戦い
♢31♢
金属音が断続的に鳴り響く。
無機質な異形は体の一部を失っても構わず前に進む。しかし、一体また一体と数は減っていく。
戦える人がいてくれてよかった。でなければ、どうなっていたことだろうか……。
でも、彼等とて完璧ではないはず。必ず綻びはできる。
一瞬の判断がそのまま命とりになってしまうだろう。それを見ていることしかできない自分がもどかしい。
「取りつかれたか。よく狙え……──撃て!」
そう隣から声が聞こえた。
指揮をとっているのは村長さんだ。
おじいちゃんの指示は的確で、今のところ問題無く人形を撃退している。だけど……。
「これでいいのかな? 私たちの村なのに。私たちの戦いであるはずなのに」
「自分たちだけ安全な場所にいて。かな? 言われただろう? カレン、お前は要であると。我慢も必要じゃ」
「でも、それでも私は──」
「そうか。なら、やってみい。黙って見ていられないのは、あなたたちが不甲斐ないからだと言ってやればいい。手を出すなとは言っとらんかったしな」
おじいちゃんは、そうニカッと笑ってみせる。
へ理屈でしかないと思うんだけど……。
でも、許しが出たのかな?
「うん! もし怒られた時は一緒に謝ってね?」
「そうじゃな。しかし、魔法は効かんぞ? 普通に火で炙っても効果はほとんどないぞ。足止めにもならんし。どうする気だ?」
そうなのだ。
土でできた体というのは本当に厄介だと思う。
火でも水でもダメ。
断つには風なのだが、扱える魔法は火ときている。
まずは、いつものように矢を試してみよう。
「──くそっ! また何体か壁を登ってきてるぞ!」
「もっと引きつけないと致命傷にはならないか!」
「 しかし、ここまで来られては……」
「──弱気になるんじゃねぇ! やんなきゃやられんだよ!」
そう男たちの怒号が飛ぶ。
弾き落とすのが精一杯だからだ。
スタークが持ってきた武器は、決して威力が足りない訳ではない。むしろありすぎた。
魔力を威力に加算できるのには驚いたけど、一介の村人に扱える代物ではなかった。
反動を抑えきれない。
狙いをつけてもブレれば意味がない。なので、あくまでも普通の銃として使っている。それが現状なのだ。
「こっちの方が先かな? 大人数には試したことはないんだけど」
鎧。それを思い浮かべる。
あらゆる攻撃を防ぎその身を守る。
鎧であるが重さはなく、しかし必ず守ってくれる。
矛盾だと思う。けれどそれを可能にしてくれるのが魔法なのだ。
──想像に色が付き形になる。
その想像が魔法なのだ。
「なんだこれは? この赤い光は?」
体に纏う輝きに驚きの声が上がる。
「これは……ただの強化の魔法ではないな? カレン、お前が自分で考えたのか?」
頷く。私が考えた。
勿論、一から作ったわけではない。既存の魔法に私が手を加えたに過ぎない。
守りに重点を置いた魔法。
命名するなら炎の鎧とでも呼ぼう。
「付加の魔法の性質は失わずに独自の色も見える。これならその銃も十分扱えるな。弾を変えろ! 取り付いたやつだけでなく、我々で下の人形を殲滅するぞ!」
──おう! と銃を持つ全員が答える。
全てを任せてはいられない。
私たちだって戦うと決めたのだから。
※
「──何やってる! 一人で相手にするのが無理なら連携を重視しろ! 何の為の一隊ずつの編成だと思ってる」
「しかしですね、会長。十人でこの数を相手にするのは無理が……」
「広がらないと簡単に抜けられてしまいますし、しかしそうすると連携どころでは……」
言わんとすることも分かる。だが、せっかくの武器が役に立たない以上は、ここで抑えるしかないのだ。
「いいから隊ごとに対処しろ。その方が確実に減らせる」
「それでは会長が一人に……」
「それでいい。お前たちは左右に別れろ。そして、それぞれに向かってきた人形を確実に仕留めろ。逸らしたやつは上の連中がなんとかする。信じろ」
よし。言った通り左右に別れたな。
やはり、魔法使い無しではキツイか?
今や魔法使いの支援が前提なのだ。それを欠いては……。
「会長、ユウくんたちが戻ってきましたよ。これから回収して貴族のところに送ります」
マナの声が聞こえるのは一枚の札。
短冊形のそれに複雑な魔法陣が書いてある。
この世界での通信機というところか。
携帯電話。あれは便利なものだな。
どれだけ離れていてもあんな小さな機械で会話できるんだからな。
それをこちらでもと考えた。マナが形にしたんだが、思ったよりも使い勝手が悪い。
音は周囲に丸聞こえだし中継役が必要だ。
「──会長? きこえてますかー。あれ?」
「聞こえてるよ。 ……こっちはまだ掛かるぞ。可能な限り時間を稼げよ」
「大丈夫だと思いますよ。なんか凄い数引き連れてきてますから……」
「そうか。上手くいってるのか一応。厄介な能力だと思ったが、使い方次第か」
魔物を引き寄せるのというのは、デメリットだと思っていたが使い方によっては役に立つか。
魔物避けも受けつけるようだし、オンとオフが切り替えられれば一番いいんだろうがな。
「手こずってますか? そっちは?」
「まあな。支援魔法無しでは無理もない。こうして話ている今も人形を……──ちっ!」
一度に複数向かってくるというのは面倒だな。一体バラす間に次が寄ってくる。
抜けて村に向かうやつもいるし、全部同じようで行動には差がある。
同じ命令で動いているはずなのにな。
「なんかすごい音してますけど?」
「鉄を殴ってるようなものだからな。向こうは怯みもしないが、こっちはそうはいかない。切断の楽な関節部を狙うのは骨が折れる」
「普通は魔力無しで鉄は斬れないと思うんですけど……」
「いちいち魔力を使っていたらすぐに底をつく。なら、可能な限り自力でやるしかないだろう」
本来なら魔法使いが一人は必要だ。
魔法の使えない俺たちを強化するために。
現在この世界の魔法使いの役割は、その役目が大きい。
「──なっ。ちょっと! カレンちゃん?!」
マナの慌てた声。直後に炎の矢が降り注ぐ。百や二百ではきかない数がだ。
……おいおい、何のためにこんな苦労をして人形共を相手してると思ってるんだ。
「カレンに繋げ……」
「……えぇ、やですよ。会長が嫌われるのは構わないですけど、私まで嫌われたくないです。カレンちゃんだって考え無しに言いつけを破ったわけじゃないと思いますし」
「いいから繋げ。早くしろ!」
「いやですー」
自分で直接向かった方が早いか?
そう思ったとき、もう一つ異変に気がついた。
赤い光が体に纏われる。
みなぎる力。自己の魔力ではなく外部からの供給。
「支援魔法まで掛けたぞ? 魔力を温存する気がないのか。あいつは……」
「えーと、村長さんからです。お前たちが不甲斐ないから儂が支持した。支給された弾を使うから離れろ。だそうです」
下にいる全員に伝えたのだろう。
全員が直ぐにその場を離れていく。
……勝手な真似を。
確かにアレなら人形を一掃できる。
しかし代わりにカレンの魔力を削ってしまった。
これだけの人数に支援魔法を掛ければ消費は少なくない。
「マナ、ここにいる全員に繋げろ!」
やってしまったものは仕方ない。ならば有効に使うのが最善だ。
「はいはい。繋がりましたよー」
「上からの射撃は、今装填した分だけしか弾は使うな。討ち漏らしは下で処理する。カレン、お前はそれが終わったら直ぐに魔法を解け。お前の本番はこの後だぞ?」
村の男たちの銃の腕は悪くない。
大きく外すこともなく命中していく。
先ほどまでは、押し返すのかせいぜいだったのが銃弾が人形を貫通する。
銃とは思えないほどの威力。その轟音。
腕がもげたもの。足がもげたもの。
もう無傷の個体は存在していない。
「……銃声が止まったな。後は俺たちの仕事だ。一気に片付けるぞ!」
さて、この後が本番だ。
弾薬は多くない。これ以上の戦闘は困難だ。
「マナ、準備はできたのか?」
「もうちょっとかかりますよ。まずは二人を送らないことには先に進みません」
「まだ回収できないのか? お前、実は遊んでるんじゃないよな?」
「そ、そんなことないですよ?」
大方、二人が追いかけられているのが面白かったとか、そんな理由だな……。
こいつはいつも通りだな。
まあ、気負われるよりはいいか。




