プロローグ
小さな少女が頭に不思議な生き物を乗せて歩いている。青い肌、大きな目に角の生えた頭、尖った耳。背には大きな翼、長く細い尻尾も生やしていた。少女に語りかけ、少し考えてから何処かへ向かって指を指す。少女はその方向へ歩いていった。
街を歩く人々の頭や肩、時に傍らに彼らはいる。先程の少女の頭にいた、まるで悪魔の様な見た目のものもいれば、天使みたいであったり、龍の様な姿、人間と見分けがつかないものまで、千差万別。
妖精、悪魔、天使、竜人、様々な呼び名で呼ばれる彼等。どんな人間にも彼等は見えて、ひとりにつき必ずひとりはいる。彼等に決まった呼び名はない。けれど、彼等の中には、自分達の共通の呼び名があるらしい。それを知る人間は多分、ひとりもいない。
「ねぇ、アダム。次は何処に行こうか」
石橋に身を預けながら、川に映る朝焼けを見つめる。
「そうだなぁ……お前は何処に行きたい?」
鳥たちが忙しそうに、けれど心から、「生」を感じているように、縦横無尽に空を飛び回る。
「……何処へでも。アダムが連れて行きたい場所に連れて行ってよ」
夜明けを告げる鐘が街から鳴り響いた。先程の少女は何処へ行くのだろうか。気になりはしたけれど、今は大好きなこの薄暗い世界を楽しみたい。頬が自然と緩む。
「それはお前さん……。まぁいいか。それじゃあ、行こう」
中性的な顔立ちの少年が俺の傍らに立って、共に空を見上げながら話している。少年の名前はアダム。俺が勝手に付けた名前。生まれた時からアダムは傍にいて、きっと死ぬその瞬間まで共にいる。その端正な顔にはうっすらと笑が浮かんでいた。
「どうして笑ってるの?」
「そりゃあ、お前と同じ理由だよ」
「そっか」
アダムが歩き出した。その後を追い、横に並び共に歩く。夜明けの冷たい風に吹かれた木々が歌を奏でる。旅立ちに美しい、無二の合唱を奏でる自然に感謝を。笑顔を。決意を秘めた瞳と、揺るがない背中を。