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 異世界にて 5

♢5♢


 異世界に来た翌日。

 その早朝に僕は目を覚ました。


 理由は、慣れない豪華すぎる部屋で寝たことだろう。

 昨夜は街まで着いた後、多少の会話をしてお開きになった。


 寝床なんてどこでも良かったのだが、ロミオは僕を客として持て成すつもりのようで待遇がいい。


 だけど……良すぎるのも考えものだな。

 あまり居心地の良いものではない。


 ベッドから起き上がり窓のそばへと近づく。

 昨日は街の様子までは分からなかった。


 通りがかっただけだからな。

 ここへ来るまでに結構な人数とすれ違ったが、いま人影は確認できない。


 彼はずいぶん人気があるようだった。

 すれ違う人はみんな彼に注目し、声をかけていたし、彼は気さくにそれに答えていた。


 人影のない街を眺めていると、コンコンとノックされた。


 ──誰だ?


 こんな朝早く訪ねてくる人がいるとは思わなかった。


「はい……」


 短く応えると、相手はドアを開け中へと入ってきた。


「おはよう。昨夜はすまなかった。予定があって早々に切り上げてしまって」


 ロミオだった。


「実は今日も予定が詰まっているんだ。アスカ、君と話をできるのは、朝早くか深夜しか時間を作れそうになくてね」


 訳あっての訪問だった。

 確かに、昨日も忙しそうだった。

 そんな中、昨夜はわざわざ迎えに来たのだ。


「……誰かと思ったよ」


「夜の方が良かったか? しかし、君は時間が惜しいんだろう?」


「惜しいといっても、そこまでじゃないよ。昨日の今日で、というほどじゃないんだ」


「なんだ……。今日にも、ここを発つと言い出すのかと思っていた」


 彼には話した。ここへ来た目的を……。

 酷く自己中心的な理由を。


「半年は猶予がある。まだ一日しか経ってないし、焦っても仕方ないし……」


 そう、半年という時間がある。

 いや、半年しか無いのか……。

 この世界で活動できる期間は。


 その間になんとしても見つけなくてはいけない。

 解決策を、もしくはそれに代わる何かを。


「兄妹のいない私には分からないが、力になれるなら協力しよう。となると医者か。後は魔法。多少は鍛錬も必要だな」


「医者を紹介してくれるのはありがたい。早速、今日にも会えるようにしてくれると嬉しいんだけど」


「それは心配いらない。このまま向かえばいい」


 ……このまま? ──このまま、今から!?


「いや、流石にそれは迷惑じゃないのか?」


「構うことはない。その為の医者だろう?」


 そう言ってロミオは部屋を出て行ってしまう。


 後を追うしかない……よな。

 こうして早朝に出かける事になった。


 ♢


 先を行くロミオに着いて行く中、街の様子がやはり不自然に思える。

 屋敷を出てから誰とも会わない。誰もいないんだ。


 いくら早朝でもこんな事があるか?


 周囲を伺っていた僕に気がついたのか、ロミオは「どうした?」と聞いてきた。

 ちょうどいい。疑問は無い方がいい。


「昨夜は賑やかだったのに、誰もいないんだな……って思って」


「街の中で、ここに住んでる者はいないからな。皆、西側に泊まる場所がある。それに、開店も閉店もどこも同じ時間に定めている。そこでの優劣ではなく、あくまで内容が重要だからな……」


 静けさは当たり前だった。

 誰もいないのだから……。


 だけど、泊まる場所とはどういう意味なんだ?

 帰る家ではなく、泊まる場所と言ったよな。


「みんな帰ったんじゃないのか?」


「……帰る? アスカ。君の思っているこの街の住人は、大半が遊ぶ為に訪れている客だ。ムツの国の住人は、この街にはほとんどいないんだ。雇われている者くらいだろうな。街にいるのは」


 つまり、昨夜の人たちは観光客。

 なら、この国の人は?


「ここは施設がメインなんだ。生活感があっては外観を損なう。住人は他の街や村で暮らしている。君のいた場所でも、娯楽施設に住んでる人はいないだろう?」


 確かに、テーマパークの中に住んでる人などいるはずがない……。


 街と聞いて勘違いしていたようだ。

 ここはあくまでもテーマパークなんだ。

 そして近くにはホテルがある。

 客はそこに滞在しているのだ。


 したがって純粋なこの国の人は、ここには少ないのだろう。


「納得したか?」


 僕が頷いたのを確認し、ロミオはまた歩き出す。


 ♢


 いちおうノックはした。けど、返事はなかった。

 どう考えても早すぎるのだ。


「カギはかかっているのか。メンドウだな。後で直せばいいか」


 バキッと嫌な音がした。

 次いで、カギのかかっていた扉が開く音。


 カギをかけていた意味……。

 それに法律とかないんだろうか?


 勝手に中に入っていってしまうロミオ。

 また、後を追うしかない……か。


「なんだ。居るんじゃないか。 ──おい!」


 それは居るだろ……。

 だって鍵かかってたしね。


 目的の人物は机に突っ伏していた。

 明らかに寝落ちした状態だと思う。


 ロミオが二回目の、──おい! と口にした時、寝ていた人物はビクッと反応し飛び起きた。


「──はい! なんでしょうか! ……え、え?」


 そんな反応だろう。

 突然起こされ、鍵がかかっていたはずの場所に起こした相手がいるんだから。

 状況がすぐに理解できるはずがない。


「え? ロミオ様。何で? どうして……ここに?」


 男は医者というには違和感のある格好。

 寝巻き姿だったとしても、自分の思う医者とはかけ離れていた。


 イメージとしては魔法使い。そんな感じの服装。

 エクセラの言ってた通り、魔法を使う医者なんだろう。


「用もないのに訪ねたりはしない。彼の話を聞いてやってくれ」


 未だに起きているのか寝ぼけているのか、分かりづらい男は 「……はぁ」 と、絶対に理解していないだろう返事をする。


「彼は私の客だ。扱いは私と同等にしろ」


 それが鶴の一声だったのだと思う。


「──なんと! 友人とは珍しい。いや……初めてですかな?」


 年齢的には三十代くらいだろうか?

 それほど歳をとっているとは思えないし。


「友人。そうか、 ──それは思いつかなかった! 友人か。なら、客以上に持て成せよ?」


 今のは墓穴だったんじゃないだろうか?


 男もそのことに気がついたのか、しまったというような顔をした。


「ところで……何故、こんな朝早くに?」


 やっぱりそう思うよね……。


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