お出かけ 3
ムツの街。その西側の端。
露店の並ぶそこは、予想していたより賑わっていた。食材に雑貨。一通りは揃っている。
他にも様々な露店も並び、この一角の方がよほど街らしい。そう思ってしまう。
この街の僅かなスペースに過ぎない場所なのにな。
「結構、人多いんだな……」
「当たり前でしょ。遊んでる奴等が多いってことは、使われてる人はそれ以上な数が必要に決まってる。ここに来る人はマトモなはずよ。少なくとも昨夜、遊び歩いてはいないでしょうしね」
そうか。今頃寝てるような奴等が客なんだ。
ここにいる人たちは、その間に働かなくてはならない人たち。
「その二つを見分けるのは簡単よ。身なりで分かるでしょ? あの着飾ったのと比べればね」
「……確かに」
その通りだった。明らかに見劣りする。
悪いことではないはずなのに、街の中では浮いてしまうだろう。誰もが裏方なのは言うまでもないな。
「ところでお兄ちゃん。おいくらほどお持ちかしら?」
「──えっ?」
「あら、まさかとは思うけど。女の子に払わせたりはしないわよね?」
──えっ?
考えてなかった……。
ちっとも、全然、まったく、これっぽっちも。どうしよう……。
「……あれっ? 本当に持ってないの?」
無い。お金なんて持ってるわけがない。
「異世界の通貨なんて持ってない」
だから正直に言ってみた。
「屋敷から持ってきなさいよ」
スカーレットは、なんて事を言うのだろう。
「泥棒って知ってるか」
「あるところから貰うだけよ。お金は使った方が世の中のためよ?」
間違ってはないと思う。その手段は間違っているけどね。
「ミネラごめんね……。お兄ちゃんの甲斐性がないばかりに、ひもじい思いをさせて……」
ものすごくワザとらしい。
「だいじょうぶだよ。こうしてるだけで、たのしいから」
「なんていい子。でもね、そんなに遠慮しなくていいの。お兄ちゃんが何とかしてくれるから。ね、お兄ちゃん?」
……盗ってこいと?
僕をお兄ちゃんと呼ぶからには妹なんだろう。なんて妹だ。
「──オマエ、文無しか? イイ仕事あるヨ!」
片言の日本語で、そう声を掛けられる。
それに明らかに怪しい風貌だ。無視だ。無視。
「すぐにくれるの?」
スカーレットが返答する。
無視しようと思ったのに……。
「前金でもいいヨ」
「やりなさいよ。可愛い妹のためよ?」
「決まりネ」
何にも言ってないんだけど……。
そんな訳で怪しいお姉さんに連れてこられた。
この一角で一番大きな建物に。
スカーレットはミネラと共に、露店を見ていると言っていた。だいたいの目星をつけておくつもりのようだ。
「奥に行けヨ」
目の前には扉があり、そう言われる。
……ここを開けるのか?
「早く入る。時間もったいない」
促され扉を開いた。中は様々な物に溢れる場所だった。
それも一見して用途の分からない物だらけだ。
「ここに入れば安全ネ。さて勇者様。何が欲しいカ?」
「……勇者?」
「そうだヨ。そっちから近づいて来てくれるとは思わなかった」
何かが不自然。この世界でいう勇者とは何だ?
「勇者は勇者ネ。邪魔な貴族をぶっ殺して、もっと商売をやり易くして欲しい。それが仕事ヨ?」
「……それがいい仕事」
「そうヨ。お前たちに協力しろ言われてる。投資ネ。協力してやるヨ」
……協力? お前たち?
「察しが悪いネ。黒崎 飛鳥。そんな名前だったカ? はじめまして。そして異世界へようこそ」
何で、名前を知ってる……。
思わず身構えてしまう。
「やめた方がいいヨ。私たち敵じゃない」
「……私たち?」
「名前くらい聞いたろ? 商会。それが組織名だヨ」
自分の中で二つの世界を繋ぐその名前。
スメラギという貴族。
その組織が敵じゃないとはどういうことだ?
この世界において、それは何なんだろう。
どちら側で何が目的なんだろう……。




