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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
74/337

 動き出す世界 3

♢49♢


 目が覚めたらベッドの上だった。

 なんだか長い時間眠っていた気がする。


 ここ……は、どこだ?


 見える範囲には誰もおらず、外からは人の声が聞こえる。


 とりあえず起き上がってみた。

 苦もなく起き上がれ、腹部に包帯が巻かれていることに気がつく。


 治療されてる。


 ずっと痛みを感じなかったのだが、触れると微かな痛みを感じる。


 ……動いても問題ないだろうか?


 少しずつ、ゆっくり動いてみる。

 痛みは少しあるけど、歩くくらいならできるか……。


「──なにを勝手に起き上がってるんですか!」


 そう勢いよく、青い彼女がドアを開け入ってきた。

 見透かしたようなその行動に狼狽える。


「マナさん。何で分かったんですか?」


 くいくいと横を指さされる。

 青い小鳥がベッドの端に留まっていた。


 これ、あの時の……。


「その子の視界はバッチリ私にも見えてますので! ついでに音声も届いてます」


「監視されてる……」


「──なんで。心配して様子を見るのにですよ! ユウくん、三日も寝てたんですよ!」


 自覚はないが……そうなのか?


「まったく。人の気も知らないで……」


 最後の記憶が確かなら、アンタのせいだったと思うけど。言わないでおこう……。


 看病してくれたのだろう。

 ベッドの横には椅子がある。それも見るからに小さいものが。


「ここ、どこなんですか? 外から声も聞こえるんですけど……」


「街ですよ。そこの商会の支部。一階は夜襲でめちゃくちゃになってしまったので、二階の端の部屋ですね。ユウくんが独り占めしていたので、みんな寝るのに大変だったんですから」


 街。貴族の屋敷から見えていた場所。


「──俺、勝ちましたよね? 夢とかじゃなくて」


 マナさんに、変なものを見るような顔をされる。

 あれ? まさかの夢オチなのか……。


「この聞こえる声は、貴族を倒した勇者様に一目合わせてくれ〜、という街や村の人たちですよ?」


 つまり夢じゃないんだな。


「連日押しかけてきて大変なんですよ? 会長がいなくなった途端、また集まってきちゃって……」


「え、会長は、どうかしたんですか?」


「治める人がいなくなったので、臨時に駆り出されました。嫌々連れていかれたのでたぶん不機嫌ですよ。通信も回復しないし……」


 何で、と思うことが沢山ある。


「とにかく、戻って戻って。少なくとも今日一日は寝ててもらいます!」


 ベッドに大人しく戻ろう。

 それでマナさんには話相手になってもらおうと思う。寝てた間にも色々あっただろうから。


 ♢


 街の中で最も趣味の悪い場所にいる。

 悪趣味な装飾。同じような調度品。


 どうして俺がこんなことを連日しなければならない?

 こんなことなら、一人くらい残しておくんだったか……。


 情報の統制と管理は必要だ。

 しかしな、俺がここにいる必要はないんじゃないか?


 ただ人が暮らすのが街ではない。

 そこには必ず問題がおきる。

 対処する人間。指示を出す人間。どちらも足りない。


 突然上が全員消えれば、必然的にこうなる。

 持ち上げられるのは一番地位の高い奴。


 つまり俺だ。

 スメラギの名が出たのは失敗だったな……。


 まあ、死んだ人間に文句を言っても仕方ない。

 貴族がいなくなっても生活はすぐには変わらない。

 普通なら他の貴族が寄越される可能性だってある。


 だが、その点は問題ない。すでに手は打った。

 この地で起きた事は捻じ曲げられる。

 より人間たちに都合の良いように。

 一人として真実を口にするものはいないだろう。


 もしそんな奴がいたとしても、その言葉を誰が信じる?

 人は見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる。


 真実など、この場合なんの価値も人間には無い。

 それで成り上がることもできやしない。

 反対に同じ人間から省かれるだけだ。


 なかった事には出来ないが、可能な限り勇者に害が及ばないようには出来る。

 誰もが快く協力してくれる。また貴族を殺し、やがては世界を救ってくれると信じて。


 希望は簡単に人の心に入り込む。

 それが叶うか、叶わないかは後回しだ。


 世界を人間の手に戻すところまでは叶えてやる。

 その後までは責任は持たない。

 例え救われた世界が、人間同士で争い今とさして変わらない世界であってもだ。


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