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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第三章 緑の色
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第111話 叛逆の色

 この監獄に囚われている人間。チョーカーから聞こえてきた言葉が正しいのであれば、政治犯、反逆者、謀反人などが捕えられている階層があるはずである。


 なら、きっと。そこで捕えられている人間は酷く外へ出たいはず。


「その人たちを利用します」


「……なんか。アンタ、少し変わった?」


「……かもしれませんね」


 昔の自分であれば、他人を利用して脱出をしようだなんて考えは思い浮かぶことなどなかっただろう。


 作戦は以下の通り。


 まず、この監獄に囚われている人間を解放すること。そして、軽い反乱のような騒ぎを起こし、監獄側の人間と衝突させる。そして、その混乱に乗じてレギナと共に脱出する。


 至ってシンプルなプランではあるが、一番の要になるのはやはりここに収容されている囚人たちだろう。


「行きましょう。レギナさんのことも心配です」


「……いいわよ。こうなったら、とことん付き合ってあげるわ」


「はは……ありがとうございます」


 地面に寝かせていたエレナを背負い第六階層を仕切る鉄の重い扉を開け放ち、一本道になっている登り階段をパレットソードの明かりで足元を照らしながら登ってゆく。


 第五階層。


 第四階層。


 第三階層。


 たどり着いた鉄の扉には大きく『3』と掘り込まれている。扉を開けると、最初に第六階層に立ち入った時と同じく、冷たい空気が一気に流れ込んでくる。


 洞窟のような構造をしているそれは、第六階層よりも幾分かシンプルな構造で、中に立ち入って確認する限り第六階層ほどの広さはなく、魔物らしき姿を確認することはできなかった。


「……」


 今から、自分は他人の命を使って自分の命と大切な人の命を天秤にかける。


 覚悟はあるか?


 迷いはないか?


 まっすぐ、前を向いて生きているか?


「炎下統一……っ!」


 パレットソードを引き抜く、鞘の口から吹き出した炎が白く純白な刀身を炎の色に塗り替えてゆく。同時に、翔の体を包むように吹き荒れる炎。黒と赤が混ざった髪が真っ赤に染め上がり、黒かった瞳も炎の色に塗り替えてゆく。


 体に、刻まれる呪いとともに。翔の体は炎の化身と変貌する。


『炎下統一 灼紅 炎獄の漆法具の参<剣樹地獄の数打ち合わせ>』


 分身した炎の刀身が、無数にある牢獄の前に出現する。そして、翔の動きに合わせ動き出したそれは、牢獄の檻を一刀両断し鉄でできた格子をバターのように溶かし切ってゆく。


「……」


 突然自由になった囚人たちがわらわらと牢獄の外へと出始める。全員、一体何が起こっているか理解できていないのか、全員周囲を見渡しながら呆然と立ち尽くしている。


「……それで、アンタ。この烏合の衆を一体どうやって外に出そうっていうわけ?」


「……本当。レギナさんがいたら……」


 レギナがいれば、この状況で囚人たちをまとめ上げるカリスマを持ち合わせているのだろうが、残念ながら翔にそのカリスマは持ち合わせていない。


 と、思っていたその時だ。


「この牢獄から出してくれたのは君か?」


「え、はい。そうです」


「……まずは感謝を。おそらく反乱軍の仲間だろう? まさか、こんな魔術の使い手がいたとは……」


 そう翔に向かって話しかけてきたのは、銀色の髪をした狼の頭をした獣人の男だった。見た限りでは、今外に出て狼狽えている囚人の中でも一番まともそうな受け答えのできる人だと翔は思った。


「彼女は、エレナ=カルディアか。私たちを導いてくれた人だ、ここにいる二十八名は全員彼女の傘下にあった革命軍の人間だ。私たちは何をすればいい?」


「話が早くて助かります。今、上で仲間が暴れてくれてます。それに乗じてこの監獄から脱出を」


「わかった。第二、第一階層にも仲間がいるが、そいつらも頼めるか?」


「わかりました。とにかく、全員で脱出を」


「あぁ。未来に自由あれ」


 彼はそう一言翔に言い残すと、その場から離れ外に出てウロウロしていた囚人たちを集合させ何かを話し始めた。統率を取ってくれる人間が現れたことに少し安堵する翔。


 再びエレナを背負い、向かう先は第二、第一階層。そこで同じように囚人たちを解放し、脱出に向けて揃った人員はおおよそ六十数名。これだけの人数が一気に動けば監獄側も対処に困るに違いない。


「そういえば、きみ。名前を聞いていなかった」


「翔です。今一色 翔」


「ショウくんか。私も、君の歳くらいの息子がいる」


「……なら。無事に帰らなくてはいけないですね」


「あぁ。私は、家族と国のために。この命を捧げるつもりだ」


「……」


 名前も知らない獣人の男は語る。


 ここにいる人間、全員とは言わないが、帰りを待っている人や家族がいるのだろう。再び、自分自身に問いかける。


 覚悟はできたか?


 迷いはないか?


 これから奪われるかもしれない命と、まっすぐ向き合って生きているか。


「……いきましょう。武器は現地調達で」


「あぁ。いつでも準備はできている。行くぞっ! 皆の衆っ!」


 獣人の男が吠える。狭い通路に敷き詰めるように並んでいる男たちの雄叫びが木霊し、監獄全体を揺らす。


 先陣を切るのは翔。


 地下監獄の出口の鉄の扉を勢いよく開ける。その瞬間、扉に目掛けて飛んできたのは無数の弓矢、咄嗟に扉を閉じて弓矢を防ぐ翔。やはり、レギナと連絡がつかなくなった段階で危惧していたことだったが、やはり翔とレギナの関係性がバレ、この脱出計画自体が監獄側に読まれていた。


 であれば、こちらも攻勢に出るのみ。


『炎下統一 灼紅 炎獄の漆法具の壱<閻魔の笏>』


 扉を開け放ち、弓矢の攻撃を真っ向から受ける翔。しかし、弓矢は翔に当たる寸前になって消し炭となって燃え尽きる。背後に構えた炎下統一から炎が高く舞い昇る。


 睨みつけているのは、監獄の入り口を警備している複数の高台と、周りを囲っている防壁。


「た、退避っ!」


「遅い」


 一体何を相手にしているかを理解した監獄の人間が退避命令を出す前に、翔は動く。横に構えた炎下統一は巨大な炎の刀へと変貌し、翔が横一閃で振るうと、周囲のもの全てを燃やし尽くしながら破壊してゆく。


 建物、


 武器、


 そして、人ですらも。


 もう、翔の耳には何も聞こえてこない。あの時、自分が人の命に手をかける瞬間に聞こえてきた、あの声が。


 今となっては、全く聞こえてこない。


 いや、聞こえていなかった。


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