真実
♢8♢
この国の一端を垣間見た。その日の夜。
目は冴え眠ることができずにいると、ベランダから物音がした。
コツッと何かが窓に当たる音。
二度、三度とそれが数を重ねる。
何かがガラスに当たってる音だろう。
様子を伺うためにソファーから身を起こし、窓に近づく。
……誰もいない。
念のため外に出て確認しようと、鍵を開けベランダへと出ることにした。
街は、まだまだ明るく灯りが消えることはない。
「──こんばんは。あなた、噂になってるわよ?」
誰もいなかったはずのベランダに彼女はいた。
名前と同じ緋色の髪をした彼女。
「……あの子は?」
あの子とは、あの女の子を指しているんだろう。
「寝てるよ……」
今はベッドですやすやと寝息をたてている。
怯えられて大変だった。
「そう、それでベッドを追い出されたの? あなたの部屋なのに?」
彼女は笑う。おかしなものを見たように。
「変な趣味もないみたいね。あの子に手を出すような奴だったら、殺してたわ……」
その言葉は本気だったと思う。
「忠告が足りなかった……ごめんなさい。でも、あなたがいたから女の子は助かったのよ」
「僕は何もできなかった……」
「……そう思えるなら十分よ。見たでしょう? この国の一端を。どんなに綺麗に取り繕っても見栄えがいいだけ。中身は歪で真っ黒。人を人とも思わない貴族と客。この場所にいるのは、そんな奴らよ」
見栄えがいい。それは最初に思ったことだ。
ただ、それだけだった……。
「人の売買なんてマシなほうよ。もっと……目を逸らしたくなるような事が毎夜行われる。あれが貴族だなんて! アル様と同じだなんて!」
彼女は言葉を荒げる。
彼女は本気で怒っている。
それは、普通の、当たり前の感情のはずだ。
「港には船が沢山来ているわ。客という名の、人でなしたちを乗せた船がね。どうしてスメラギが陸路を封じたのか、この国を見て気づいた。あの連中を一人でもこの国に入れないため。船なんて持ってるのはかなりの金持ちだけだもの。陸路が無ければ、訪れる人数は減るものね……」
「……この国は、ずっとこうなのか?」
「知らないわ。初めて訪れたのだから。私はあなたを探しに来たのよ? ムサシの彼とあなた。そして……もういない彼女。あなたで三人目」
──僕を探しに?
初めて会った時から、何かを知っているようだった彼女。
「この国だけじゃない。この世界は狂ってる。あなたたちは、それを壊してくれるかもしれない。だから、私に……アル様に力を貸して。貴族なんて殺せるなら殺してやりたい! でも……私にはできない……から」
それほどに強い。消えいるような声で彼女は言う。
「……僕はロミオに勝てるとは思えない」
そうだろう?
魔法を使えても話にならなかったのだから。
「現実的ね。ムサシの彼ほど無謀じゃないみたい。なら、あの貴族のいいなりに行動するの?」
それは……もう無理だ。
あの出来事が一端だというのなら、もうロミオを信じることなどできない……。
彼のしていることは、世界を救うどころか真逆のことなんだろう?
「ちょっと付き合って?」
見せたいものがあるの。
そう言って彼女は僕の手を掴む。
強引な彼女の行動に僕は救われていた。
一人ではどうしたらいいのかも分からなかったから……。
♢
ムツの国に来たのは、彼の生存確認とあの女の気配を感じたからだ。
得体の知れない魔法を使う女。
あれと出会ったのは、一人の子供が発した言葉がきっかけだった。
空に漂う星を子供たちが見つけた。
不可思議なそれは、初めて見るものだった。
アル様は戯れに流れ星かもしれないとおっしゃった。
──それが始まりだった。
「──流れ星?! あれは星なの? 見たい! もっと近くで見たい!」
一人の子がそう言った。
見たいと言っても、空に浮かぶ星をどうすることもできやしない。
そう思ったんだけど……アル様はそれを墜とした。
私は絶句するしか無かった。
だって、そんな無茶が現実として目の前で起きたのだから。
一回目は失敗した。ただ地面に叩きつけただけ。
まだ、それが何なのか知らなかった私たちは、何とも思わなかった。
二回目は向かって来た星を墜とした。
上手くいったのだろう……多分。
明らかに地面は抉れ、落下の衝撃で星だと思っていたものは砕けていたけど。
その場所には女の子が倒れていた。
私と同じくらいの歳の女の子。
……そう、あれは人だったのだ。
そして残りの星は流れ。空は闇に戻った。




