出来損ない 4
♢42♢
マナさんに送ってもらった先。
最初に目に飛び込んできたのは、貴族と戦う騎士。
圧倒されていたはずの戦いは拮抗していた。
貴族が手負いなせいもあるだろう。
でも、それだけでは説明できない光景だった。
騎士たちは、目で追うことさえ困難だった貴族の動きに反応してる。彼らの傷は浅くないはずなのに。
最初より強くなるなんてことがあるだろうか?
違う……足りないものを補う何かがあるのだ。
この世界で考えれば、それは魔法以外にはありえない。
そして、その魔法には見覚えがあった。
雷のような速度を付加する魔法。
おそらくそれだけではなく、彼らの思考すら加速しているのではないか?
そう思う。速さだけでは避けられない。
急に動きが良くなっても、頭がついていかないはずだ。
しかし、私に視える光景は、その両方が揃っているように感じる。
魔法の術者は違う世界から来た彼。
そんなはずは無い。彼は魔法なんて使えないのだから……。
それなのに動かしている魔力は彼のものなのだ。
この矛盾の答えは国を覆う魔法にある。
収縮するまで気がつかなかった……。
全土を覆うほどの網は、放電された分だけ縮まっている。街の半径5キロくらいまで小さくなっていた。
別の人間が、彼の力を使い魔法を行使している。
推測だけど間違いないと思う。
だとすれば……今あそこに立っているのは、誰なんだろう?
推測が可能だとして、何の繋がりもない人に出来ることではないはず。
繋がり。それは彼等、二人ともにあるということにならないか?
そこまで考えが及んだ時、彼の姿が二重に見えた。
女の人だ……。
後ろ姿ではあるが髪の長い女の人。
私より長いだろう金の髪。
その彼女は振り返る。その眼差しは私を捉える。
──目が合った。
私と変わらないだろう年齢。
身長はユウより頭一つ低い。
ドレスであるだろう服装に、足もとは裸足だった。
彼女は再び前を見る。眼前には貴族が迫っている。
──いけない。
そう思い。とっさに用意していた魔法を使う。
魔法など間に合うはずも無く、貴族の爪が彼女を襲うが、屈んで爪を躱し起き上がりに蹴り飛ばす。
明らかな体格差があるのに物ともしない。
そして腹部を抱えうずくまる。
……痛かったのだろうか?
考えてても仕方ないし、直接いかなきゃ……。
♢
「痛い……いたい。 ──うっかり蹴り飛ばしてしまったわ! 何をやってる。こっちに寄越すなと言ってるだろう!」
お姫様の怒号が飛ぶ。
あの図体をうっかり蹴り飛ばす、この口うるさいお姫様の魔法は想像を絶した。
痺れが最初は辛かったが、馴染むのに時間はさほど掛からなかった。
普通の強化魔法とは、魔法使いが自身に及ぼす影響を他者にも分け与えるものだ。
属性ごとの特色が多大に影響する。
何より、魔法使いの為の魔法であって戦士向きではないのだ。
攻防ともに上昇するし無ければまともに戦えもしないのだが、この魔法を体験してからはレベルが低いと評価してしまうだろう。
お姫様の魔法は戦士向きだった。
普通の強化魔法を攻防半々とするなら、この魔法は攻めの割合が九割。
防御など無いに等しい……。
でも、それが前提なんだろう。
兵士ってのは鎧なりを身につけているんだからな。
自分の肉体がこんなに思い通りに動くのは初めての経験だった。思考に体がついてくる。
考えながら戦うってのは難しいのだ。
この魔法は、その齟齬を零にする。
考えた時には体は動いている。
強化による速度についていくためだろう。
そのバランスを取らなければ、ここまでにはならないだろうしな……。
それからは簡単だった。
遅く感じるようになった貴族に対応するのは。隙を突くのだって容易だ。
貴族の魔法は屋敷をほとんど破壊してしまった。
今や天井はなく空が見える。
それだけの破壊を見せられても、あれから一人だって死んでないのだ。
まあ、攻められるってことは守りが緩くなるってことでもあるんだろう。
現に後ろに逸らしてしまった。
怒鳴られも文句は言えない。
それにいいことずくめに思える、この魔法にも問題はある。
魔法にではなく俺たちに……。
体に負荷を与え続けている、この強化は長くはもたないらしい。
肉体が限界を迎えれば強化は意味を成さなくなる。
少しずつ限界は近づいている。
元から万全じゃないんだ。
それはすぐ訪れる。
さっさと帰ってこいよユウ。
お前が終わらせるしか無いんだからな……。




