出来損ない 5
♢43♢
多少の問答があった。
どっちも譲らなかったし仕方ない。 そう思おう。
先に手を出したのは向こうだし……。
微力ながら治癒も効果があった。
教わっていてよかった。あれなら、ユウの傷でも少しなら動けるはずだし。
──でもね。何でこうなったんだろう?
どうして私は見知らぬ場所にいるんだろう。
気づいたらこの場所にいた。
サラサと名乗った彼女の台詞はこうだ。
私が引っ叩いた頬を抑えながら……。
「お前が迎えに行ってこい……。妾はもう知らん。ぶたれたのなど初めてだ……」
もう一回言うけど、最初に手を出してきたのは向こうなのに。
──ここどこーーーー?!
一人立ちつくしていると誰かに声をかけられた。
「良かった。 ──あれっ、あなたは? サラサはどうしたんでしょうか?」
そう声だけが聞こえる。
私はここに至るまでのことを説明した。
互いに情報交換が必要だと判断したから。
更紗という同じ名前の声の彼女は謝罪を口にする。
「ごめんなさい。遅いとは思っていたんですけど、そんなことで拗ねるなんて……」
あれ、拗ねてたんだ……。
悪いかなとも思うけど、おあいこだろう。
「それより! 案内しますから急いでください! 優君が、このままじゃ──」
そう声だけの彼女は言う。
私は案内のままに走り出す。
※
街だろうか。景色はこの世界とは違う。
建物はどれも立派で見たことのない……。
そうじゃない……覚えがある。
この世界は彼の世界だ。つまり、私のいた世界でもあるはずだ。
町並みは記憶と一致しない。
でも似てる。同じ世界なら当然か。
「どうかしましたか? 何か気になることでも?」
気になるかと聞かれれば全部が気になる。
「ユウの世界では、みんなこんな町なのかな?」
「そうですね……。都会ではビルが目立ちますが、彼の住んでいたこの町は、日本のどこにでもある普通の町です。ここは一般的と言って問題ないと思いますよ?」
やっぱり……。
なら、私が懐かしいと感じるのも間違ってはいないんだろう。
「ところで、あなたはどうしてそんなことを?」
「私ね、こちら側の記憶もあるの。もう微かではあるけど覚えてる」
「あたなは導かれてしまったんですね。この世界に……」
迷い込むではなく、導かれると彼女は言う。
「迷い込むじゃなくて……?」
「こちらの方からすればそう見えますが、その実は違います。世界は選んで招いている。必要だと思う存在を。必要になる存在を。かつてこの世界を救った勇者がそうであったように。あなたも選ばれてしまった」
これまでの認識が揺らぐ。
そもそもの話が変わってくる。
「世界は悲鳴をあげています。二つの交わるはずのない場所が繋がってしまったことによって……。始まりがなんだったのか。過去を知らない私たちには分かりませんが、二つの世界はズレが生じたまま時間だけが過ぎてしまった」
内容が頭に入ってこない。
「正すのには、そちら側を正常に戻す必要がある。ズレの原因である貴族と呼ばれる彼等を排除しても……。そのためには彼等の力を借りるしかなかった。私たちの世界の神の名を持つ支配者達の力を」
でも、ここで立ち止まる暇はない。
だけどこれだけは尋ねたい。
「私は母親が一緒だった。導かれたのはどっち?」
彼女が答えを知っているとは思っていない。
けど答えがあるのなら、私はそれを知りたい。
「私にそこまでは……。でも彼女なら、二つの世界を視ることができるサラサなら分かるかもしれません。あの子は特別です。誰よりも……どんな存在よりも。何も自分ですることができない彼女は、その代償に全てを持っています。およそ人が望む全てを……」
意味がわからない。
できないのに、もっているとはどういう意味?
「ごめんなさい。これ以上は私の口からは言えません。でも、あなたの質問の答えは彼女が知っている可能性はあります」
「私、引っ叩いちゃったんだけど教えてくれるかな?」
「あー、……多分としか。あの通りなので、絶対とは言えないです」
……失敗したかな。
街並みを走り、通り過ぎながら思った。
目的地にはまだ着かない。




