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 真実 5

♢10♢


 四日目。今日もサウスの診療所に来ていた。

 昨日までと変わらず過ごすと、そう決めたから。


 昼間は魔法を学び、夜はルプスたちと作戦会議。そんな予定になっている。


 奴隷の少女ミネラは、スカーレットが面倒を見ている。

 僕の部屋には誰も訪れない。部屋の主がいないのだから。


 もしもの時は、スカーレットがなんとかするだろう。自分がすべきことは魔法を覚えることだ。


「……アスカくん。昨日、言ったこと聞いてませんでしたか。しばらくここには来ない方がいいと言いましたが?」


「それより、ここ聞きたいんだけど」


「それより?! あえて無視したと? まあ、私めはそれが役目ですから、どれどれ」


 サウスは教えるのが上手い。

 少しの質問で倍近い返答をくれる。そして分かりやすく説明してくれる。


 ……先生と呼ぼうか?


「先生。この防御術式は?」


「先生? いや、悪くない。悪くないですよ。そう呼ばれるの」


「そういうのいいから早く」


 攻撃面は今のスタイルでしばらく乗り切る。

 強化すべきは防御面だろう。

 自己強化プラス魔法による防御。まず習得すべきはそこだと思う。


「では講義しましょう。防御の魔法は、多重多層でなければ覚えるのは難しくはない。まず──」


 異世界なのに、なんだか塾にでも来ている気分になるな。


 ♢


 ミネラは真面目に仕事をしている。

 そんなことしなくてもいいのに。ここは、ただ寝るだけの部屋なのに。


 この子は真面目だ。恐怖心がそうさせるのだろうか?

 どうしてここに来る事になったのか。なんて間違っても尋ねない。辛い事を思い出させるだけだから……。


 なんで、アスカはこの子を助けたのだろう?


 女の子だから? 可哀想だった? ……違う。

 それもあるかもしれないけど、なんか違う気がする。足りない気がする。


「お兄ちゃんは、今ごろ勉強してるかな?」


「……おにいちゃん?」


「お兄ちゃん。そう呼ばないの?」


「いもうといるっていってたよ? それなのに……おにいちゃん?」


 妹。それが理由?

 この子が妹にだぶって見えたのかな……。


「それなのにお兄ちゃん。いいんだよ、それで」


「おにいちゃん……」


 ミネラは噛みしめるように言った。

 私もお兄ちゃんって呼ぼうかな。なんてね。


 ♢


 ミネラを見ていると思い出してしまう。

 一人きりだった私はこの子のように捕まり、貴族に献上された。


 慰み者といったところだろうか。

 恐怖で体は動かず、ただ泣くしかなかった。

 いよいよとなってしまった時、アル様は現れた。


 泣く私に目も向けず……貴族を殺した。


「──下衆が。どこまで貴様等は腐っている。未来を担う子供を玩具にして何が貴族だ。 ……それも元は我の所為か……」


 白銀の髪。貴族特有の赤い瞳。

 容姿こそ人間のようだったが、ただ怖かった。

 今まで目の前にいた化け物と同じ、この人が……。


 私はずっと泣いてた。ただ、泣くだけの子供にアル様は戸惑っていた。


 恐怖で感覚は鈍り、痛みすら感じていなかったが、


「怪我をしているのか? 診せてみろ」


そう言って私は抱き上げられた。

 触られた部分は暖かく、人間の体温を感じた。


「……どうして子供とは泣くのだ? 涙とはどんな時に流れる?」


 私は何も答えられない。その質問の意味もよく分からなかったから。


 どこまでも澄んだ色。

 青色。傷を癒す力。それが私を包む。


 その温かさは感じたことのないものだった。

 貴族の黒ではない、人としての力。


 その力は瞬く間に傷を癒す。

 痛みなど消えさり後に残るのは安堵感。また、涙が溢れてくる。


「何故、泣く。まだ痛むのか?」


 また、私は何も言えない。


「……体の傷ではないのか。我は、傷なら治してやれる。叶わぬのは死者を蘇らすことくらいだ。だが……心の傷までは癒せぬ。手段も分からなければ、心も分からぬからな……」


 優しく語りかけてくる。


「こうして一人助けたところで、何が変わるわけではない……。しかし助けられる者すら見捨ては、母に申し訳すら立たん。名は何という?」


 分からない。そんなもので呼ばれたことなどなかったから……。


「名とは、親が子供に贈る初めてのものだろうに。それすら分からぬ子供がいるのか。後悔とは、こういう感情なのだろうな……」


 悲しげな表情をした。


「……スカーレット。その緋色は美しい。我はお前をそう呼ぶことにする」


 この日、私は命と名前を貰った。


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