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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
57/337

 心臓

♢36♢


 貴族と呼ばれる怪物の猛攻が続く。

 容易く命を奪うその攻撃を辛くもしのぐ。

 この数分の間の死亡者は0だ。


「どうして無理に攻撃を受ける? 強化があろうが、それでは保たないぞ!」


 当たり前のことを言われてしまう。

 確かにそうだ。避けれる気になれば躱せるのだけど。


「俺の後ろには誰がいるだろう? その誰かが傷つくよりはずっといい。避ければ他に攻撃が当たる。コイツは理解していて、わざわざその方向に刃を向けてる」


 一撃が重い。腕がどうにかなりそうだ。

 貴族はさっきから、俺以外を狙っている。

 お前は後回しだと言わんばかりに……。


「そういうことか。だったら私が君の後ろにつく。遠慮なく前に出るといい。君ならアレを殺せる」


 こいつは俺の攻撃しか防ぐ動作も、避ける動作も見せない。つまり当たればダメージになるということだろう。


「スタークはまだなのか? 仕込みって言ってたけど……」


「──待て。君は知らないのか? 彼が何をするつもりなのか?」


「……作戦会議は途中で抜けちゃって……」


 実際にそうなんだから仕方ない。

 俺はスタークが何をやっているのか知らないのだ。

 配信とか聴いた気もするけど、なんのことかは分からない。


「呆れたよ。よくそんなことで命を賭けられる。よほど信用しているんだな」


「スタークは信用に値する奴ですよ。じゃなきゃ、こんなところまで付き合ってはくれない」


「買いかぶりすぎだぜ? 俺はそんなにいい人間じゃないからな……」


 そう言って仕込みとやらを終えた男は現れた。

 特に変わったところは見られないと思うのだが、終わったのだろうか?


「終わったのか?」


「勿論、問題無くな。これが見えないのか?」


 これとは、肩に乗る小鳥のことだろうか?

 何の意味があるのだろう……。

 役立つとは思えないのだが。


「……そんなの、なにに使うんだよ。本当にそれを用意してたのか。あちこち移動してたみたいだけど」


「不用意な発言は控えたほうがいいぜ? マナのやつには聞こえてるだろうからな」


 ──よく見れば愛らしいじゃないか!

 そして役だってくれる。素晴らしい!


 なんて……思えるんだ。余裕はあるのか?

 それとも、おかしくなってしまっているのか……。


 自分が自分じゃないみたいだ。

 ここに来てから感じていた。

 体が軽い。高揚感のようなものさえ感じている。


「どうする? 準備は整ったんだろう?」


 指揮を取るこの騎士は半端なく強い。

 俺がこの世界で見た誰よりも。それに、その志は騎士の名に恥じないものだ。


「いつでもいけるぜ。これ以上は死体を増やしたくない、アンタの部下を下げろ。アレに気づかれないように」


「難しいなそれは。目くらましでもあれば可能だろうが……」


「煙幕なら出せるが、こっちの視界もなくなるぜ。それじゃあ外す」


 貴族は目で追って戦っている。

 高い身体能力があるのだから、不自由はないんだろう。


 だけど騎士たちは違う。というか、この世界の戦う人たちは違うのだ。

 彼等は魔力を見て動いている。

 最初は理解ができなかったが、俺にもそれが理解できるようになった。


 気配と呼ぶべきか? 攻撃の際、攻撃がくると分かるし、この攻撃はマズイと把握できる。


 それがもたらす恩恵は大きい。

 こうして話していられるのだから。


 マズイと思った時だけ出張って貴族の一撃を防ぐ。

 あいつは何もずっと全力じゃない。

 攻撃には強弱がある……。

 これが、観察して得た情報だ。


 動きは速いし力は強い。

 魔法は強力だし、なにより無情だ。


 でも……見下している。


 人間は弱者だと。だから避けない。

 たとえ傷を負ってもすぐに治る。


 その慢心は貴族の弱点だ。


「スタークそれでいい。 ……やってくれ」


「お前さんがいいならそれでいくが、いいんだな?」


 頷き、力を溜める。

 この動作もいつのまにか出来るようになっていた。

 常に力を放出するのではなく、一定時間蓄える。

 こうして塞きとめることで、蓄えた分だけ放出した際に加算される。


 着想は会長から得たんだろう。

 あの人はそれを剣でやっていた。

 居合は加速し見えない斬撃に変わる。

 放出すれば、離れた位置にも斬撃を届かせられる。


 ただの基本に過ぎないのだろうが、これなら届く。

 障壁があろうと心臓まで。

 魔力を制御するその部位が怪物の弱点らしい。


 ──狙うのはその一点だ。


 ※


 煙幕が視界を覆う。

 それを合図としたように人間たちが遠ざかる。


 逃げるのか? まあ、今さら逃さんが……。


 室内であってもきちんとコントロールすれば、煙幕を晴らすなど造作もない。

 巻き起こる風は、破られた壁から視界を隠すそれを外へと逃す。


 ……無駄だったな。


 しかし、予想と反し人間は引いただけだった。

 煙幕は逃げるためではなかったのだ。


 ──なら、何が目的だ?


 残ったのは男が二人。後からきた二人だった。

 内一人は目的の人間。その力はオレに匹敵する。


 楽しみは残して置こうと思ったのだが……。

 邪魔が少ないのは喜ばしい。


 奴等は満身創痍であった。もう手は出さないだろう。無傷のコイツらに命運を託したか……。

 なら、オレはそれを踏み躙り更なる絶望を贈ろう。


 男が銃を撃つ。銃声は一発。


 避けるまでもない……。

 あの人間からは何の力も感じない。


 魔法も使えないヤツに何ができるわけでもなし。

 障壁に阻まれ弾は止まる。


 そのはずだった。


 ぶつかった瞬間、銃弾は弾け炎へと変わる。

 直後の爆発音。一瞬で炎に呑まれる。

 その熱を感じた時には遅かった。


 なんだ……これは。

 ──魔法だと? それも強力な。

 なんの気配もなく、こんな真似が出来るのか?


 炎をふり払えない。爆発のほうが強い。

 跳躍しようとも天井がある。


 熱い……この魔法はマズイ。

 下がるか? いや、人間などにそんな真似ができるか。


 ──左に脱し術者を殺す!


 爆炎より左に脱す。その時、また銃声が聞こえた。


 二度と同じ手は喰わん!


 爪を振るい切り刻む。

 しかし、男の姿は搔き消える。

 それに銃声はあったのに弾はない。


「こっちだ貴族様。 ……もう遅いけどな」


 脱した先に男の姿がある。

 二発。三発と銃声が響く。

 男が遅いといった通り、もう回避は不可能。

 再び爆発が起きる。先の比ではない爆発が襲いくる。


 熱は、体を喉を焼く。

 そして障壁さえ……燃やす。


 二重の障壁が破られた。もう守るものはない。


「グアァァァァ……」


 そう己の口が発していた。

 こんな屈辱があるか? ニンゲン如きに、こんな……。


 何かが弾けた。長く忘れていた感情だ。

 それは怒りという感情だ。

 怒りのままに全力の魔を使う。


 全て……キエロ……。


 何もかもをことごとく破壊し尽くせる。

 それだけの力を込めた魔だった。


 だが、魔法は発動しなかった。


 その代わりに胸に痛みが走る。

 そこには刃が貫いていた。

 口から赤いものがこぼれ落ち、力なく膝をつく。


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