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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
62/337

 二人 4

 俺と鏡写しのようなコイツは言う。


「付属品である俺が頑張ったところで上手くはいかない。そんなことは分かりきってる。なら、(オレ)に頼むしかない……代わってくれと」


 ──理解した。

 コイツは俺になり代わろうというのだ。


「そんなこと……認められるわけがない」


「そうか? 俺ならずっと上手くやれる。オマエは、どうして無様に地に伏した? アレはスタークのせいじゃなければ、誰のせいでもない。心臓が逆だった。だからなんだ?」


「…………」


「──あの瞬間。(オレ)はビビりやがった! ああ、殺しちまった。とな」


 ──違う! ……違う。


「違わない。刺さった刀をなんで抜いた? あのまま斬り刻んでやればよかったんだ……。あんな屑をゴミのように殺したとして、誰かが責めるか?」


「結果論だ……それは」


「俺が力を貸してやった。その効果は絶大だったろう? あの瞬間ならどうとでもできた。でも……(オレ)はそうしなかった」


 ──失望したよ。

 そう、コイツは感情なく言う。


「ガッカリだ。森で子供を見捨てなかった(オレ)を見て、誰かを護ろうと決意した(オレ)を見て、俺は(オレ)に期待してたのに……裏切られた」


「……だから、なり代わろうと?」


「──だってそうだろう? (オレ)はまた繰り返す。また傷つく。何度目に理解する? ……俺にだってやりたいことがある」


 やりたいこと?


「──復讐だよ。決まってるだろう! 力を得た……俺ならそうする。(オレ)は絶対にやらないだろうからな」


「……そんなこと」


「許さないか? 実に(オレ)らしい。復讐は何も生まない、誰も望まないか……──それは何も知らない奴の台詞だ! 綺麗事だ! そいつは失くしてないから、そんなことを言えるんだ!」


「……俺は……」


「──オマエだって考えたはずた。願ったはずだ。それを成す力があったら、と。叶うならと!」


 そう思ったことは幾度もある。

 その度に俺はその感情を殺してきた……。

 それが当たり前になるくらいに。


「──認めろよ! 誰を騙せても自分は偽れない。これが(オレ)の本音だろ? 憎くて、憎くてたまらないはずだ!」


「あぁ……認めるよ。それはずっと俺の中にあった感情だ……」


「だったら同じ目に合わせてやればいい。復讐が復讐を生むというのなら、その全て、ことごとく燃やせばいい。 ……火神(かがみ)と名のつく全部を」


 認める……だけど、その道は選ばない。何があろうと絶対に。


「俺は自分が怖かった。自分の中でずっと燻る感情はいつか全部を壊す気がしてた。それがお前だろ?」


「少しだけ違う。俺の中にもソレはあるがオマエにだってある。それは俺たちに共通してる部分でしかない」


 本質では無いと俺は言う。

 認めるよ……こいつは俺だ。


「互いに理解できること、できないことがある。同じ火神 優(かがみ ゆう)という存在であるのにだ。俺は理解できない。どうして踏みとどまる? 倫理や理性だけじゃないはずだ。一線を越えないソレは何なんだ?」


 俺は憎い……。

 目に映る全部を壊してやりたかった。


 どうして俺だけが、こんな思いをしなくちゃならない?

 その笑いを全て悲鳴に変えてやりたかった。


 でも……できなかった。

 それは連中と同じになるってことだろ?

 そんなことを俺は望まない。


「くだらない」


 同じことをやっても何も変えられない。

 俺は忘れない。なかったことになんてさせない。


 だけど──


「俺には理解できない」


 俺は他の結末を探す。


「──破滅じゃない結末なんてねぇよ! 俺が認めない。オマエが俺を認めないなら、俺は(オレ)を否定する!」


 俺もお前を否定する。

 何度だって言う。その道は選ばない。

 そして、お前に自分を譲りもしない。


「決裂だな。やっぱり(オレ)だな……。これは試したくなかった。明らかに俺に不利だからな……でも、仕方ない」


 白い世界が一変する。

 見覚えのある家。庭というには広すぎる場所。

 周囲は桜の花びらが舞う。

 忘れるはずのない場所。


 ……ここは俺の家だ。


 何もかもがあの時のまま。残酷なほどに。


「俺たちに、これ以上相応しい場所はないだろう?」


「……趣味が悪いな」


 もう一人の俺は楽しそうに笑う。


 ♢


(オレ)を殺しても俺が望むカタチになる確証がない。だから、本当は話して分かってもらうつもりだった。だけど駄目だ。もう限界だ」


 俺たちの間には距離ができていた。

 それは目に見えるものでもあり、そうでないものでもあった。


「この五年。必死に我慢したんだ……。何度殺されても。狂いそうなりながらも……」


 その顔からは笑みが消える。

 やがて温度は無くなり、冷たく静かになっていく。


「もう一方的に殺されるわけじゃない。俺も(オレ)を殺せる」


 その手には、さっきまで持っていた刀が現れる。

 折れたはずの刀は元どおりになって握られていた。


「嫌ならいつものように、俺を殺せばいい。そしてなかったことにすればいい」


 いつの間にか、自分の手にも同じものが握られている。


「これはままごとじゃない。部活のような遊びでもない。思えば、(オレ)は一度もまともにやらなかった。何でだか理解してるか?」


 怖かった……。

 また、誰かを傷つけそうで……。


「──うっかり殺してしまいそうだったからな! 意味のない強さをひけらかす奴を。真面目に取り組めと偉そうに言う顧問に。遊びしかしてない……本当の刃の重さすら、 ──知らない奴らをな!」


「……お前と一緒にするな」


「──本当のことだろ?」


 誤魔化せない。

 必ずしもそこまで思ったわけじゃない。

 でも、近いことは思った。


「あくまでも武器はこれだけだ。付け焼き刃の魔法は使わない。俺たちは互いに半分ずつ魔力の所有権がある。俺からそれを奪えればオマエの勝ち」


 単純だろ? そう俺は言う。


「性能が同じ俺たちだが、決着はつくはずだ。勝敗を決めるのはどちらの思いが強いかだろうな。 ──始めようか」


 ちゃんとルールを説明して、きちんと応じるのを待つ。

 本当に自分らしいと思う。


 それじゃあ応じるしかない。

 この先にしか互いに望むものを得られない。

 それを決めるんだ。


 対等じゃなきゃならない。

 卑怯な方法で得た事柄に価値はないと思うから。


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