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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
66/337

 出来損ない 4

♢42♢


 マナさんに送ってもらった先。

 最初に目に飛び込んできたのは、貴族と戦う騎士。


 圧倒されていたはずの戦いは拮抗していた。

 貴族が手負いなせいもあるだろう。

 でも、それだけでは説明できない光景だった。


 騎士たちは、目で追うことさえ困難だった貴族の動きに反応してる。彼らの傷は浅くないはずなのに。


 最初より強くなるなんてことがあるだろうか?


 違う……足りないものを補う何かがあるのだ。

 この世界で考えれば、それは魔法以外にはありえない。


 そして、その魔法には見覚えがあった。

 雷のような速度を付加する魔法。


 おそらくそれだけではなく、彼らの思考すら加速しているのではないか?


 そう思う。速さだけでは避けられない。

 急に動きが良くなっても、頭がついていかないはずだ。


 しかし、私に視える光景は、その両方が揃っているように感じる。


 魔法の術者は違う世界から来た彼。

 そんなはずは無い。彼は魔法なんて使えないのだから……。

 それなのに動かしている魔力は彼のものなのだ。


 この矛盾の答えは国を覆う魔法にある。

 収縮するまで気がつかなかった……。


 全土を覆うほどの網は、放電された分だけ縮まっている。街の半径5キロくらいまで小さくなっていた。


 別の人間が、彼の力を使い魔法を行使している。

 推測だけど間違いないと思う。

 だとすれば……今あそこに立っているのは、誰なんだろう?


 推測が可能だとして、何の繋がりもない人に出来ることではないはず。

 繋がり。それは彼等、二人ともにあるということにならないか?


 そこまで考えが及んだ時、彼の姿が二重に見えた。


 女の人だ……。


 後ろ姿ではあるが髪の長い女の人。

 私より長いだろう金の髪。

 その彼女は振り返る。その眼差しは私を捉える。


 ──目が合った。


 私と変わらないだろう年齢。

 身長はユウより頭一つ低い。

 ドレスであるだろう服装に、足もとは裸足だった。

 彼女は再び前を見る。眼前には貴族が迫っている。


 ──いけない。

 そう思い。とっさに用意していた魔法を使う。


 魔法など間に合うはずも無く、貴族の爪が彼女を襲うが、屈んで爪を躱し起き上がりに蹴り飛ばす。

 明らかな体格差があるのに物ともしない。


 そして腹部を抱えうずくまる。


 ……痛かったのだろうか?

 考えてても仕方ないし、直接いかなきゃ……。


 ♢


「痛い……いたい。 ──うっかり蹴り飛ばしてしまったわ! 何をやってる。こっちに寄越すなと言ってるだろう!」


 お姫様の怒号が飛ぶ。

 あの図体をうっかり蹴り飛ばす、この口うるさいお姫様の魔法は想像を絶した。


 痺れが最初は辛かったが、馴染むのに時間はさほど掛からなかった。


 普通の強化魔法とは、魔法使いが自身に及ぼす影響を他者にも分け与えるものだ。

 属性ごとの特色が多大に影響する。


 何より、魔法使いの為の魔法であって戦士向きではないのだ。

 攻防ともに上昇するし無ければまともに戦えもしないのだが、この魔法を体験してからはレベルが低いと評価してしまうだろう。


 お姫様の魔法は戦士向きだった。

 普通の強化魔法を攻防半々とするなら、この魔法は攻めの割合が九割。


 防御など無いに等しい……。

 でも、それが前提なんだろう。


 兵士ってのは鎧なりを身につけているんだからな。


 自分の肉体がこんなに思い通りに動くのは初めての経験だった。思考に体がついてくる。


 考えながら戦うってのは難しいのだ。


 この魔法は、その齟齬を零にする。

 考えた時には体は動いている。

 強化による速度についていくためだろう。


 そのバランスを取らなければ、ここまでにはならないだろうしな……。


 それからは簡単だった。

 遅く感じるようになった貴族に対応するのは。隙を突くのだって容易だ。


 貴族の魔法は屋敷をほとんど破壊してしまった。

 今や天井はなく空が見える。


 それだけの破壊を見せられても、あれから一人だって死んでないのだ。


 まあ、攻められるってことは守りが緩くなるってことでもあるんだろう。


 現に後ろに逸らしてしまった。

 怒鳴られも文句は言えない。


 それにいいことずくめに思える、この魔法にも問題はある。

 魔法にではなく俺たちに……。


 体に負荷を与え続けている、この強化は長くはもたないらしい。

 肉体が限界を迎えれば強化は意味を成さなくなる。


 少しずつ限界は近づいている。


 元から万全じゃないんだ。

 それはすぐ訪れる。

 さっさと帰ってこいよユウ。


 お前が終わらせるしか無いんだからな……。


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