表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
61/337

 二人 3

♢38♢


 今度こそ本当に一人になったようだ。

 俺はさっきのように倒れることもなく、この白い世界に立ち尽くす。


 辺りを見渡し、彼女たちがそれぞれ消えた方向に扉があることに気づいた。


 白と黒。二つの扉。

 扉に特に変わったところはみられない。


 それなのに黒の扉に目が移った瞬間、どうしても黒の扉から目が離せない。


 ──今にも開くんじゃないか?


 そんなことを考えてしまう。

 これは予感ではなく、確信だろうか。

 あの扉が開くのが想像できてしまう。


 そして簡単にその想像は現実になる。


 扉がひとりでに開く。

 扉の向こうは黒かった。それしか見えない。

 いっさい他の色は無く光も届かないだろう。


 そんな場所からナニカが、この白い世界に入ってくる。

 それは形を持たない黒い霧のように見える。

 それは俺の前で止まる。


 そして──


「ヨウ、アイタカッタゼ。オレ」


 そう喋った……。


「ナンダ、ソノカオハ……アア、ソウカ……」


 霧はまとまり一つの形を形成する。

 見覚えのある姿に形が定まる。


「体なんて今までなかったからな。これで分かるか?」


 ──俺だった。


 その姿は間違いようがない……。

 更紗たちとは違う。何の違いもない、鏡に映る自分のような感覚。


「なんか言えよ? 感想あるだろ」


 俺と同じ姿をしたコイツは言う。

 自分の声とはこんなふうに聞こえているのか。


「なんだ、お前……」


 なんとか絞り出した言葉はそれだった。


「おいおい、それはないな。鏡に向かって、お前誰だって言ってんのと同じだぜ。それ?」


 それ以外の感想なんかあるのか?

 薄気味悪いとかのレベルじゃないだろ。


「あえて答えるなら……この異世界で手に入ったモノかな。分かるよな?」


「魔法……か?」


 ここで俺に手に入った、得たものなんて他に思いつかない。

 自分の常識では計れないことがあっても不思議とは思わない……。


「そうだ。それが俺を形作るモノだ。中身は違うんだけどな。まあ、それは取るに足らないものだからな……」


 魔法。その力そのものという意味なのか?

 それが俺の姿をかたどっているコイツなのか?


「やっと邪魔がいなくなった。こんなチャンスは、この先あるか分からないからな。俺と話しがしたかったんだ」


 ──座れよ、と。


 いつの間にかテーブルに椅子もそこに有った。

 いきなり現れたとしか思えない。


「立ち話もなんだ。それに外はまだ時間が掛かる。俺たちは暇なんだ。付き合えよ?」


 コイツは先に椅子に座る。


 俺にも席につけと?

 ──こいつは何なんだ。


 薄気味悪さと、好奇心がせめぎ合う。

 ただ、今出来ることが思いつかないのは確かだ。

 なら話をするくらいは構わないだろ。


 ♢


 俺たちは、本当にたわいない会話をした。

 答えの分かりきった問答。正解は分かってる。

 答え合わせのような会話だった。


 ひとしきり話した後、コイツは異世界に来た直後を語り出した。


「参ったよ。最初から死にかけてたんだぜ? 俺がいなきゃ、地面に落ちたところで死んでたな」


「俺が意識を失った後か?」


「あぁ、全力で魔力を展開して何とか上手くいった。俺が落ちた場所はクレーターみたいになってた。 ……覚えてないのか?」


 覚えてない……。

 気づいた時は、そんなところにはいなかったから。


「おまけに全力を出したはいいが、引っ込め方が分からないときた。常に魔力を垂れ流すのはマズイと思ったんだけど、どうしようもなかった」


「……マナさんが言ってたな」


 俺にもコイツにも、どうにもできないことだったのか。


「マナさんと会長には感謝しないとな。あの二人のおかげだぜ? 今じゃコントロールできるしな。俺は知らず知らず助けられてた。おかげで、こうやって(オレ)と話せる」


 こいつは終始楽しそうだ。

 俺と話しがしたかったというのは、本当みたいだ。


「一ついいか?」


「なんだ? 言えよ。自分に遠慮すんな」


「なんでそんな笑ってられる? そんなに嬉しいものなのか?」


 自分と言うには違和感を感じる。

 俺はこんなふうに普段から話しているのか?

 自分では、あまり意識していないことだ。


 普通にしてるつもりでも、他人から見ればそう見えるのかもしれないけど……。


「嬉しいよ? だってやっと俺の声が届いたんだ。そして、笑ってるのは(オレ)が笑ってないからだ……」


 ──どういう意味だ?


(オレ)が右と言えば、俺は左。(オレ)が白と言えば、俺は黒。 ……もちろん俺はそう思うだけ。なにせ俺にはなんの権利も自由もなかった」


「権利?」


「分からないか。火神 優(かがみ ゆう)という存在を動かすのはオマエなんだよ。俺は付属品。有っても無くても変わらないな……」


 付属品。存在しても、しなくても変わらない。

 影響のないもの……。


「その俺に、こうして自由と権利が与えられた。理由は分からない。 ──だけど現実として俺がここにいる。それが全てだ!」


 それがこうして目の前に座っている。

 なんのために?


「……それを手にして、お前は何をしようって言うんだ?」


 かすかに逡巡した。

 これは話していてはじめてのことだった。


「何も? だってこうしてる今も俺は付属品だ。どうにもできない」


 真意はわからない。けど、俺だとコイツが言うのなら。


「嘘だ。本当にそうだったら、この会話は本当に意味の無いものだ」


 俺ならそんなことはしないだろう。

 なら、コイツだって同じはずだ……。


「へぇ、なら本題を言おう」


 やっぱり目的がある。

 俺だというのなら、俺がこいつの立場でも同じだから。

 自分だというのなら思考すら同じはず。


「──俺と代わらないか?」


 そうコイツは言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ