貴族 3
♢35♢
荒い息を整え、再び貴族へと立ち向かう。
もう止まることはできない。諦めることもだ。
死んでいった仲間たちに申し訳がたたないし、何より我々が諦めればこの世界に先は無い。
「だいぶ数が減ったな? まだ心が折れないのは感心するが、いつまで、あと何人死ぬまでそれが続くか……」
この怪物は遊んでいる。
その気ならとうに全滅しているはずだ。
それが半数以上が生き残っているのは、手を抜かれているからに他ならない。
……屈辱だが、そこに勝機を見出していくしかない。
「──何故、私を殺さない? 一番目障りではないのか」
「思ったよりも強かったのでな。それに、一人一人順番に相手をしてやっているのだ。殺す順番はオレが決める」
そうなのだ。この怪物は言葉の通り、一人一人を順に殺している。
何人一斉に襲いかかろうと、狙った者以外は見向きもしない。
その狙われた者は確実に死に、その間攻撃を加えたところで傷一つ付けられない……。
やはり防御を破れない。
二重に掛かる、魔力の層を突破できない。
単純に火力が足りない。
分かってはいたが、これほどまでとは……。
「魔法で活路を見出すしかない。通常の武装では歯がたたない……」
隣に立つ部下に指示を出す。
残された手は強化の魔法を複数重ねるしかあるまい。
だが、あれは体への負担が大きい。長時間は不可能。
そして、それで失敗すれば待っているのは敗北だ。
「決死の特攻と言ったところか? その前にオマエに話がある。 ……どうだ、オレの下につく気はないか?」
「──何?」
思いもよらない、想像すらしなかった貴族の言葉。
今こいつは……なんと言った?
下につけと。部下になれとそう言ったのか?
「ちょうど部下……いや、管理をする人間がいなくなった。代わりが必要だと思っていたのだ」
「それは領主のことか? 奴等は、お前の命令で出払っているのではないのか?」
「アレはどうせ失敗する。オレに力を借りようとした時点で見切りをつけた。奴等がここに戻ることはないだろう」
どういう意味だ……戻ることはないとは?
失敗するとこいつは言った。
まさか、それを分かっていて村を滅ぼせと命令したのか?
「お前は何を考えている?」
「……知っているか? 星が墜ちたのだ。その星は、あり得ないほどの魔力を有している。アレは人間だ。それも恐ろしく強いな。我らとさして変わらぬだろう」
「そんな馬鹿な……」
そんな人間が今のこの世界にいる筈がない。
「それにだ。たとえ戻ってきたとしても、領主と呼ばれる人間は一人も居なくなる。それは決定事項だ。なら、代わりを求めるのは当然だろう?」
「それを、私にやれと……」
「そうだ。やると言うなら助けよう。オレは強さこそを評価する。他の何でもなく強さを。 ……オマエはそれを満たしている」
躊躇いなく答えられる。
「断る。私は騎士だ。この剣は貴様のような者を斬るためにあり、この盾は民衆を護るためにあるのだから」
そのために己を磨いてきたのだから。
憧れた英雄はすでに亡く。継ぐ者もいない。
だからこそ私は道を示したい……。
かつての英雄がそうしたように。
「嫌われたものだな。しかし、それでこそ人間だ。決めたぞ……オマエは最後に殺す。最後の一人になった時、もう一度同じことを聞いてやる。その時、同じ台詞を言えるか?」
「何度尋ねようと答えは同じだ。私は英雄たちのように、貴様等を討ち亡ぼす!」
「……英雄か。所詮は我らの王に敗れた者たちだろう? もはや人間達ですら、その名を口にしないというのにな」
その言葉に私は何も返すことができない。
それはまぎれもない事実だから……。
多くの人は諦めてしまった。
仕方がないのだろう。勇者は敗れたのだ。
※
ふむ、この国の騎士とは存外やるものだな。
こんな環境でも志を持つ人間は存在するものなのだな。
しかし、これでは勝負にならんな。
魔法も剣も銃すら通らない。
人ならざる者の障壁とは本当に面倒だ。
魔法使いのそれとは違うのだから、対策も変わるのだがな……。
まぁ、手を出すこともできんし仕方ないと諦めようではないか。
カガミとやらはまだ来ないのか?
急がないと本当に全滅してしまうぞ。
……おや、特攻か。それは悪くない。
犠牲は免れないが見返りもあろう。
一枚でも障壁を破れれば僅かならが勝機も見えるか。ただ本気にさせるだけかもしれんがな。
本人たちは気づいていないようだが、お前たちの剣も銃も魔法も、当たればソレを殺せるのだ。
制限された魔力という条件さえ無ければ、貴族などとソレをのさばらせておくこともなかったろうに。
今のままで対抗するには、同じだけの魔力を持つ人間が必要なのだ。
同じだけの力をぶつければ壁はひび割れ、やがて砕け散る。
そして、条件が同じなら数の多い方が勝つ。
当然の道理だ。目指すのは制限の解除が先決だな。
そうすれば自分たちの力で勝てると、あいつは言っていたしな。
──おぉ、特攻は上手くいったな。
自爆とは妾も恐れ入った。
弱者を侮るからそうなるのだ。
しかし、これでも自らの驕りを改めないとは……。
ちょうどいい手加減とでも思っているのか。
ならば、そのまま人を侮っていろ?
その分だけやりやすくなる。




