伊藤亜衣の恋のキューピット大作戦~募る想いを胸に抱いて・番外編~
私には小学校の頃から仲がいい親友がいる。相沢友里。すらっと背が高くて頭もいいし、運動もできる。
春。
中学校の入学式。
私は友里と一緒に登校した。私たちの小学校は学区域の関係で、半分がこの第一中学校、もう半分は第二中学校へ進学する。家が近所同士の私と友里は同じこの第一中学校へ通う。どうせなら、同じクラスになったらいいな…。そう思いながら組分け表を見た。うわあ~、友里とは別のクラスだ…。
「別のクラスになっちゃったね」
「ホント。残念だけど、会えない訳じゃないし」
「そうね」
体育館に入るとクラス別に出席番号順に並ぶように指示された。友里は1組。私は3組。出席番号1番の友里はいちばん前に並んでいる。私は3番。友里の隣に小っちゃい男子が居る。背の高いイケメンにからかわれている。友里が思わず笑っている。なんだか楽しそうなクラスでいいなあ…。
教室に入ると、席が近い女子が声を掛けてくれた。第一小学校から来たのだと言った。
「私は二小なの。これからヨロシクね」
「こちらこそ」
まあ、早速、友達は出来たかな。隣の席は同じ二小から来た男子だった。あまり話したことはないけど。
ホームルームが終わると、私は1組の方へ行ってみた。ちょうど友里が出てきたところだった。私たちは一緒に帰ることにした。
「新しいお友達出来た?」
「うん、まだお友達になれたかどうかは判らないけれど、一小の子で面白い子が居るの」
「もしかして、体育館で並んでいた時に小っちゃい子をからかっていたイケメン?」
「あー、彼ね。彼も面白いわね」
「えー、違うの? 誰よ? 男子? 女子?」
「フフフ。内緒」
こりゃ、絶対に男子だ。友里はモテるから。
それからも登下校の時は友里と一緒だった。お互いのクラスのことなんかを話しながら。
私はなぜかクラス委員にさせられた。週に一度、委員会がある。もう一人の男子の委員と一緒に委員会に出る。3組の委員はあのイケメンと知らない女子だった。
「ねえ、1組だよね?」
「ん? 俺? そうだけど」
「相沢友里、知ってる?」
「ああ、知ってるさ。可愛いよね…。あっ、伊藤さんも可愛いね」
なんで私の名前を知ってる? 友里から聞いた? いや、名札つけてた。それはともかく、なんか軽いな。こいつ。こんな奴を友里が好きになるわけはないな。
あっという間に3学期になった。クラスではバレンタインデーが近づくにつれて、わそわし始めていた。
「伊藤さん、バレンタインのチョコどうする?」
入学式の時以来、仲良くしている石田さんに聞かれた。
「取り敢えず、クラスの人数分義理チョコ配る」
「えっ? 18人分も? お小遣い足りる?」
「足りるわけないでしょう。だから、板チョコ溶かして手作り風にしたトリュフをいっぱい作るんだよ」
「なるほど! ねえ、一緒にやらない?」
「いいよ。じゃあ、今度の日曜日にウチへおいでよ」
こうして二人で大量のチョコを作った。
バレンタインデー当日。
登校時に友里に聞いてみた。
「友里は誰か渡す人居るの?」
「居るんだけど…」
「だれ?」
「そんなの言えないわよ」
そう言って友里は逃げるように走り去った。こりゃあ、本命が居るな…。その日は委員会で友里と一緒には帰れなかった。委員会の席であいつが友里からチョコを貰ったと自慢していた。
「そんなはずはないんだけどなあ…」
どうしてこんなことになったのか気にはなったのだけれど、結局そのあたりのことを話す機会がないまま1年を終業した。
2年になった。私は真っ先に組分け表を見に行った。そこに友里も来ていた。
「やった! 今度は同じクラスだよ」
友里も嬉しそうにしていた。やっぱり友里には私が付いてなきゃね。
教室に入った。出席番号順に席に着いた。私は友里の後ろ。小学校の頃からの私の指定席。私が友里に声を掛けようとすると、友里が隣の男子に話しかけた。
「すごいね。入学した時はあんなに小さかったのにね」
「そうだろう。だから…」
「ん? だから?」
「いや、なんでもない」
「もう、ちび太君とは呼べないわね」
「いいよ。ちび太で。急に違う呼ばれ方をしたら相沢さんが他人みたいに感じるから」
なんなんだ? 二人のこの会話は? 付け入るすきがないぞ…。そこへ例のイケメンが割って入って来た。
「ちび太、何を言っているんだ? 感じるも何もお前たち他人だろう?」
「まあ、そうだけど…」
そう! その通りだ! しかし、今の会話からすると、こいつは入学当時は小っちゃかったってことか…。まさか、あの時のちびか! 相川寛人、出席番号1…。こいつがずっと友里の隣を独占していたんだな! 許せん! いつか私を敵に回したことを後悔させてやる!
ダメだ。諦めた。友里とちび太はいい感じじゃないか。毎日こんなのを見せつけられていたらバカでも気付くな。でも、なんかしっくりこないなあ。そう言えば、もうすぐ修学旅行だな。一丁、やったるか…。
作戦は失敗だった。友里にやきもちを焼かせてとっとと告白させようと思ったのだけれど、完全に裏目に出た。友里は私に遠慮して、最近、ちび太と距離を置き始めた。それなら、ちび太を焚き付けようとしたら和田のバカが余計なことを…。
そうして迎えたバレンタインデー。友里の気持ちを確かめなくちゃ。私は渡すつもりのないチョコを友里に見せて言った。
「これ、どう思う?相川くんは喜んでくれるかしら」
「いいんじゃない…」
面白くなさそうな顔。私は友里の気持ちを確信してニヤリとした。
「友里は和田くんにあげるんでしょう?」
「私は誰にもあげないわ」
「そうなの…」
これで私が早く帰れば二人はまた仲良くなれるかも。
ところが、ちび太は学校を休んだ。その日の帰りに友里に言われた。
「明日、渡せばいいよ」
「ハハハ、そうだね」
私は苦笑するしかなかった。次の日、友里が居ないのを見計らってちび太にチョコを渡した。
3年になったら、友里だけ別のクラスになった。
「残念だったね」
「仕方ないわ。でも、私たちが親友なのは変わらないわ」
「違うよ。相川くんと違うクラスになって残念だったねってこと」
「何が言いたいの?亜衣は一緒でよかったじゃない」
「バカね。一年間、真後ろでずっと見ていたのよ。二人がお互いに好きなのは解かるわよ」
「お互いって…」
「気が付いてなかった? 相川くんは友里の事が好きなのよ」
「まさか!」
「そのまさかなの」
やっぱり、そんなことだろうと思った。まあ、私にも責任があるんだけど。
「相川くん、グンと背が伸びたでしょう? 最近、クラスでも人気があるのよ。だから、私がガードしておいてあげるから。今度のバレンタインデーにはちゃんと、チョコを渡しなさいよ」
2月14日。
私はちび太の気持ちを確かめるべくチョコを渡した。思った通り、ちび太は受け取らなかった。
友里が教室に入って来た。真っ直ぐにこっちを見てる。そろそろ頃合いかな。
「邪魔者は消えるね」
そう言って私はちび太のそばを離れた。
「なあ、どうなってるんだ?」
和田が間抜けな顔をして聞いてきた。
「お馬鹿さんには一生、解からないわよ」
「なあ、教えてくれよ」
そう言いながら、私の後を追ってくる。意外とかわいいやつだ。
「はい、これ」
私は持っていたチョコを和田に渡した。
「なんだ、余りもんか…」
「贅沢言うんじゃないわよ。いちばんの愛情がこもっているんだから」
シャクだけど、最初から和田にあげるつもりだった。なんだかんだ言っても、こいつはイケメンだし。
あと少しの中学生活は楽しく終えられそうね。