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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
73/337

 動き出す世界 2

♢48♢


 暗い地下を灯り一つで進んでいく。

 ムサシの街の地下にあたるこの場所。


 まだ、まだ終わった訳ではない。

 私はまだ終わってなどいない!


 貴族は倒れ、民衆の支持も消えた。

 だが、金さえあれば返り咲くことはできる!


 何もこの土地に固執さえしなければな。


 スメラギを敵に回したのは失敗だった。

 ラットの奴が早くに教えていれば、向こうに付いたものを……。

 あの貴族の息のかからない所を探さなくては。


 貴族の死は驚いたが、殺した奴がそれ以上の化け物だっただけの話だ。一介の人間である私には無縁の話だ。


 通路は突き当たり、目的地はもうすぐだ。

 この地下通路はもしもの時の保険だった。

 逃げ出すことができるように作らせた。


 この国の地下に広がる地下。

 その一部を利用して作らせた甲斐があった。用意しておいて正解だった。


 通路が行きつく先は我が屋敷。

 金庫の鍵は私にしか開けられない。

 今ごろはラットも同じ事をしているに違いない。


 金さえあれば当面はしのげる。

 持ち出せるだけ、いや全て持ち出さなくては……。


 魔導師がいない今、私の戦力は雇った者たちだけ。

 中でも優秀だった三人が死に、あの女魔導師は寝返った。


 責めはしない。私でもそうしたからだ。


 ただ、このまま済ましましないがな。

 女の魔導師となれば高く売れる。

 元より税を取れなくなった者は、そうするつもりだったのだ。


 やはり、向かうならムツの国。

 あの国は金さえあれば地位も買える。

 表向きは娯楽都市であるが、裏では違う。


 ……となれば陸路はダメだ。


 スメラギの支配する地を通らねばならない。

 イズまで行き、海路で向かうのが一番だろう。


 ラットと二人。互いの兵力と金を合わせれば何とかなる。

 地位を買うのは、他の領主の屋敷に向かった連中の分を当てれば足りる。持ち逃げもできないだろうからな。


 薄く光の漏れる場所の下に着いた。


 ここを上がれば金庫はすぐだ。

 いそいそと鉄のハシゴを上る。


 ……息が苦しい。


 流石に痩せなければならないか?


 屋敷の中は静まり返っていた。

 当然だ。外はお祭り騒ぎ。


 貴族の支配がなくなり、領主も消えたとあっては、愚かな奴等は騒ぎ立てる。


 ──今に見ていろ!


 その馬鹿さ加減を悔い、許しを乞うようにしてやる! 貴様らなど全員を奴隷として売り飛ばしてやる。


 決意をして金庫へと手をかける。

 解錠にさほど時間はかからなかった。

 やはり明かりは必要だ。これでは小さすぎる。


 ここまでは上手くいったが、金を詰めるのには不自由だ。

 そう思いランプに手を伸ばす。明かりはつき部屋は明るくなる。


 その次の瞬間、何か乾いた音がして私は倒れた。


 ──なんだ? 何が、起きた。


 自分から流れるドロリと赤いものに触れ、それが血であり、自分は撃たれたのだと思った。


 撃たれた……。

 だが、銃声など聞こえなかったぞ?


「スゲェよな。銃声さえ軽減できるってのは。用途は……まあ、こんなもんだろ?」


 見覚えのあるローブに身を包んだ男がドアの前に立っていた。


「……商会の人間か? 何故、私を……」


「会長は、どうしてテメェらを見逃したと思う? 正しくは、お前さんを……」


 私を見逃した? あの男が……。


「本当は何も語らず、ただ撃ち殺そうかとも思ったんだ。他の奴らはそうしてやったしな」


 他の奴。それは誰のことを言っている?


「だけど。お前さんにだけは一つだけ聞いてみたいことがある。 ……俺を覚えてるか?」


 ……誰だ。こんな男は知らない。


 覚えていないのは、気にもとめなかったから。

 私の沈黙を知らないと判断し男は言う。


「やっぱりな。聞くだけ無駄だったよ」


 ガチャリと音がする。

 その音は私の死が近づく音に違いない。


「待て……まってくれ。 ……金ならあるぞ? 好きなだけ持っていけ。だから見逃してくれないか? 私には家族がいる」


「……俺にもいたよ」


 パンパンと二回音が響いた。


「ユウには感謝しないとな。あいつのお陰でこうして機会を得た。仇を討つ機会を。会長はワザと見逃した。あの人には、お前さんの命に価値はないからな……」


 男は語る。返事を求めず一人きりで。


「知ってるか? この世界じゃ、死んだ人間は世界を巡る魔力の一部になるって話。向こうじゃ違うんだと。天国と地獄ってのがあって、生前の良い悪いで振り分けられるって話だ」


 力は入らず終わりが近いことは明白だった。


「お前さんみたなのは地獄行きだ。間違いなくな。俺の家族、友達、村のやつら。何の罪も無い奴らは天国にいるだろう。その話には少し救われた。 ……俺たちみたいな屑と同じところに行くんじゃ、浮かばれないからな」


 意識はまだ途切れない。男の話は聞こえている。

 おそらくワザとそう撃たれたのだろう。


「幾度も幾度も、あの光景が瞼から消えない。目を閉じるたび思い出す。俺はこの為に生きてきた……。一人残らず地獄に送ってやる。先に行ってろ。最後には、俺もそこに行ってやる」


 最後の銃声が聞こえた。


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