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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
64/337

 出来損ない 2

♢40♢


 領主につく者も案外いたな……。


 八割くらいか。離反した者に、まだ迷っている者。

 合わせてこれだけの人数がこちらについた。


 戦力差は逆転。頼みの綱の魔導師様も後一人。

 その一人も、剣を振り下ろせばいなくなる。


 躊躇いなく剣は振るわれる。言葉は無く、その命を奪う。


「助けて……くれ。頼むから……」


 しかし剣は届く直前で停止する。


 死ぬのは怖ろしいか。だが、お前はそう言ってきた相手を見逃してやったことはあるのか?


「威勢がよかったのは最初だけだったな。覚悟も無く、ただ戦ってきたんだろう? 自分は他より幾分か優れていたから。俺はチャンスはやったはずだ……」


 それを蹴ったのはコイツ自身だ。

 戦って死ぬのなら、そんな言葉を吐くなよ。


「いやだ……死にたくない……」


「領主様が言ってたぞ? 見苦しい命乞いなどするなと。潔く死ね」


 魔導師は目を閉じた。

 悟ったのだろう。もう終わりだと。

 この男は間違いなく自分を殺すと……。


「待ってください、スメラギ様。どうか息子を許していただけませんでしょうか……」


 領主が声を上げる。


「待て……ラット……。スメラギだと?」


 その名にざわめきが起きる。

 兵たちは勿論だが、領主でさえ狼狽える。


 スメラギとは貴族の名だ。

 それも、何人もいない名を持つ存在。

 貴族と呼ばれる以前から名をはぜた本物である。


「その名は俺には手段にすぎない。自ら名乗ることも無いんだがな」


 その名を言った領主に向き直る。


「もう、いいでしょう? 降伏します。ですから寛大な処置を」


 ……寛大な処置ね。息子の最後を見てられなかったのか。

 いや、そんな奴等じゃないだろう? お前らは……。


「スメラギ。そうか、夫というのがお前なのか。 ……それでは……」


「はい。この方は貴族です」


 領主始め貴族によって恩恵を受ける人間は、その存在に絶対に逆らえない。

 自分たちの特権がその存在によって与えられているからだ。


「──お前たちは俺をどう扱う? 人間としてか? それとも貴族としてか?」


 記号でしかない名前にすがり、自分を大きく見せる。お前たちは。


「最初から言っていただければ……」


 そんな奴らだ。

 バレなければ。誰かに罪をきせればと考える。

 俺を貴族だとは、自分たちより上だとは認めないだろう?


「この戦いはなかったか? お前らは潔く諦めたのか? 違うよな。 ……今だって強化が消えるタイミングを計ってたんだろう?」


 カレンの魔法が消え、背後の魔導師はその隙を突く。


 このための時間稼ぎか。くだらないな。

 そういうのは、もっと甘いやつにやるんだな。


 魔導師の方を見ることも無く刃を突き立てる。

 今度は止めない。

 手応えがある。確実に死に至る箇所を刺した。


「なっ……」


 領主と魔導師は同じ顔をしていることだろう。


「残念だったな。もう少し相手を見て仕掛けるべきだった」


 魔導師は崩れ落ち動かなくなる。


「ラットと言ったな。お前は降伏を口にしたが、タイミングがおかしいだろ。どう考えてもな。俺に気づいていながら、それを今まで口に出さなかったのに」


 コイツは最初から伺っていた。

 俺がどう反応するのかを観察していたんだろう。

 そして、その行為に意味が無いと判断した。


 なら、このまま殺してしまうべきだと。


 だからこそ魔導師たちを止めなかった。

 失敗しても命じたわけでは無いと言い張れるからな。


 目論見が露呈してるとも知らずに……。

 屑の考えが理解できるとは、自分も大概だと思う。


「お前ら領主の降伏は受け入れない。お前らは自分さえ良ければいいんだろ? アイツは貴族であっても違うぞ。我儘だし、強欲、傲慢上げればキリがないが、お前らとは違う。アイツの夢を教えてやろう。この地を全てを自分の物にしたいらしい。その行いを誤解……とまでは言えないのが苦しいところだがな」


 その名は今や怖れられるものでしかない。

 しかし、それは間違いだ。

 アイツの治める地に行けば理由は分かる。


 一人歩きする尾鰭のついた噂は、実際にその姿を見なければ真実は分からない。


「お前は終わりだ。もう許しを乞うことさえ認めない」


 十分に領主達の非道さ卑劣さは伝わったはずだ。

 もう味方はそいつらだけだ……。

 その連中もどこまで義理立てするか分からんがな。


 スメラギの名は使わずに。

 それが最善だったんだが、仕方ない。

 名前が出てしまったからには、有効に使うしかないな。


 その名を使ってまとめるのが一番楽か。

 ジジイか騎士様にやって欲しかったんだがな……。


 さあ、退場してもらおうか。

 後は事が済んでから考えるとしよう。


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