せてもらったワイバーンが二匹待機していた。


「よう。今度は頭を齧られないようにしろよ。ちっこいの」


「はは……、僕も二度目はごめんです」


 すでにワイバーンに乗り込んでいるレギナ。自分も置いていかれまいと急ぎながらワイバーンに乗り込もうとする翔。


「あ。ちゃんと挨拶を……っ」


「へ?」


 次の瞬間、頭に鈍痛が走る。


 また、噛まれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「使えない……っ!」


「ひ……っ!」


 突如、隣に立っていた少女の上司が血飛沫を撒き散らしながら細切れになる。肉片の上に乗っかっているのは彼が愛用していた丸メガネだ。


「マシな医術師はいないのかっ! この両腕、魔術を使えば繋ぐことなど容易だろっ!」


「それが……ローレン様……魔術が通じないんですっ! 切断面が焼け朽ちているせいで青の魔術での治癒ができないんですっ! 申し訳ありませんが、私たちではどうすることもできないんですっ!」


 恐怖のあまりに涙をこぼしながら足元もおぼつかない様子で、細切れになった上司の部下である獣人の少女が震える声で訴える。しかし、そんな彼女の言葉を無視するように彼女の横の壁が勢いよくめり込み大きな穴が開く。


「屈辱だ……っ、無色の分際で私の両腕を落とすなど。魔術の最奥に至った私に刃を振るうなど……っ、ありえない……っ! ありえないんだっ!」


 ローレンの歪んだ魔力が部屋の調度品から壁にと次々に無数の爪痕をつける。その姿は、まるで怪我を負って怒り狂っている獣の姿に等しかった。


 少女は必死になって考える。自分はこのままでは間違いなく死ぬだろう、その前に何か打開策を浮かべなくては。


 と考えた時、一つの情報が頭の中に浮かんだ。


「あ……一人。治せるかもしれない人物を知っています……」


「……ほう。言ってみろ」


「この監獄から東の森に住むエルフの中で唯一の治癒師がいます……もしかしたら。その人なら治せるかも……」


 それは、少女が医術を学んだときにほんの少しだけ話に出たことがあったエルフの治癒師の話だった。緑の色が多いエルフの中で、彼女は唯一青の色を持っており、しかし魔術に頼ることのない外科的アプローチで治癒を行なっていると。


「……ほう、それはいい話を聞いた」


「……」


「だが、知ってる」


 次の瞬間、獣人の少女の首から上が地面に転がる。床いっぱいに広がる血の上をローレンは歩きながら考え込む。


 あそこに住んでいる妹はまだ治癒師などやっていたのかと。



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