動き出す世界 6
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スタークが新たな機械を持ってきた。
それは受話器というらしい。
受話器に向かって声を発すると、ここにはいない、ずっと離れた場所にいる彼女。トモエさんと話ができるらしい。と言われても何のことか分からない。
……だってそうだろう?
マナさんが作った通信手段とは規模が違いすぎる。
あの距離の何倍、何十倍。
それ以上の距離を繋ぐ魔法なんて、現実的ではない。
「会長。繋がりましたよ」
スタークは弄っていた箱を閉じ、受話器を会長に渡す。
──いよいよだ。どうなるのか?
「……嫌よ」
そう箱から声がした。そして、──ブツッと音がした。私は沈黙するしかなかった。
……終わりなんだろうか?
「スターク。もう一度繋げ……」
明らかにトーンの下がった声で会長は言う。
「姉さんの機嫌が良くないみたいですし、日を改めたらいいんじゃないすカね?」
スタークの様子がおかしい。
「……いいからやれ。二度同じことを言わすな」
スタークは無言で作業し受話器を渡す。
「イ、ヤ」
再び、──ブツッと音がする。
「調子悪いみたいだな、こりゃ。ちょっとだけ時間ください! 直ぐに終わりますから! 会長、ちょっと外に出ててくれないすか?!」
私から見ても苦しいと思うけど、ため息をついた会長は無言のまま席を立つ。
「もういい。スターク、お前が伝えておけ。俺は支部に戻る……」
会長はそう言い残して部屋から出て行ってしまう。
私も出て行ったほうがいいだろうか?
そう思い立ち上がったところで、呼びとめられる。
「──カレン! 頼むから居てくれ。本当に頼む!」
……そう言われては仕方ないかな。
再びの作業。
箱の中身を触っているようにしか見えない。
あれで機械とらやは動くのだろうか?
私の流した魔力は、まだあるようで側面の陣は動いている。
「すいません。トモエさんはちょっと……」
そう、女の人の声が聞こえる。
さっきとは違う人だと思う。
「いい、会長も出ていっちまったよ。用件だけ言うぜ?」
「分かりました。こちらも来客があるので、手短に済ませていただけると有り難いです」
「ムサシの国を落とした。貴族、領主とも全滅。姉さんに、この国を手に入れて欲しい。そう伝えてくれ」
受話器の向こうで、女の人が息を呑むのが分かる。
「経緯等は後で伺うとして、それはいつですか?」
「変なことを聞くな。三日前だな。通信機は壊れてたし、ごたごたしてたからな。連絡できるようになったのは、本当に今だ」
「ありがとうございます。こちらからも同じ報告をしなければなりません」
──同じ報告?
私とスタークは顔を見合わせる。
「ムツの国も落とされました。おそらく、こちらも貴族並びに眷属。その全てが全滅しました。昨夜のことです」
「まてまて……本当か?」
スタークの反応は最もだ。にわかには信じ難い。
「ほんとうよ。夜闇の中、光が上がったし……何より気配が消えたもの」
別の誰かが答えた。女の人だ。
「やったのは一人。例の子たちの中のね。本当に感謝するわ。だって、目障りだったもの」
この場にいないはずなのに嫌な感じがした。
今話しているこの人は、形容しがたいものを放っている……。
「あなたがスメラギ・トモエさんですか?」
少しの沈黙があった。
「そうよ。アナタこそ誰なのかしら? ……もしかして、ムサシの貴族を殺してくれた子なの?」
「違うよ。この娘はカレンって言って。ムサシの国の、ただのガキだ」
スタークが割って入る。
「残念。女の子だったら、仲良くできると思ったのに……」
その言葉は本当に残念そうに聞こえる。
「スターク、ところで零は? そんな大事な話を、なんでアナタがするの?」
「姉さんが二回も切るからだろ。会長はどっか行っちまったよ」
「だって……大抵ろくな話じゃないでしょ? メンドくさいのは嫌よ、イヤ」
気怠そうにトモエさんは言う。
「後でかけ直すように伝えて。そうね、夜がいいわ」
「分かりましたよ。ところで客ってのは? 姉さん。アンタそんなの相手にしないだろ……」
「ムツの国を落としたら次はどこに行く? どうせ、ここに来るでしょうから迎えをやったのよ。ワタシ、殺されちゃうかしら」
簡単にそんなことを口にする。
貴族を狙う相手を自ら引き込むなんて、どうかしてる……。
「間違っても殺さないでくださいよ」
「ワタシじゃなくて相手の心配するって、どういうこと」
「アンタは殺しても死ななそうだからな……」
貴族。その娘。
どれほどの怪物なんだろ……。
そして、一人で国を落としたというユウと同じ世界から来た人間。
どちらがより強いのか。より狂っているのか。
自分には理解の及ばない話のような気がした。




