真実 5
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四日目。今日もサウスの診療所に来ていた。
昨日までと変わらず過ごすと、そう決めたから。
昼間は魔法を学び、夜はルプスたちと作戦会議。そんな予定になっている。
奴隷の少女ミネラは、スカーレットが面倒を見ている。
僕の部屋には誰も訪れない。部屋の主がいないのだから。
もしもの時は、スカーレットがなんとかするだろう。自分がすべきことは魔法を覚えることだ。
「……アスカくん。昨日、言ったこと聞いてませんでしたか。しばらくここには来ない方がいいと言いましたが?」
「それより、ここ聞きたいんだけど」
「それより?! あえて無視したと? まあ、私めはそれが役目ですから、どれどれ」
サウスは教えるのが上手い。
少しの質問で倍近い返答をくれる。そして分かりやすく説明してくれる。
……先生と呼ぼうか?
「先生。この防御術式は?」
「先生? いや、悪くない。悪くないですよ。そう呼ばれるの」
「そういうのいいから早く」
攻撃面は今のスタイルでしばらく乗り切る。
強化すべきは防御面だろう。
自己強化プラス魔法による防御。まず習得すべきはそこだと思う。
「では講義しましょう。防御の魔法は、多重多層でなければ覚えるのは難しくはない。まず──」
異世界なのに、なんだか塾にでも来ている気分になるな。
♢
ミネラは真面目に仕事をしている。
そんなことしなくてもいいのに。ここは、ただ寝るだけの部屋なのに。
この子は真面目だ。恐怖心がそうさせるのだろうか?
どうしてここに来る事になったのか。なんて間違っても尋ねない。辛い事を思い出させるだけだから……。
なんで、アスカはこの子を助けたのだろう?
女の子だから? 可哀想だった? ……違う。
それもあるかもしれないけど、なんか違う気がする。足りない気がする。
「お兄ちゃんは、今ごろ勉強してるかな?」
「……おにいちゃん?」
「お兄ちゃん。そう呼ばないの?」
「いもうといるっていってたよ? それなのに……おにいちゃん?」
妹。それが理由?
この子が妹にだぶって見えたのかな……。
「それなのにお兄ちゃん。いいんだよ、それで」
「おにいちゃん……」
ミネラは噛みしめるように言った。
私もお兄ちゃんって呼ぼうかな。なんてね。
♢
ミネラを見ていると思い出してしまう。
一人きりだった私はこの子のように捕まり、貴族に献上された。
慰み者といったところだろうか。
恐怖で体は動かず、ただ泣くしかなかった。
いよいよとなってしまった時、アル様は現れた。
泣く私に目も向けず……貴族を殺した。
「──下衆が。どこまで貴様等は腐っている。未来を担う子供を玩具にして何が貴族だ。 ……それも元は我の所為か……」
白銀の髪。貴族特有の赤い瞳。
容姿こそ人間のようだったが、ただ怖かった。
今まで目の前にいた化け物と同じ、この人が……。
私はずっと泣いてた。ただ、泣くだけの子供にアル様は戸惑っていた。
恐怖で感覚は鈍り、痛みすら感じていなかったが、
「怪我をしているのか? 診せてみろ」
そう言って私は抱き上げられた。
触られた部分は暖かく、人間の体温を感じた。
「……どうして子供とは泣くのだ? 涙とはどんな時に流れる?」
私は何も答えられない。その質問の意味もよく分からなかったから。
どこまでも澄んだ色。
青色。傷を癒す力。それが私を包む。
その温かさは感じたことのないものだった。
貴族の黒ではない、人としての力。
その力は瞬く間に傷を癒す。
痛みなど消えさり後に残るのは安堵感。また、涙が溢れてくる。
「何故、泣く。まだ痛むのか?」
また、私は何も言えない。
「……体の傷ではないのか。我は、傷なら治してやれる。叶わぬのは死者を蘇らすことくらいだ。だが……心の傷までは癒せぬ。手段も分からなければ、心も分からぬからな……」
優しく語りかけてくる。
「こうして一人助けたところで、何が変わるわけではない……。しかし助けられる者すら見捨ては、母に申し訳すら立たん。名は何という?」
分からない。そんなもので呼ばれたことなどなかったから……。
「名とは、親が子供に贈る初めてのものだろうに。それすら分からぬ子供がいるのか。後悔とは、こういう感情なのだろうな……」
悲しげな表情をした。
「……スカーレット。その緋色は美しい。我はお前をそう呼ぶことにする」
この日、私は命と名前を貰った。




