戦い 5
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魔法を使いながら、さっきのおかしな現象のことを考える。
あれはなんだったのか?
あの人の魔力ではなかった……。
マナさんのとも違う、異質な力だった。
その魔法はわずかな間しか発動しなかった。
十秒ほどだったか?
一息でありえない距離を詰め、瞬く間に敵が三人も減った。あれは人間の動きではなかった……。
強化といえば説明はつくが、上昇値が異常だ。
雷のような光も確認できたし。
──気になる。
違和感というか、不信感だろうか?
それを意識してしまうと嫌な胸騒ぎがする。
「──ちゃん?! カレンちゃん?」
「なんですか?」
「もう魔法はいいですよ? 会長は予定通りですし、どういうわけか皆さん魔法を撃つ気がなくなったみたいですし」
言われてやっと気づく。
相手側から魔法が飛んでこない。
私は、最初こそ怒りのままに魔法を使っていた。
だって、本当に何の通達も無しに撃ってくるとは思わなかった。
あれでは事前に知らなければ、どうしようもないではないか……。
降伏を促すわけでもなく、ただ攻め入る。
そして、そこには誰もいなかったように何もかも壊してしまう。
それを良しとしていると考えてたら、冷静ではいられなかった。
彼等にだって家族や友人がいるはずなのに……どうして、こんな真似ができるのだろう。
「もう村は大丈夫です。後は任せてください。カレンちゃんは後ろの猪さんをお願いします」
「分かりました。本当に止められるなんて……」
「何言ってるんですか? あなたが自分で守ったんですよ? 宣言通り一人の犠牲も出さずに」
例え非道な相手だったとして、同じ人間なのだ。
私にはその命を絶つなんてできない。
ユウも同じだった。
でも、彼は少なくも一人命を奪わなければならない。人では無いと割り切れるだろうか?
わずかでも優しさが顔を出せば、上手くはいかないかもしれない……。
私は自分で思っていたより平気そうだ。
代われるなら、代わるべきなのではないか?
そう思ってしまう。
「マナさん。私──」
「ダメですよ。それは彼の役目です。優しいだけでは彼は進めません。あなたたちの理想は素晴らしい。でも、それだけでは駄目なんですよ?」
彼は優しく在ろうとしている。それは感じていた。
「カレンちゃんは自らの目的を果たしたじゃないですか?」
「まだ、解決してはないですよね?」
「もう詰みです。会長が馬車に乗った時点でね」
何がおきようと勝ちだと。そう彼女は言った。
私にはそうは思えないのだ……どうしても。
「納得はいかないですけど、今は言われた通りにします。だけど、もしもの時は……」
「はいはい、分かりました。考えておきますから。だから勝手に動いては駄目ですよ? 今は救援急いでください」
呆れ半分といった様子で見送られる。
渋々、移動を開始しようとした矢先……。
「カレンちゃん。集中しないと落っこちますよ? 少し教えただけで飛べるのは流石ですけど、油断してたり余計なこと考えてると。あっ、もう……そっちのほうが心配です!」
上手くはいかない。バランスが難しいのだ。
ふらふらしている私に対して、マナさんはずっと同じ位置に浮いている。技術的には遠く及ばない。
「行ってきます」
そう言い残し、私はその場を離れる。
どうせお叱りはうけるのだから、もう一度勝手しても構うまい。
まずは、急ぎ眷属を片付けよう。
そして彼のいる場所に向かおう。
私は後悔しない選択肢を選ぶ。
※
「まさか、仲間を連れてくるとはな……」
「連れてきたわけでは……彼女が勝手に」
ラットは時間内に戻ってきた。
魔導師を連れてきたのは正しいが、私はどうなる?
いつ剣が首をはねるのか気が気でない。
「まあいい、座れ。魔導師様。お仲間三人はいいのか?」
「手当はしてきたわ。ずいぶん余裕ね? 彼等が目覚めたらアナタが不利になると思うけど?」
「煽るな! 私の首筋が見えないのか? だいたい貴様らが無能だから、こんなことになっているんだぞ? 分かっているのか!」
何故、挑発するようなことを言うのか……。
「まずは事の起こりから聞こうか?」
やりとりには興味がないと言わんばかりに、男は話を進める。
この男は何様のつもりなんだ……。
先ほどは聞きそびれたが、それを明らかにしなければなるまい。
「待て。まずは、お前が先に名乗るのが筋ではないのか?」
「そうか。なら……」
「待ってください! それを……いえ、私が話しますので……」
代わりに口を開くと言わんばかりに、ラットが声を荒げる。
誰なのだ? この男は……。
「俺はあまり表舞台には出ないんだが、どこで会った? 悪いが全く覚えがなくてな」
「何年か前。とあるパーティ会場でお見かけしました。アナタはあの方の……」
「ああ、あの時か。アレの我がままにも意味があったわけか。振り回されるのは日常茶飯事だが、付き合わされるこっちの身にもなってほしいものだな……。ラットと言ったな? お前が説明しろ。何をどうしたら、こんな真似をしなければならなくなったのかを」
ラットの普段との違いに、私も魔導師も口を挟むのを躊躇ってしまう。
そしてラットは語り始めた。ここまでの全てを。




