真実 2
星だと思っていたものは人だった。それも女の子。
流れ星じゃなかったことを、子供たちは残念がっていた。
──そんな場合じゃない!
アル様は、どうして子供たちに甘いのか? 私にだって……。
──これでもない!
この女の子を早く診てもらわないと。
そして、本当に珍しいことに、やった本人は驚いていた。
どういうつもりだったのか問いただしたかったが、そんなことは後回しだ。
治療はいつもと同じ。何も問題なかった。
問題は、その後だった……。
治療された彼女は自然な仕草で立ち上がった。
ペタペタと自分の身体を触り、おかしなところがないか確認しているようだった。
……良かった。
そう思ったのもつかの間、彼女はアル様から目を逸らさない。
同じようにアル様も彼女を見つめていた。
やがて彼女が口を開く。
「……オマエが勇者を殺したヤツだな? そんな奴が世界のどこにいるのかと思っていたが……まさかだな」
彼女は、あの女はそう言った。
「あの男の目的を断つのは気が咎めるが、この機会は無駄にできん。貴様はここで妾が消しておく──」
次の瞬間には雷撃がいくつも降り注ぎ、女の姿が消える。
そして戦いが始まった。
圧倒的な力を持つ者の戦いが……。
♢
二人に差はなかったように思えた。
だけど、女の方が突然膝をついた。
「この体の貧弱さもさることながら、元から欠陥もあるとは……。電気信号がおかしいな。原因はそこか? 生活に支障はないが魔法を使うには致命的だ。出来損ないが……」
明らかな隙。なのにアル様は動かなかった。
どうして? なら、私が──。
それが間違いだった。
私は理解できていなかった。力の差というものを。
確実に仕留められる……つもりだった。
「その男が何故、妾に近づかなかったのかも分からんのか?」
女まであと一歩の距離。
そこで足元から雷が現れる。
先ほどの比ではない雷が下から上に登る。
私は目をつぶった。
雷鳴が響き、私は吹き飛ばされる。
雷にではなくアル様に。
雷は腕を貫き、片腕は焼けただれていた。
「──邪魔だ! 子供たちと下がっていろ!」
初めてだった。怒鳴られることなんて。
怒りなど顔にも口にも出さない方だ。
「……気になっていたが、この子供たちは一体なんのつもりだ? 英雄を殺し、再び悪夢を見せている張本人が、どういうつもりでこんな真似をしている?」
その問いにアル様は答えない。
「踏みにじるだけでは飽き足らんのか? これ以上を望むのか? 何もかも全ては貴様のせいだろうに……」
「黙れ……」
直後、何か嫌な音がした。女の口から血が溢れる。
「妾としたことがこれは迂闊だった。こんなに早く駒を失うことになるとは。今、オマエが殺したのは……勇者の代わりだったんだかな……」
突き刺さる腕を引き抜くと、女は倒れ動かなくなる。
「……アル様」
「死なせん。あの女を追出すにはこうするしか方法が無かった。それだけだ……」
アル様は、動かなくなった彼女を抱え上げ奥へと消えていく。
追出すにはとアル様は言った。
それはつまり……。
やっぱり気配がある。
まだ、この場所に。
「体が無くては魔法もろくに使えんのだかな。まだやるか?」
「……いいえ。子供たちの安全が先よ」
「従順だな……。あれがどうなるのか見届けるまでは、妾はここにいる」
あれとは、あの女の子のことだろう。
──コイツはあの子を何だと思っているのか?
子供たちを安全な場所に連れて行ったら、すぐに戻ってくる。自分の失敗は自分で取り戻す……。
それにアル様に怪我を……。
自分をぶん殴ってやりたくなる。
♢
「相手との力の差も分からんのか? 何度、無様な姿を晒せば気が済む?」
ふわふわと漂う女は、見下し私に言う。
実体のない体。それなのに存在している。
その矛盾。その力。
完全に常識を逸脱している。
これだけ苦労する相手は、アル様くらいだと思っていた。
この女。強い……。
何より、その体が厄介だ。
ただの魔力の塊。つまり本体じゃない。
いくらでも代わりのきく分身。
しかもその分身は、接触した人間にしか見えない、触れない、気がつくことすら出来ないだろう。
「まだやるのか。殺しはせんが、流石に面倒になってきたぞ……」
女は飽き飽きといった様子を見せる。
知ったことか何度でも付き合ってもらう。
向こうに殺す気がなくても、私にはあるのだから。
「ところで、お前はあの男が何をしたのか知ってるのか?」
「お前の話なんて信じない」
「取り付く島もないな……ならいい。それと、もう付き合わんぞ」
──勝手なことを。
「スカーレット。何を暴れて……」
治療を終えたのだろう、アル様が立っていた。
「貴様……まだいたのか。あの娘なら生きているぞ? 貴様の言った通り欠陥があった。全て治したし、元より丈夫になったはずだ」
「それは有難い。生きているのなら使い道がある。お前を殺すこともできよう……」
「いいだろう。見極めなければならない」
嘘。また戦うというのか?
彼女を使って……。
「──やめて! 何であの子にそんなことを?」
するの? なんのために?
「事情は分かった。我はその目論見に乗る。コイツはともかく、あの娘は必要だ。 ……スカーレット。先に墜とした奴のところに行ってくれ。息さえあれば助けられる。ここへ連れてこい。これは、お前にしか頼めぬことだ。頼む」
そう言われては、私は嫌だとは言えない……ズルい。
「連絡はする。すぐに行け……ムサシの辺りだ」
私は無言のまま、その場を後にする。
その後。私がアル様から聞いたのは彼女は死んだと、体すら残さず消えたと聞いた。
しかし……あの女は逃げたようだ。
なら、見つけたら次こそは……。




