出来損ない 2
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領主につく者も案外いたな……。
八割くらいか。離反した者に、まだ迷っている者。
合わせてこれだけの人数がこちらについた。
戦力差は逆転。頼みの綱の魔導師様も後一人。
その一人も、剣を振り下ろせばいなくなる。
躊躇いなく剣は振るわれる。言葉は無く、その命を奪う。
「助けて……くれ。頼むから……」
しかし剣は届く直前で停止する。
死ぬのは怖ろしいか。だが、お前はそう言ってきた相手を見逃してやったことはあるのか?
「威勢がよかったのは最初だけだったな。覚悟も無く、ただ戦ってきたんだろう? 自分は他より幾分か優れていたから。俺はチャンスはやったはずだ……」
それを蹴ったのはコイツ自身だ。
戦って死ぬのなら、そんな言葉を吐くなよ。
「いやだ……死にたくない……」
「領主様が言ってたぞ? 見苦しい命乞いなどするなと。潔く死ね」
魔導師は目を閉じた。
悟ったのだろう。もう終わりだと。
この男は間違いなく自分を殺すと……。
「待ってください、スメラギ様。どうか息子を許していただけませんでしょうか……」
領主が声を上げる。
「待て……ラット……。スメラギだと?」
その名にざわめきが起きる。
兵たちは勿論だが、領主でさえ狼狽える。
スメラギとは貴族の名だ。
それも、何人もいない名を持つ存在。
貴族と呼ばれる以前から名をはぜた本物である。
「その名は俺には手段にすぎない。自ら名乗ることも無いんだがな」
その名を言った領主に向き直る。
「もう、いいでしょう? 降伏します。ですから寛大な処置を」
……寛大な処置ね。息子の最後を見てられなかったのか。
いや、そんな奴等じゃないだろう? お前らは……。
「スメラギ。そうか、夫というのがお前なのか。 ……それでは……」
「はい。この方は貴族です」
領主始め貴族によって恩恵を受ける人間は、その存在に絶対に逆らえない。
自分たちの特権がその存在によって与えられているからだ。
「──お前たちは俺をどう扱う? 人間としてか? それとも貴族としてか?」
記号でしかない名前にすがり、自分を大きく見せる。お前たちは。
「最初から言っていただければ……」
そんな奴らだ。
バレなければ。誰かに罪をきせればと考える。
俺を貴族だとは、自分たちより上だとは認めないだろう?
「この戦いはなかったか? お前らは潔く諦めたのか? 違うよな。 ……今だって強化が消えるタイミングを計ってたんだろう?」
カレンの魔法が消え、背後の魔導師はその隙を突く。
このための時間稼ぎか。くだらないな。
そういうのは、もっと甘いやつにやるんだな。
魔導師の方を見ることも無く刃を突き立てる。
今度は止めない。
手応えがある。確実に死に至る箇所を刺した。
「なっ……」
領主と魔導師は同じ顔をしていることだろう。
「残念だったな。もう少し相手を見て仕掛けるべきだった」
魔導師は崩れ落ち動かなくなる。
「ラットと言ったな。お前は降伏を口にしたが、タイミングがおかしいだろ。どう考えてもな。俺に気づいていながら、それを今まで口に出さなかったのに」
コイツは最初から伺っていた。
俺がどう反応するのかを観察していたんだろう。
そして、その行為に意味が無いと判断した。
なら、このまま殺してしまうべきだと。
だからこそ魔導師たちを止めなかった。
失敗しても命じたわけでは無いと言い張れるからな。
目論見が露呈してるとも知らずに……。
屑の考えが理解できるとは、自分も大概だと思う。
「お前ら領主の降伏は受け入れない。お前らは自分さえ良ければいいんだろ? アイツは貴族であっても違うぞ。我儘だし、強欲、傲慢上げればキリがないが、お前らとは違う。アイツの夢を教えてやろう。この地を全てを自分の物にしたいらしい。その行いを誤解……とまでは言えないのが苦しいところだがな」
その名は今や怖れられるものでしかない。
しかし、それは間違いだ。
アイツの治める地に行けば理由は分かる。
一人歩きする尾鰭のついた噂は、実際にその姿を見なければ真実は分からない。
「お前は終わりだ。もう許しを乞うことさえ認めない」
十分に領主達の非道さ卑劣さは伝わったはずだ。
もう味方はそいつらだけだ……。
その連中もどこまで義理立てするか分からんがな。
スメラギの名は使わずに。
それが最善だったんだが、仕方ない。
名前が出てしまったからには、有効に使うしかないな。
その名を使ってまとめるのが一番楽か。
ジジイか騎士様にやって欲しかったんだがな……。
さあ、退場してもらおうか。
後は事が済んでから考えるとしよう。




