真実 4
♢9♢
ムツの国は、この村が以前は栄えていた。
この国の中心だった。貴族の城に近いここがな。
だが、ロミオが親に代わり支配者として動き始めてからは、港の近いあの場所を国の中心とした。
あそこに国の全てを集め、道楽の施設を誘致し、悪趣味な演し物まで始めやがった。
客はあらゆる金持ち連中だ。
陸路が使えた時は酷いもんだった……。
いくらかマシと言いたいが、国の中は変わらないんだ。
この国の住人はな、無作為に抽出され演し物に使われる。
連れていかれたヤツは一人も帰ってこない。
良くて売られ、酷けりゃ演し物と称し殺される。
この国は地位も名誉も金で買える。
貴族のお墨付きがあるってことは、それだけで価値があるからな。
貴族が認めればどんな不条理もまかり通る。
この国で買えないものは無いだろうな。
それがこの国。
オマエには、この世界と言った方がいいか……。
そして、買えるってことは売れるってことでもある。
客の集まる期間は、売りたい物を持ち込む輩もいる。オマエが助けた子供とかな?
盗賊なんて他じゃ認められないが、ここじゃ別だ。アイツらの盗品さえ扱ってる。
貴族が法だ。逆らえる奴なんていないからな。
昼間の盗賊たちだが……本当はあの場でぶち殺してやりたかった。今頃どうなってるかは知らんがな。
アスカ。オマエはまともだった。貴族とは違う。
オレはロミオが優遇するオマエを、アレらと同じだと思ってた。
この国の客連中と同じだと思ってた……。
ロミオは、自分は特別だと思ってる。
支配者の父。その息子である自分は特別なんだと。
ロミオがボンクラなら、親の七光りで片付けられるがアイツは違った。アレは親以上だ。
……あんな化け物は見たことがない。
オレは勇者たちとさえ戦ったんだ。
やがて終わらない戦いは終わり、オレは故郷に帰ってきた。
だが現魔王は足掻き、勇者たちを返り討ちにしやがった。
アレがなければ、こうはならなかったはずだ。
勇者たちが倒された後、あちこちに貴族が配置され支配が始まった。
そして支配者となった貴族たちに変化が現れる。人間に子を産ませ始めた。
その子供は化け物だった。
異形から生まれた人。
人の心を持ち、親の力を受け継ぐ。
──悪夢だろう?
オレたち獣人は、まだ対抗できる。
人間たちにとっては悪夢以外のなにものでもない。
世界のバランスが崩れたことにより、人間は弱体化したからな。
今や支配は完璧だ。
だから娯楽が必要なんだ。
暇な権力者に貴族。客になる奴らは決まってる。
そんな奴らの暇つぶし。
それにこの国の人間は消費されるんだ。
この世界はどうかしてる……。
オマエはどう思った?
獣人の男。名をルプス。
彼の語った話を、僕たちは黙って聞いていた。
♢
「オレはここの奴らを逃す。今回は免れたが、次はダメだ。間違いなく大勢が死ぬ。ロミオはここを第二の街として機能させたいらしい。住民は邪魔なんだ。その前に消費するだろう」
ルプスは言った。
「……他の村や街に避難すればいいんじゃないのか?」
「オマエの戦った黒い兵士を覚えているな。あれはロミオの魔法だ。今のムツの街には、魔物避けすら張られてない。理由はアレがいるからだ。魔物なんてここらにはいない。全部アレが狩りつくすからな。街から出ればアレに出くわす。必ずな……。見つからずに大人数での移動は不可能だ」
兵士と言わればそんな感じだった。
槍、弓、剣、と武器を持つ黒いヤツ。
……あれが魔法?
「魔法よ。偽りとはいえ生命に近いものを作る魔法……。より強い貴族ほどその魔法を使える。魔王が最たるものでしょう? アレは一人で一国分くらいなら人形を作れると聞いたことがある」
「よく知ってるな。戦いが長く続いた理由はそれだ。貴族は一人で一国分に相当する。人間がいくら集まろうと同じだけ、それ以上の数を補える」
一人で何千何万と兵士を作り出せる……。
それがロミオと、その父親。二人もいるのか?
「どうやって逃げるの。兵士と戦いながらなんて言わないでしょ?」
「ちょうどいい物が港にあるだろう? 二日後。一番でかい船が港に着く。それを奪う」
「逃げるあては?」
「南はダメだ。スメラギはマズイ。今は娘だが親は魔王に近い力を持っていた。一人で十万の人形を操ってみせた。勇者にヤラレてくれて本当に良かった。その娘も大差ないだろう。ならば……北に行くしかない」
桁が十万までいくのか。アレがそれだけの数襲い来る。
よくこの世界の人たちは戦えたな……。
「北。確か貴族の名は……カムイ」
「アスカ……この娘は何者だ? 貴族の変わり者。大戦以前から存在しているが、一度もあの地を離れない。姿すら見せない男。名前だって知ってる奴の方が少ないだろうに」
「スカーレット。君は何でいろいろ知ってるんだ?」
今更な気もするが彼女のことを何も知らない。
名前と、慌てるとテンパること。くらいしか知らない。
「私の主人も貴族だからよ。ただ一緒にしないで? あんなのと。同じなのは瞳の色くらい。他は何一つ違う」
「瞳の色……。あの赤い眼は貴族特有のものなのか?」
「そうよ。見分けるの簡単でしょ? もう一つ。使う魔法が真っ黒。自分たちのようにね?」
赤い瞳に、黒い魔法か。
「私たちも協力しましょう? そしてアナタも一緒にいった方がいい。 ……それとも私と来る? アル様は歓迎してくれるわよ?」
「確かにな。このまま留まれば利用されるだけだ。ロミオはオマエが思っているような奴じゃない。ここに来た事が間違いだ」
間違い……なのか?
ここに来る事は分かっていたのに。
疑いは生まれた。けど、それだけだ。
ロミオを見限って他に行くほどだろうか?
彼は話しだってできる。
なら、話して分かり合える。と思うのは自惚れか?




