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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
78/337

 動き出す世界 7

♢52♢


 マナさんから出歩いてもいいと許しが出た。と言っても……この建物の中だけ。

 一階は半壊し、二階は物だらけ。

 ほとんど何の意味もない許しだったな。


 部屋に戻るしかないか……。


 その時。ふと、あることを思い出した。


 ──そうだ。上に出る梯子があった。


 屋根の上にでも出て風に当たろう。

 部屋にこもっていたからだろうか、無性に外の空気を吸いたかった。陽に当たるのもいいだろう。


 思いついたまま行動し、屋上へと上がる。

 外は晴れていて程よく風もある。少し暑いくらいに感じる。


 そして……見間違えでなければ、建物の上を誰かが移動してくる。

 あっという間に、その誰かは俺のいる屋上に到達する。


「なんだ。起きて平気なのか?」


 会長だった。どうしてこの人はこんな移動方法をしてるんだろう。


「いちいち絡まれずに抜け出すには、これが手っ取り早い」


「サボり?」


「マナと一緒にするな。ちゃんと後任を見つけてから出てきた」


 この人の代わりなど務まる人がいるのだろうか?

 何でもそつなくこなすイメージだ。


「……これからどうすればいい?」


 思っていたことだ。


 貴族を一人倒した。でも、それで終わりじゃない。

 何度となく繰り返さないといけないはずだ。


「気が早いな。お前もカレンも。焦ることはない。予定より早く事は進んでる。療養する時間も十分にある。この国のことも気づかれてないしな……」


 あれだけのことが気づかれない?


「サラサ。会ったんだろう? あいつのおかげだな」


「やっぱり、知り合いだったのか……」


「ああ、こちらのだけどな」


 その事まで……。

 この人は、何をどこまで知っているんだろう。


「会長。どこまで知ってるんだ?」


「曖昧な表現では答えようが無いが、お前の思っているよりは知ってる。例えば火神(かがみ)の家の事とかな?」


 心臓が跳ねる。

 やっぱりアイツの言ってた通りだ……。


「知ってて俺を選んだのか?」


「まさか、そんな真似はできない。お前を寄越したのは火神であって俺じゃない。俺じゃ、お前に接触することすら出来なかった」


「だったらどこから──」


「その話は置いておけ。聞いても仕方ない話だ。それより大事な事があったろう?」


 ……大事な事?

 今、これ以上に大事な事なんてあるのか。


「サラサは褒美をくれたんだろ? カレンの母親の事は聞いた。 ……お前の言った通りだったよ」


「その話が関係あるのか?」


「お前のカレンに向けた言葉は、その実自身に向けられた言葉だったんだろ?」


 ……その通りだ。


 カレンを励ました言葉も、その想いも。自分が願った願望でしかない。


「サラサの寄越した情報と、俺の知り得た情報を総合した結果。かなり現実味のある話になった。これならお前も信じるんじゃないか?」


「何の話なんだ?」


「両親の死体はあったが、妹の死体は見つからなかった。そんな話だ……」


 何を言ってる?

 そんなはずは……だって俺が……。


「いくら巧妙に隠されても、一度書類になれば消し去るのは不可能なんだ。事件の概要は一通り見た。その中で気になる記述があったのを覚えてる。それが死体の数だ……」


 足りてなかったと会長は言う。

 そんなバカな……そんなはずが……。


「お前がカレンに言ったんだろ? 可能性があるなら諦めるな、と。自分は信じないのか?」


「……生きてるって言うのか?」


「そうだ。遺体のあった両親は死亡が確定しているが、妹に関しては間違いなくな」


 だったら、今まで姿を見せない理由は何だ?

 そんな話。信じられるはずが……。


「まあ、信じる信じないは自由だ。ただ、サラサの繋がりを視るという能力は本物だぞ? 二つの世界間さえ見通す眼だ。そのくらいはできるだろう」


 ……時々、思うことがあった。

 どこかで生きていてくれたらと。


 父さんも母さんも、死んでしまったのは覚えてる。

 それは覆りようがない。


 でも、あいつだけは……。

 最後の瞬間を見たわけじゃなかった。


 死んだと言われただけだ。

 だったら……その可能性くらいはあるのだろうか?

 僅かでも、微かでも……。


「これは奇跡なのか?」


 そうとしか思えない。


「この世界に偶然など一つとして無く、全ては必然。人は出会うべくして出会い、奇跡など必然でしかない……。俺とお前。サラサ、カレン、スターク、マナ。全員に意味がある。そして、お前は勝ち取った」


 出会いは必然……。


「ユウ、お前という駒は二つで一つ。どちらが欠けても成立しない。なら勝利すら必然。こちらがお前の舞台なら、向こうはお前の半身の舞台。貴族に勝った時点で未来は確定された。後は進むだけだ……」


「その先にあいつはいるのか?」


「歩みを止めなければな……。願いとは叶えるものだ。自分で。何を利用し、何を踏み台にしても。途中で諦めるような願いは、元より無いと同じだ」


 この人は何を願っているんだろう……。

 およそ全てを知っているように思う、この人の願いとは。


「不確定だったお前の未来は定まった。破滅ではない道に。それはお前の願いが叶ったからだ。お前がもし短絡的な道を選択していれば……こうはならなかったはずだ」


 そう……ユウは復讐を選ぶと思っていた……。

 それなら簡単だったのだがな……。


 こいつはその選択をしなかった。

 なら、他の願いが目的が必要だろう。


 願いとは呪いだ。


 その願いに縛られ、その願いの為に行動しなければならないのだから。


 こいつは甘い。優しすぎる。

 だがらこそ必要だ。何より大事であろう願いが。


 その呪いは悪い方には働かない。

 こいつに足りないものを補ってくれるはずだ。


 サラサは乗り越えたようだと言っていたが、保険はあったほうがいい。


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