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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
71/337

 出来損ない 9

♢46♢


 少年の瞳から迷いは消えていた。

 その隣には少女が寄り添う。


 二人の眼差しが捉えるのは怪物。

 貴族と呼ばれる、この世界の支配者。


 支配者の名に恥じぬ、理不尽なまでのその強さ。

 望めば滅ぼすことなど容易だろう。


 だが、決めたのだ。選んだのだ。


 だから少年たちは──


 もうブレない。そう言われたから。

 もう迷わない。そう決めたから。


 少年は選んだ。切り捨てて進むことを。

 少女は決めた。繋げることを。


 彼は隣に立つ彼女に誓った。

 一緒に戦ってくれる彼女に。足りなかったものも得た。


「……それでいい。二度と会うこともないだろう。もう、止まるなよ。守ってみせろ……」


 僅かでもアイツの熱量を。その怒りを……憎しみを。


 割合の問題だったのだろう。

 互いにそれが偏っていた。

 だけど傾いた天秤は水平になった。


 今まで奪い続けてきた貴族に、もう情けはかけない。これは誰かがやるべきこと。

 いつかではなく、今。それが叶うのは自分だけ。


 ここから始めよう……俺の物語を。


 ♢


  少年は魔法を使えない。

 ただ武器を振るうことしかできない。


 少女は武器を使えない。

 ただ魔法を扱うことしかできない。


 どちらかだけでは足りない。

 なら足して、掛け合わせていこうと決めた。


 カレンの魔法が流れ込んでくる。

 俺のための魔法。みなぎる力は自分の理解を超える。


 手に持つ折れた刀は炎を纏いその姿を新たにする。

 日本刀のシルエットはなくなり、無骨な剣へと姿を変える。両手で扱わなければならないほどの大きさに変化する。


 振るえば炎が舞い。

 その熱はあらゆる物を焼き尽くし、焼き斬る。


 無策のまま貴族に突っ込む。

 理性のない獣と化した貴族もそのまま向かってくる。


 理性すら消えても魔法を扱う頭は無くならなかったようで、黒い風が全てを切り刻むべく放たれる。


 回避は必要ない。


 後ろの彼女は鎧であり槍だ。

 俺が盾であり剣であるように。


 槍は風を燃やす。

 炎で型どられた槍は風とぶつかり炎へと戻る。


 目の前に広がる炎もまた彼女の魔法だ。

 炎は貴族にまとわりつく。勢いを増して。


 悲鳴のような声が貴族から上がる。


 もう、刃が届く距離だった。

 振るう剣は風の鎧ごと貴族を斬る。


 飛び込みの一撃。

 宙を飛んだまま体を捻りもう一撃。


 二撃で首と胴を両断する。

 切断箇所は切り口から発火し、離れた部分を焼き尽くす。


 着地したら、そこからさらに一撃。

 足元から胴体に。トドメの一撃。

 地に足がつき、最後の一撃を下から振り上げる。


「──お前の心臓はそこだったよな!」


 足元から心臓への一閃。

 剣は何か硬いものを捉え、石のような黒い塊を斬り裂く。


 空に登るような黒い閃光が上がる。

 その閃光が意味するのは貴族の死。

 彼等の最期の輝き。


 それを理解する人は驚いただろうか? 喜んだろうか?

 一つ分かるのは、悲しむ者はいないということだ。


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