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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
49/337

 戦い 3

♢33♢


 男が一人。淡々とこちらに歩みを進める。その左腕には剣が見える。

 城壁擬きは視界に入り、もう少しで魔法の射射程にも届く。


 しかし……。


 人形はどうした?

 何故、一体たりとも姿が見えない?

 すでに村の中に入ったのか?

 それなら壁に穴なりが無いのはおかしくはないか?


 辺りは静まりかえり、自分たちの音しか聞こえない。


 よじ登ったと考えれば説明はつくが、黙ってそれを許したと? そうならば、もう村は……。


 様々な疑問が浮かぶ。

 そのどれも答えはあそこまで行けば分かる。


 しかし、眼前に迫るあの男はなんだ?


 目深にフードをかぶり顔を見ることはかなわない。

 男はその歩みを止めることはなく、依然として向かってくる。


 気がつかない距離では到底ない。

 分かっていてやっている。


 この数に何も感じないのか?

  一人で戦うなど不可能だろう。


 先陣を行く騎馬隊が急に立ち止まる。

 先頭が止まり、後続も止まらざるえない。

 その騎馬の一人が慌てた様子でこちらに来る。


「魔導師様。この位置からでも攻撃は届きますよね?」


 ──確かに。


「何故だ? お前の言う通りだが確かめることがある。前進しろ!」


 どう切り出したものかと、兵士はためらうようなそぶりを見せる。


「人形なら全滅です。あの男の後ろ。氷の壁の下に残骸が転がっています。おそらく全て破壊されました。あの村に何がいるのですか? だいたい、あの氷だって……」


 ──全滅だと? そんな馬鹿な。

 そんな規模の戦力があんな村にあるわけが……。


 いや……あの時間稼ぎはこの為だったのか?


「どうした? なんで前進の指示を出さない?」


 そう、他の魔導師達が集まってくる。

 ここまでそれぞれ隊を率いていた彼等と顔を合わせるのは休憩の時以来だ。


「人形が全滅だそうだ。あの村に何か感じるか?」


 自分が何か間違えていたのか。

 そう思い同格の彼等に尋ねてみる。


「何も? 壁は見事だが、人数さえいれば我々にも作れるだろうし、第一人形が全滅などありえんだろう?」


 信じられない。私だってそうだ。

 なら、こいつは嘘を言うために止まったのか?

 ……そんなはずはない。そんなことをする意味はないだろう。


「どのみち村は目の前よ? 何か気になるなら、ここから攻撃したら? 壁さえなくなれば中も確認できるしね」


「──だな! 何を躊躇してるのか知らないが。別に無理に近づかなくとも、村の一つくらい十分落とせるだろう」


 話はまとまっていく。

 私以外は特に気になることもないように思える。


 ……それが正しい選択か?


「なら、あの男はどう見る?」


 視線はこの間も近づいている男に向けられる。

 視線に気がついたのか、他に理由があるのか分からないが男は歩みが止まる。


「魔法使いじゃないわね。それにあのローブって商会のでしょう?」


 そういえば、あの村には商会の一団がいたはずだ。

 そいつらが村に力を貸しているのか?


「言われてみればそうだな。だけど、商会って組織は貴族の持ち物だろ? なら、敵じゃないんじゃないか。あの男」


「村の人間じゃないだろうしな。 ……捕まえて聞いてみるか?」


 貴族の後ろ盾があるということは、我々と同等と考えなければならない。

 だが、この場ではこちらが有利。

 この国は我々の国なのだから……。


「しかし商会の支配者は悪名高いあの女だろう? 我々だけでは決められん。せめて領主様の許しを得なくては」


「じゃあ、アイツはあのままでいいのか?」


 それが正しいのではないのか?

 下手に手を出すのは嫌な予感がする……。


 進まなくなったことを不審に思ったのか、馬車が後方からこちらにくる。


 伺いにいく手間は省けたな。しかし、勝手に動かれは……。


「何をやっている? やっと目的地に着いたというのに。さっさと仕事をしろ!」


「いやね、領主様。ここからで十分なんじゃないかと話してまして。どうですかね?」


 魔導師の一人が、そう伺いをたてる。

 あくまで自分たちは領主の部下。


 たとえ自分の方が強かろうと、貴族からの信用があるのは領主なのだ。

 彼等は元から今の地位についているわけではなく、貴族に取り入って権力を手に入れた。


 権力は金を生み。金はさらなる権力を生む。

 彼等は搾取する側の人間だ。


「さっさと撃て」


 短く、しかし絶対な命令が伝えられる。

 この国に貴族に逆らう者はなく、それはその腹心たる領主たちにも同じことが言えるだろう。


「了解。全隊構えろ。 ──放て!!」


 自分達も含む領主以外の全員が魔法を放つ。

 四属性それぞれの光が放たれる。


 その光は空中を埋めつくし飛んでいく。

 数など数えきれないほどの魔法は、一射で村などひとたまりもないだろう。


「──ほら、休むなよ! 次だ。跡形もなくなるまで撃ち続けろ!」


「まだ今撃ったのが村に着弾してもないじゃない?」


 この男は……。

 いつもこの調子で全て破壊しつくしてしまう。

 まあ、我々も止めはしないのだが。


 魔法を撃った全員が、その行方を追うべく空中を見上げていた。誰もがこの後の展開を予想できただろう。


 魔法により壁は砕け、村は壊れ、その中にいた人間は死ぬ。いつもと変わらない結果。


 ──それは訪れなかった。


 同じ数。下手をすれば、それ以上の数の魔法が村から放たれる。

 赤く燃えるその魔法は矢のようであった。


 二つの魔法がぶつかりすさまじい音が響く。

 赤い矢のいくつかは、我々の魔法を抜けこちらに向かってくる。


「……なっ」「嘘でしょ?」


 押し負けた、のか? そんな筈は無いだろう……。


私は驚愕からか、皆呆然と空中を見上げる中、一人だけ下を向いてしまった。

 そして気がついた。歩みを止めていた男の姿が消えていることに。


 直後に地面を稲妻が走った。

 そう錯覚するほどの速度。


 いつのまにか商会のローブを着た男はそこにいた。

 私は言葉を発する暇もなかった。


 男が剣を振るう。

 本来なら魔法使いの障壁によって自動的に防御される。だが、バリンと何が砕ける音がする。


 男は剣の柄で一撃し、魔導師の一人が倒れる。

 音に気づいた隣の魔導師が杖を振るう。

 魔法が発現する前に杖は斬られ、その男も一撃に沈む。


 男は殺すつもりはないのだろう。

 障壁がなければ普通の人間だ。

 刃は簡単に体を通すはずだから。


 この間は時間にすると、ほんの数秒だろう。

 私にはゆっくりと時間が感じられた。

 男の剣がこちらに向く。


 私の意識はそこで途切れた……。


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