貴族 4
自爆という選択を選んだ彼らを責められか?
褒めることなどできないが、責めることもできない。
彼はそれだけの覚悟を持って臨んだのだから。
私にできるのは……この機を逃さないことだけだ。
「……馬鹿者が。今だ! 決して無駄にするな! 攻撃を集中しろ!」
爆発が起きる前、最後の言葉は明るいものだった。
あれは何かを決意した者の言葉だったのだ……。
「私に全員分の強化を寄越せ! 一瞬でもいい、アレを上回れればそれでいい」
彼等と変わらぬ選択だろう。何秒もつか。
下手をすれば、許容値を超えた魔力は自身を壊すかもしれない。
──それでも
「やらねばならない! 一太刀でいい。もってくれよ」
爆炎の中、貴族の姿は確認できる。
この機を逃すまいと前衛は突撃していく。
「……これはキツイな。意識どころか体さえ吹き飛びそうだ……」
だが、何とか持ちこたえる。
私の鍛錬にもちゃんと意味があったのだ。ならば、この一太刀は貴族を討つ。
──そうだろうお前たち!
これが、私にできる最大の一撃。
その首を落とせば、いかにお前でも死ぬだろう?
「終わりだ!」
地を蹴り、その首を落とすべく駆ける。
その時だ私は聞いた。何かが砕ける音を。
やったのだ。我々の攻撃で障壁の一枚を破った。
これならいける!
「──獲った!」
これまでとは違う手応え。弾かれるとも防がれるとも違う。これは間違いなく刃が届いた!
「見事。やはり強かったな……」
そう声が聞こえた。
「…………っ」
風が爆炎を吹き飛ばす。
いや、風は私以外の人間さえ吹き飛ばした。
炎の中から現れた貴族の手には、私の剣が握られていた。その手のひらは切れ赤い血が滴り落ちる。
──止められた。
「自分の血など見るのはいつ以来か……。少なくとも、思い出せる限りには無いな」
「……化け物め……」
「──ハハハハハハ。さて、次はどうする? もう一度自爆してみるか? オレは一向に構わないぞ! でなければ、また最初からやり直しになるだけだがな」
障壁は再生する。魔法使いと同じ原理なら、魔力さえあれば何度でも……。
時間を掛ければまた元どおりなのだ。
もう一度。同じことができるか?
やったところで、また同じ結果になるんじゃないのか?
「まだ諦めるなよ? 一太刀入れたのだ。ここからは少し真面目に相手をしよう」
これまで見せる事のなかった、その禍々しい力が顔を出す。途方もない魔力量だった。
強さと比例するというのなら、人間などと比べるべくもない。
──これは無理だ。
どう足掻いたところで敵わない。
「一度に二人ずつに変えるか。ここからは魔法もありだ。さて、オマエは本当に最後の一人になっても、先ほどと同じ台詞が言えるかな?」
楽しみだと言わんばかりに、その口が歪む。
……遊びでしかなかったのだ。これまでのやり取りなど。
私はその力の一端すら理解していなかった……。
※
人間とは本当に愚かだ。
思わず笑ってしまいそうになるくらい。
その命を投げうっても敵わぬというのに……。
差が分からないとは哀れだな。
元より我々のほうが強いのだ。
そこから力を奪われてなお、敵う気でいる。
力を奪うだけでは足りぬのなら、次はその心を砕こう。
それでも抵抗するのか? 抗うのか?
……それには興味がある。
どこまで奪われれば諦めるのか。
その絶望を見てみたい。まずは、この騎士からだ。
どこで諦めるのか、試してやろう。
それが終われば、次はこの地に住まう人間たちで試すのもいいだろう。
いれば役に立つが、いなくとも差し支えはない。
人間の代わりなど人形で十分足りる。
先ほど、魔王様に頼んでおいた。
じきに届くだろう。数千の人形が。
ここにあった旧式ではなく、その上位の個体が。
それを使って戦をするのもいいだろう……。
武器は買い込んであるようだしな。
この国に飽きれば、隣国を攻めるのも面白いかもしれん。気に入らぬヤツもいるしな。
退屈だった……ずっと。
この世界は争いが無くなって、オレにとっては平和になってしまった。
人間たちはどうだか知らないがな。
貴族間で争うことは今まではなかった。
あっても人間同士で、だ。貴族が出張ることなどなかった。
禁じられているわけでもないし構わないだろう。退屈はもうたくさんだ。
ああ、あの人間もいたな。早く来るならこい。
魔王様にも報告はあげなかった。
せっかくの玩具を取り上げられてはかなわんからな。
あの方は人間を生かして支配したいようだが、オレは違う。いてもいいし、いなくてもいい。
絶えるのならそれまで。
人間を踏み台にして浅ましく生きたいというのなら、それもいいだろう。
……退屈させるなよ人間?
我が望みはそれだけだ。
強い者なら配下に迎えよう。
強者は価値がある。
弱者に価値がないように。




