戦い 2
♢32♢
大量の猪を引き連れてきた、俺とスタークはマナさんに回収された。今は地に足がついていない。
走っていたはずが、一瞬で空中にいるんだもんな……。
「ごくろうさまでした。それにしても、ずいぶんと連れてきましたね?」
「「お前の(あんたの)せいだけどな?」」
スタークとハモった。でも言っておかねばならない。
本当にマナさんの作るものはスタークの言った通りだ。必ず何かしらの問題がある。
「あまり時間もないので無視しますね?」
無視するんだ……。
それにしても、空中にいるっていうのは落ち着かない。
マナさんと違って浮いてるわけではないのだろうし。
「──ちょっとユウくん?! 動くな! 落ちても拾わないですからね」
「俺まで巻き添えくらうだろうが。大人しくしてろよ」
──不安なんだよ! どうやって空中にいるのか、分かってないんだから……。
「もう、しょうがないですね……」
足元に魔法陣が浮かぶ。
現れた……たぶん違うな。ずっとこの上にいたんだ。
この上にいれば安全なんだろう。
様子の落ち着いた俺を見て、スタークがこの後のことを聞いた。
「で、俺らはどうすりゃいいんだ? 状況を見て判断するって話だったが……」
「下は大丈夫です。人形は片付きましたし、会長が後は上手くやってくれるでしょう」
「──マジかよ? どんな手品使ったんだ?」
「手品というか……カレンちゃんがですね……」
それは俺のせいだろうか?
まぁ、言わなければバレないよな。じっとしては、いられなかったんだろう。
「ユウくん、何笑ってるんですか? ……もしかして、カレンちゃんに何か言いましたか?」
「いってないですよ? なにも」
「言ったのか……。まあ、後で会長の小言を聞くんだな」
もちろん一緒に怒られますよ。
立場が逆なら、俺だって同じことをしただろうからな。
「じゃあ予定通りにいくんですね?」
俺の一言に空気が変わる。
「はい。そうなりますね」
「街まで転移で飛ばしてくれるんだろ?」
でも、それは一瞬だった。
「そのつもりだったんですけど。向こうの魔導師さんがしつこくて……ね。思ったより消耗してしまって、このままだと魔力が持ちそうにないので代案を考えておきました!」
……代案?
「──やめろ! 本当にやめてくれ。絶対にろくな案じゃねぇだろ、それ?」
えっ? ……また、なのか?
「そんなことないですよ。それにですねー、どうせ空中じゃ逃げられないですよ?」
二人して後ろにあとずさる。しかし、逃げ場などない。
いっそ飛び降りたほうが楽なんじゃないだろうか?
「ほらほら、それ以上下がると落ちますよ?」
何で、この人は楽しそうなんだろうか……。
そして予感は確信に変わる。
俺たちの背後には巨大な水で出来た腕。
それにガッチリ掴まれる。
「まさか……このまま投げるとかじゃないですよね! マナさん?」
「おっ、分かってきましたね。その方が簡単かな? って思って」
「──ふざけんな! どんだけ距離あると思ってんだ!」
彼女は、大丈夫。大丈夫。と繰り返す。
スタークのように暴れれば脱出はできるだろうが、すでに足場は消え、なにもない。
「二人分の強化魔法はしっかりかけますから」
「生身でやられたら普通に死ぬからな!」
強化魔法。話だけは事前に聞いた。
分かりやすく言うと、ゲームとかのバフだ。
「スタークくん。うるさいですよ。あまり時間を使えないので始めますよ」
マナさんは腰掛けていた杖から降り、先ほどのような魔法陣の足場に着地する。
「水は癒し。それと護り。その癒しはあらゆる傷を治し、その護りはあらゆる害あるものを弾く衣となる。慈しみ。それを分け与える」
言葉は必要ないんじゃなかったのか?
だけど……感じるこれは何だ?
これが強化されたってことなんだろうか?
「さて、この先私には何もしてあげられません。二人が勝つと信じることしかできない……。だから、その思いを裏切らないでくださいね?」
俺は何も言わなかった。
「──じゃあ、いってらっしゃい!」
そう笑って彼女は俺たちをぶん投げた。
※
さてと。仕込みはこれで終わり。
あとは会長待ちですかね。
二人には、魔力が保たないと嘘をついてしまいました。本当は保険をかけておきたかったんですよ。
これで一回なら街まで転移が可能なはず。
できれば使わせないでくださいね。二人とも。
「それにしても頑張りますねー。あっ、轢かれた。頑丈そうな鎧ですし、死んではいないでしょう」
下はだいぶ混乱してますね。
二部隊。およそ二百人ほどを見捨てて、自分たちは前進ですか。
彼等を犠牲にしても前に進むとは思いませんでした。
かろうじて持ちこたえてますが、崩れればあっという間に自分たちに向かってくるでしょうに……。
全員で眷属を倒してから進むべきでしたね。
それでは会長の筋書き通り。
分断され戦力と思っている人形もすでに全滅。
おまけに、領主も一つの馬車にまとめるとは。
これで条件は満たしました。
後は……。
※
仕込みは上々。残るは仕上げだな。
ユウとスタークは、もう街に入ったころか?
視界は晴れ、もう確認できる距離まで領主一行様は迫ってきている。
まさか空を駆けてやってくるとは思わなかったな。空の道と言ったところか。
だが、人数が大分減ってる。
猪に戦力を割いてくれるとは思わなかったな。
「カレン、用意はいいな? 奴等は射程距離まで入れば雨あられのように魔法を撃ってくる。盾で防ぐのではなく、あえて全て撃ち落とせ。誘爆はするだろうがもしもってこともありえる。ジジイたちはいつでも退がれるように言っておけ」
そう氷の城壁の上にいる少女に伝える。
難しいことではないはずだ。
……心配は魔力量だな。傍目からは分からない。
まして、魔法を使えないやつには余計にな。
「ねぇ……二人は本当に勝てるんだよね?」
その言葉に何と答えるべきか迷ってしまう。教えられることは教えた。
「勝つさ、信じろよ。あいつは逃げ出さなかった。ずっと逃げ続けてきたやつがだ。同じ失敗はしない」
そして、俺やスタークとは違う。
俺たちとは違う道を歩むんだろう。
あとは、その優しさが甘さが、裏目にでないことを祈るばかりだ。
「そろそろ時間だ」
腰の剣を引き抜く。
黒い刀身は、暗く重い輝きを放つ。
……戦場の空気とはこんなものだったか?
昔は多勢など相手にするのは珍しくなかった。
違うのは、隣に立つやつも背中を任せるやつもいないということか……。
通信を切り、一人呟く。
「……求めるものは今にはなく過去。俺の存在意義はそこにしかない。その為ならば、いくらでもこの手を血で染めよう。数多の犠牲が必要だと言うのなら、その山を築こう」
やっと指がかかったんだ。邪魔するなよ道化共。
……もう十分だろう?
お前たちは満たされない。際限なく欲する。
何を踏み台に、何を犠牲にしても。
この先。変わる世界にお前たちの居場所はない。
自らがしてきた報いは必ず受ける。
なら、せめて俺の役に立って消えろ。
その軍隊は俺が貰う。
一から作っていては間に合わないからな。
そしてお前たちは、道化は道化らしく舞台から降りろ。




