動き出す世界 3
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目が覚めたらベッドの上だった。
なんだか長い時間眠っていた気がする。
ここ……は、どこだ?
見える範囲には誰もおらず、外からは人の声が聞こえる。
とりあえず起き上がってみた。
苦もなく起き上がれ、腹部に包帯が巻かれていることに気がつく。
治療されてる。
ずっと痛みを感じなかったのだが、触れると微かな痛みを感じる。
……動いても問題ないだろうか?
少しずつ、ゆっくり動いてみる。
痛みは少しあるけど、歩くくらいならできるか……。
「──なにを勝手に起き上がってるんですか!」
そう勢いよく、青い彼女がドアを開け入ってきた。
見透かしたようなその行動に狼狽える。
「マナさん。何で分かったんですか?」
くいくいと横を指さされる。
青い小鳥がベッドの端に留まっていた。
これ、あの時の……。
「その子の視界はバッチリ私にも見えてますので! ついでに音声も届いてます」
「監視されてる……」
「──なんで。心配して様子を見るのにですよ! ユウくん、三日も寝てたんですよ!」
自覚はないが……そうなのか?
「まったく。人の気も知らないで……」
最後の記憶が確かなら、アンタのせいだったと思うけど。言わないでおこう……。
看病してくれたのだろう。
ベッドの横には椅子がある。それも見るからに小さいものが。
「ここ、どこなんですか? 外から声も聞こえるんですけど……」
「街ですよ。そこの商会の支部。一階は夜襲でめちゃくちゃになってしまったので、二階の端の部屋ですね。ユウくんが独り占めしていたので、みんな寝るのに大変だったんですから」
街。貴族の屋敷から見えていた場所。
「──俺、勝ちましたよね? 夢とかじゃなくて」
マナさんに、変なものを見るような顔をされる。
あれ? まさかの夢オチなのか……。
「この聞こえる声は、貴族を倒した勇者様に一目合わせてくれ〜、という街や村の人たちですよ?」
つまり夢じゃないんだな。
「連日押しかけてきて大変なんですよ? 会長がいなくなった途端、また集まってきちゃって……」
「え、会長は、どうかしたんですか?」
「治める人がいなくなったので、臨時に駆り出されました。嫌々連れていかれたのでたぶん不機嫌ですよ。通信も回復しないし……」
何で、と思うことが沢山ある。
「とにかく、戻って戻って。少なくとも今日一日は寝ててもらいます!」
ベッドに大人しく戻ろう。
それでマナさんには話相手になってもらおうと思う。寝てた間にも色々あっただろうから。
♢
街の中で最も趣味の悪い場所にいる。
悪趣味な装飾。同じような調度品。
どうして俺がこんなことを連日しなければならない?
こんなことなら、一人くらい残しておくんだったか……。
情報の統制と管理は必要だ。
しかしな、俺がここにいる必要はないんじゃないか?
ただ人が暮らすのが街ではない。
そこには必ず問題がおきる。
対処する人間。指示を出す人間。どちらも足りない。
突然上が全員消えれば、必然的にこうなる。
持ち上げられるのは一番地位の高い奴。
つまり俺だ。
スメラギの名が出たのは失敗だったな……。
まあ、死んだ人間に文句を言っても仕方ない。
貴族がいなくなっても生活はすぐには変わらない。
普通なら他の貴族が寄越される可能性だってある。
だが、その点は問題ない。すでに手は打った。
この地で起きた事は捻じ曲げられる。
より人間たちに都合の良いように。
一人として真実を口にするものはいないだろう。
もしそんな奴がいたとしても、その言葉を誰が信じる?
人は見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる。
真実など、この場合なんの価値も人間には無い。
それで成り上がることもできやしない。
反対に同じ人間から省かれるだけだ。
なかった事には出来ないが、可能な限り勇者に害が及ばないようには出来る。
誰もが快く協力してくれる。また貴族を殺し、やがては世界を救ってくれると信じて。
希望は簡単に人の心に入り込む。
それが叶うか、叶わないかは後回しだ。
世界を人間の手に戻すところまでは叶えてやる。
その後までは責任は持たない。
例え救われた世界が、人間同士で争い今とさして変わらない世界であってもだ。




