動き出す世界
♢47♢
「終わったな……。最後は呆気なかったな。カレンの魔法様々だな。本当にありがとう」
素直に感謝を述べる。
もう立ってられず、俺は瓦礫を背に座り込んでいる。
治癒されたというには手荒で正直かなりしんどい。
そんな中、俺より重症であろう男は平気な顔でやってきた。
「──よう。お姫様はどうしたんだ?」
スタークの言葉に直ぐには答えられず、カレンと顔を見合わせる。
スタークの言う、お姫様ことサラサは大して話もせずにいなくなってしまった。
あいつにも、ありがとうと伝えたかった……。
一番の功労者はサラサだろう。
あいつは結局、あの後一人も死なさずに最後まで戦わせた。簡単に全滅だって有り得たのに……。
「いなくなっちゃった。あれは相当怒ってたかも」
「だな。カレンが謝っても聞く耳を持たない感じだったし」
でも……重要なことを教えてくれた。
整理が追いつかないだろうから、俺から話すつもりはない。何よりカレンにとって重要な話だ。
他人がどうこう口を挟むべきじゃない。
「そうか。俺も礼の一つも伝えたかったんだけど、いないんじゃしょうがない」
三人とも同じことを思っている。
本人は知らないだろうけど。
「スタークは立ってて平気なのか? 俺より重症に見えるんだけど……」
「マナの薬のおかげだな。何も感じなきゃ怪我の具合なんてわかんねーよ」
大丈夫なのか、それ?
そういえば俺も痛くはない。全身に気怠さがあるけど。
「私向こうに戻るね。こっちはもう大丈夫そうだし」
そう言いだしたカレンを心配したが、村の方が気になるのも事実だ……。
俺はついていったところで足手まといだし、無傷のカレンが行った方がいい。
「任せるよ。俺は動けないし」
「わかった。直ぐに治癒してくれるように伝えるから。また後でね」
そう言い残しカレンは飛び去る。
残されたのは男二人。
「……なんかあったのか?」
「ちょっとな。聞くなよ。話さないからな」
瓦礫と化した屋敷。貴族はもういない。
これで、何かが変わったのか?
まだ、なんの自覚もない。ただ奪っただけ。
……いや、救ったんだ。この国を。
そう思わなければ。
アイツに言われてしまう。
スタークは何も聞かず、俺は一人感慨にふける。
すると、微かに何かが聞こえる気がした。
「……く……ユウ……──ユウくんーー!」
と、ものすごい勢いで青い物体が迫ってきていた。
ブレーキなどかけず、そのまま衝突してくる。
本人としては抱きついたつもりだったのだろうが、俺としてはトドメの一撃でしかなかった……。
勿論、マナさんによって俺の意識は奪われた。
♢
黒い光が天を衝く。その光景を待ち望んだ。
……やっと終わりが始まる。
手に入れるべきものは得た。必要なものは揃えた。
思わず笑い出しそうだった。
しかし、自分を諌め平静を装う。
まだ、始まったばかりだ。
足元に転がる死体も、醜く逃げる道化も同じに見える。
……もう興味はない。
元から利用価値の有無しか違いなど無かったのだ。
「嬉しそうだな」
いつの間にか戻ってきていた女に声をかけられた。
コイツと話をする気分じゃないのだが……。
サラサに触れられた瞬間、何もない白い場所に立っていた。
何も無い一面の白。移動したのではない。
なら、この空間は……。
「どうだ、この空間は? 意識の中に入りこめる。ここは、お前の中というわけだ」
成る程。感覚も同じ。
一見すると違いは分からないな。
「随分と面白い真似ができるようになったな。 ──どうしたんだ。その頬は?」
赤く腫れた頬。よくよく見れば、サラサは泣いたのか目も赤かった。
「……ぶたれた」
「ユウの奴か? 女に手を上げる様には見えなかったが……」
「──違う! カガミではない! あの女。カレンと言ったか、覚えていろ」
……カレン?
どうして、その名前が出てくるのか分からないが、尋ねれば長くなると判断し話を進めることにした。
「貴族はどうなった」
「燃え尽きた。灰すら残らずにな。それより妾の話に何か言うことは無いのか? 」
「仲良くしろよ。あれは強いぞ?」
「ふざけるな! どうして妾が……そのため息は何だ?」
ため息も出るさ。
マナの相手をしてるような感じだ。
納得のいかないサラサは暴れるが、八つ当たりに付き合ってやるつもりはない。
「貴族は何か言ってたか」
「増援が来ると言ってたな。そんな気配は無いが……」
やはり仕掛けはしておいて正解だったな。
使い慣れない道具など使ったのが運の尽きだったな。
「なんだ、妾にも説明せよ」
これ以上、機嫌を損ねるのは得策じゃないか。
「あの貴族は、どうやって増援とやらを頼んだと思う?」
「言われてみれば、離れた場所と会話する術など……。そうか、お前の差し金か」
その通り。マナが使った通信の技術は大型であるが装置化している。
貴族のいる場所には全て設置してある。
魔王様は、たいそう気に入り配備に何の疑問も抱かなかった。
「何事も用意はしておくべきだな。奴等は便利なことは理解するが、どうやってそれが動いているかには興味がないらしい」
なら、どういう仕組みで通信ができているのかなど気にしない。直接やりとりできているわけではなく、途中で中継点があることなど知りもしないはず。
「改ざんなど容易というわけか……」
「魔王様は結構お使いになられるからな。台詞のサンプルくらいは記録してある。後は本人が話しているように見せかけるだけだ」
「届いていると思って死んだと思うと哀れだな。その言葉は正しく伝わりもしないとは」
伝わったところで、直ぐに行動したかは微妙だと思うがな。
「この後はどうする? 貴族の死は誤魔化せまい?」
「最大限に危機を煽るさ……。犯人は見つからず、なお貴族を狙うだろうと。幸いこの地の人間は協力してくれる。余計な手間もかからないしな」
「なんで領主を見逃した? あれが告げ口すれば台無しになるのではないか?」
どう答えたべきか。
見逃したのではなく殺すつもりがなかった。
俺は……な。
「主人を裏切り、死なせた奴に何ができる? 再起は有り得ない。それに俺には価値が無くても、そうじゃない奴がいるのさ……」
どこにも行けない奴等がとる行動など、簡単に予想がつく。
先立つものが無ければ何もできやしない。




