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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
77/337

 動き出す世界 6

♢51♢


 スタークが新たな機械を持ってきた。

 それは受話器というらしい。


 受話器に向かって声を発すると、ここにはいない、ずっと離れた場所にいる彼女。トモエさんと話ができるらしい。と言われても何のことか分からない。


 ……だってそうだろう?


 マナさんが作った通信手段とは規模が違いすぎる。

 あの距離の何倍、何十倍。

 それ以上の距離を繋ぐ魔法なんて、現実的ではない。


「会長。繋がりましたよ」


 スタークは弄っていた箱を閉じ、受話器を会長に渡す。


 ──いよいよだ。どうなるのか?


「……嫌よ」


 そう箱から声がした。そして、──ブツッと音がした。私は沈黙するしかなかった。


 ……終わりなんだろうか?


「スターク。もう一度繋げ……」


 明らかにトーンの下がった声で会長は言う。


(あね)さんの機嫌が良くないみたいですし、日を改めたらいいんじゃないすカね?」


 スタークの様子がおかしい。


「……いいからやれ。二度同じことを言わすな」


 スタークは無言で作業し受話器を渡す。


「イ、ヤ」


 再び、──ブツッと音がする。


「調子悪いみたいだな、こりゃ。ちょっとだけ時間ください! 直ぐに終わりますから! 会長、ちょっと外に出ててくれないすか?!」


 私から見ても苦しいと思うけど、ため息をついた会長は無言のまま席を立つ。


「もういい。スターク、お前が伝えておけ。俺は支部に戻る……」


 会長はそう言い残して部屋から出て行ってしまう。

 私も出て行ったほうがいいだろうか?

 そう思い立ち上がったところで、呼びとめられる。


「──カレン! 頼むから居てくれ。本当に頼む!」


 ……そう言われては仕方ないかな。


 再びの作業。

 箱の中身を触っているようにしか見えない。


 あれで機械とらやは動くのだろうか?

 私の流した魔力は、まだあるようで側面の陣は動いている。


「すいません。トモエさんはちょっと……」


 そう、女の人の声が聞こえる。

 さっきとは違う人だと思う。


「いい、会長も出ていっちまったよ。用件だけ言うぜ?」


「分かりました。こちらも来客があるので、手短に済ませていただけると有り難いです」


「ムサシの国を落とした。貴族、領主とも全滅。(あね)さんに、この国を手に入れて欲しい。そう伝えてくれ」


 受話器の向こうで、女の人が息を呑むのが分かる。


「経緯等は後で伺うとして、それはいつですか?」


「変なことを聞くな。三日前だな。通信機は壊れてたし、ごたごたしてたからな。連絡できるようになったのは、本当に今だ」


「ありがとうございます。こちらからも同じ報告をしなければなりません」


 ──同じ報告?

 私とスタークは顔を見合わせる。


「ムツの国も落とされました。おそらく、こちらも貴族並びに眷属。その全てが全滅しました。昨夜のことです」


「まてまて……本当か?」


 スタークの反応は最もだ。にわかには信じ難い。


「ほんとうよ。夜闇の中、光が上がったし……何より気配が消えたもの」


 別の誰かが答えた。女の人だ。


「やったのは一人。例の子たちの中のね。本当に感謝するわ。だって、目障りだったもの」


 この場にいないはずなのに嫌な感じがした。

 今話しているこの人は、形容しがたいものを放っている……。


「あなたがスメラギ・トモエさんですか?」


 少しの沈黙があった。


「そうよ。アナタこそ誰なのかしら? ……もしかして、ムサシの貴族を殺してくれた子なの?」


「違うよ。この娘はカレンって言って。ムサシの国の、ただのガキだ」


 スタークが割って入る。


「残念。女の子だったら、仲良くできると思ったのに……」


 その言葉は本当に残念そうに聞こえる。


「スターク、ところで零は? そんな大事な話を、なんでアナタがするの?」


「姉さんが二回も切るからだろ。会長はどっか行っちまったよ」


「だって……大抵ろくな話じゃないでしょ? メンドくさいのは嫌よ、イヤ」


 気怠そうにトモエさんは言う。


「後でかけ直すように伝えて。そうね、夜がいいわ」


「分かりましたよ。ところで客ってのは? 姉さん。アンタそんなの相手にしないだろ……」


「ムツの国を落としたら次はどこに行く? どうせ、ここに来るでしょうから迎えをやったのよ。ワタシ、殺されちゃうかしら」


 簡単にそんなことを口にする。

 貴族を狙う相手を自ら引き込むなんて、どうかしてる……。


「間違っても殺さないでくださいよ」


「ワタシじゃなくて相手の心配するって、どういうこと」


「アンタは殺しても死ななそうだからな……」


 貴族。その娘。

 どれほどの怪物なんだろ……。


 そして、一人で国を落としたというユウと同じ世界から来た人間。

 どちらがより強いのか。より狂っているのか。


 自分には理解の及ばない話のような気がした。


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