二人 4
俺と鏡写しのようなコイツは言う。
「付属品である俺が頑張ったところで上手くはいかない。そんなことは分かりきってる。なら、俺に頼むしかない……代わってくれと」
──理解した。
コイツは俺になり代わろうというのだ。
「そんなこと……認められるわけがない」
「そうか? 俺ならずっと上手くやれる。オマエは、どうして無様に地に伏した? アレはスタークのせいじゃなければ、誰のせいでもない。心臓が逆だった。だからなんだ?」
「…………」
「──あの瞬間。俺はビビりやがった! ああ、殺しちまった。とな」
──違う! ……違う。
「違わない。刺さった刀をなんで抜いた? あのまま斬り刻んでやればよかったんだ……。あんな屑をゴミのように殺したとして、誰かが責めるか?」
「結果論だ……それは」
「俺が力を貸してやった。その効果は絶大だったろう? あの瞬間ならどうとでもできた。でも……俺はそうしなかった」
──失望したよ。
そう、コイツは感情なく言う。
「ガッカリだ。森で子供を見捨てなかった俺を見て、誰かを護ろうと決意した俺を見て、俺は俺に期待してたのに……裏切られた」
「……だから、なり代わろうと?」
「──だってそうだろう? 俺はまた繰り返す。また傷つく。何度目に理解する? ……俺にだってやりたいことがある」
やりたいこと?
「──復讐だよ。決まってるだろう! 力を得た……俺ならそうする。俺は絶対にやらないだろうからな」
「……そんなこと」
「許さないか? 実に俺らしい。復讐は何も生まない、誰も望まないか……──それは何も知らない奴の台詞だ! 綺麗事だ! そいつは失くしてないから、そんなことを言えるんだ!」
「……俺は……」
「──オマエだって考えたはずた。願ったはずだ。それを成す力があったら、と。叶うならと!」
そう思ったことは幾度もある。
その度に俺はその感情を殺してきた……。
それが当たり前になるくらいに。
「──認めろよ! 誰を騙せても自分は偽れない。これが俺の本音だろ? 憎くて、憎くてたまらないはずだ!」
「あぁ……認めるよ。それはずっと俺の中にあった感情だ……」
「だったら同じ目に合わせてやればいい。復讐が復讐を生むというのなら、その全て、ことごとく燃やせばいい。 ……火神と名のつく全部を」
認める……だけど、その道は選ばない。何があろうと絶対に。
「俺は自分が怖かった。自分の中でずっと燻る感情はいつか全部を壊す気がしてた。それがお前だろ?」
「少しだけ違う。俺の中にもソレはあるがオマエにだってある。それは俺たちに共通してる部分でしかない」
本質では無いと俺は言う。
認めるよ……こいつは俺だ。
「互いに理解できること、できないことがある。同じ火神 優という存在であるのにだ。俺は理解できない。どうして踏みとどまる? 倫理や理性だけじゃないはずだ。一線を越えないソレは何なんだ?」
俺は憎い……。
目に映る全部を壊してやりたかった。
どうして俺だけが、こんな思いをしなくちゃならない?
その笑いを全て悲鳴に変えてやりたかった。
でも……できなかった。
それは連中と同じになるってことだろ?
そんなことを俺は望まない。
「くだらない」
同じことをやっても何も変えられない。
俺は忘れない。なかったことになんてさせない。
だけど──
「俺には理解できない」
俺は他の結末を探す。
「──破滅じゃない結末なんてねぇよ! 俺が認めない。オマエが俺を認めないなら、俺は俺を否定する!」
俺もお前を否定する。
何度だって言う。その道は選ばない。
そして、お前に自分を譲りもしない。
「決裂だな。やっぱり俺だな……。これは試したくなかった。明らかに俺に不利だからな……でも、仕方ない」
白い世界が一変する。
見覚えのある家。庭というには広すぎる場所。
周囲は桜の花びらが舞う。
忘れるはずのない場所。
……ここは俺の家だ。
何もかもがあの時のまま。残酷なほどに。
「俺たちに、これ以上相応しい場所はないだろう?」
「……趣味が悪いな」
もう一人の俺は楽しそうに笑う。
♢
「俺を殺しても俺が望むカタチになる確証がない。だから、本当は話して分かってもらうつもりだった。だけど駄目だ。もう限界だ」
俺たちの間には距離ができていた。
それは目に見えるものでもあり、そうでないものでもあった。
「この五年。必死に我慢したんだ……。何度殺されても。狂いそうなりながらも……」
その顔からは笑みが消える。
やがて温度は無くなり、冷たく静かになっていく。
「もう一方的に殺されるわけじゃない。俺も俺を殺せる」
その手には、さっきまで持っていた刀が現れる。
折れたはずの刀は元どおりになって握られていた。
「嫌ならいつものように、俺を殺せばいい。そしてなかったことにすればいい」
いつの間にか、自分の手にも同じものが握られている。
「これはままごとじゃない。部活のような遊びでもない。思えば、俺は一度もまともにやらなかった。何でだか理解してるか?」
怖かった……。
また、誰かを傷つけそうで……。
「──うっかり殺してしまいそうだったからな! 意味のない強さをひけらかす奴を。真面目に取り組めと偉そうに言う顧問に。遊びしかしてない……本当の刃の重さすら、 ──知らない奴らをな!」
「……お前と一緒にするな」
「──本当のことだろ?」
誤魔化せない。
必ずしもそこまで思ったわけじゃない。
でも、近いことは思った。
「あくまでも武器はこれだけだ。付け焼き刃の魔法は使わない。俺たちは互いに半分ずつ魔力の所有権がある。俺からそれを奪えればオマエの勝ち」
単純だろ? そう俺は言う。
「性能が同じ俺たちだが、決着はつくはずだ。勝敗を決めるのはどちらの思いが強いかだろうな。 ──始めようか」
ちゃんとルールを説明して、きちんと応じるのを待つ。
本当に自分らしいと思う。
それじゃあ応じるしかない。
この先にしか互いに望むものを得られない。
それを決めるんだ。
対等じゃなきゃならない。
卑怯な方法で得た事柄に価値はないと思うから。




