最後の日
♢15♢
五日目、その日の夜。
いや零時を過ぎているから六日目だ。
昨日も何事もなく過ごした。
スカーレットとミネラと三人で出かけたことを除けば何もなかった。
それでいい。悟られてはいけないのだから。
ルプスの方も問題ないようだ。
今日、船を奪えば彼の望みは叶う。
そこにミネラも乗せていってもらう。
ルプスは見た目こそ人と違いがあるが、内面は実に人らしい。彼なら信用できる。
そう思ったからこそ、この作戦に参加した。
スカーレットも同行してくれるみたいだしな。彼女は面倒見がいい。
きっとミネラと歳の近い子たちの面倒を見ているんだろう。
──僕はここに残る。
事が起きればロミオは無視できないはずだ。
そうなった時、彼を止めるのは僕の役目だ。
後は追わせないし、これ以上の犠牲も出させない。
そのためには……。
触れる金属の質感。触れるだけで力を吸われる。
これは非常に危険な代物だった。
威力もさることながら、連射できる点がマズイと思う。あの威力でただ引き金を引くだけ、無限に弾が飛ぶのはあり得ないだろう……。
その分消費も激しいのだろうが、自分が使う分には問題ない。これならロミオの障壁も破れる。
……彼を殺せるはずだ。
それはできれば避けたいが、覚悟はしておかなくてはいけない。この軽い引き金を引く、覚悟を。
眠らなくてはと目を閉じる。
しばらくそのままでいたのだが、静かな場所では物音一つにも敏感になる。
そして何かが動く気配。こちらに近づいている。
腹部に重みを感じ、目を開いた。
ミネラ。寝ぼけてる訳ではないよな……。
「おにいちゃん……」
何か違和感を感じた。声も同じはずなのに。
ロミオに感じたものと同じような──。
「何だ、気づかんのか? おにいちゃん」
……違う。ミネラじゃない。
「──誰だ!」
手を伸ばし銃を掴む。
「撃てるのか? この娘を」
撃てるわけがない。相手はそれが分かっているように、あざ笑う。
「スカーレットと言ったか? あの小娘がいなくなるのを待っていた。妾が戻ってくると思っていたのだろう。四六時中、張り付きおって……」
スカーレット。その名前が出たことで相手が分かった。
彼女と出会った時の……。
「サラサだ。初めましてクロサキ。アスカの方が一文字少なく済むな……。少し話をしようじゃないか?」
そう馬乗りになったままサラサは言った。
正直この体勢はやめてくれないだろうか?
サラサの話の内容は単なる愚痴だった。
それを体勢を変えることなくされる。
重くはない。重くはないのだが。
「そろそろ降りてくれないか?」
「何だ。嫌なのか……おにいちゃん?」
「おにいちゃんも、やめてくれ」
しぶしぶといった様子で、サラサは横にズレる。
自分も起き上がり彼女と向かい合う。
「──ミネラから離れろ!」
「おぉ、怖い。離れた瞬間に撃たれそうだから却下だ。それにな、この娘は操作されているぞ?」
「……操作?」
「悪趣味なことだ。望むなら外してやるが、どうする?」
操作? 誰が、いつから、何のために?
「……証拠は? 何もなくそんな話を信じられるか」
仮にそうだったとして、確証もなく信じられない。
「アスカ、お前は見えるはずだ。目を凝らし、感覚を研ぎ澄ませ。貴族の気配を感じるように……」
……仕方ないか。
言われたとおりにしよう。
ミネラは人質と一緒だ。逆らうのはよろしくない。
「違う。余計なことを考えるな。位置は首だ」
余計なことか。邪念は消せと……首だよな。
その位置に確かに何かを感じる。感覚としては間違いない。
言われた通りにやって、本当に察知することができた。
そして目を凝らす? 集中するってことか?
すると薄っすらとだが魔法陣が見えた。すぐに消えてしまったが。
今のが操作されてるってことか?
やり方は理解した。もっと正確に──。
「見えたか? 人の手によるものだな。意味あいとしては首輪といったところだな。上手く隠しているし、術師は中々の腕だな」
「……何の、ためだ?」
「さあな。どうする、外すのか?」
「外してくれ」
サラサは自分の首の位置にある魔法陣を、そのまま手で引っ張る。
簡単に外された魔法陣は宙に浮いたままになる。
──これ。
その一部分。そこに見覚えがあった。
魔法陣には使う人ごとの癖がある。
文字であったり、形であったり。
その文字は作者のサインのようなものなんだろう。そして僕はこれを知ってる。だってこれは……。
「サウス」
その男の魔法に間違いない。
教えを受けていた自分だから分かる。
何でだ? サウスが……。
「知り合いだったか? ソイツはこの娘から情報を得ていたのだろう……お前のな」
僕の? 毎日のように顔を合わせているのに?
「本人を問い詰めろ。理由は吐かせてみないと分からんぞ?」
理由。それは何だ? 監視にしては弱い。
ミネラを操って何の得がある……。
「妾のは電気信号の操作だが、これは一種の催眠のようだな。どの程度かは分からんが、お前がこの娘に話した事は相手に伝わっていると思った方がいい」
ミネラには作戦の一切を話していない。
そこが漏れている可能性は無い。ただ、言い知れぬ不安がこみあげてくる。
サウス本人に聞かなければ分からない。けど、そんなこと出来る筈がない。
自分から疑っていると思わせてはダメだ。
なら、どうする?




