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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
46/337

 誤算

♢30♢


「うわぁぁぁぁぁ──」


 こんな事になった始まりは、スタークが放った一発の弾丸。その目的は猪たちの注意を集める為と、マナさんが寄こした新しい弾の試し撃ち。スタークはその二つを一緒にやったわけだ。


 しかし、結果は最悪だった……。


「──走れ走れ! つかず離れずだ。やっぱ、ろくなもんじゃなかった!」


 俺たちはひたすら走っている。群といっていいのか分からないほどの大群の猪を、自分たちの後ろに引き連れて。


「コイツら速い。もっと飛ばしちゃダメなのか!」


「ダメだ。ちぎっちまったら意味がないからな。我慢しろ、もう少しだ」


 スタークはそう言うが、この地鳴りとそこに混じる明らかに怒っている大量の鳴き声。こんな状況で正直振り向きたくなどないが、先ほどからとても近く感じる先頭との距離を確かめるべく、恐る恐る背後を振り返る。

 そこにあったのは、間近に迫っている群。鼻息が届きそうなくらいに近い先頭の猪だった。


 一瞬でも足を止めたら大群に呑み込まれる距離。つまずいて転んだりすれば、あの大群に轢かれる。そんな本気で命の危機を感じるレベルの恐怖があった。


「だいたい、なんであんな場所で試し撃ちなんてしたんだ。こうなんの予想できなかったのかよ!」


「出来るか! 元は発火して燃えるだけの液体だった。それが、どうやったらああなるんだ!?」


「確かに。予想できなかったけど……」


 放たれた弾丸は猪に正確に命中し、そこから火が出た。ここまでは事前に聞いていた通りだった。

 しかし、弾から出た小さな火が見えた瞬間に異変が起きた。小さな火は一瞬で膨れ上がり弾け飛んだ。


 起こったのは発火などという優しいものではなく大爆発だ。その爆発は、俺たちすら巻き込むほどに大きなものだった。それだけの爆発は猪の注目を集めるどころか、命中した個体と群れの半分くらいを爆散させた。

 そして、音と仲間がやられた事に気付いた周囲の猪たちにも追われることになり、予定より大量の猪を引き連れることになってしまったのだ。


「もともとが最悪の組み合わせだったんだ。このくらいはしょうがないと諦めろ。こんな事はこの先いくらでもあると思っといた方がいいぜ」


「組み合わせって、マナさんと会長のことか?」


「そうだ……。どっちか一人でも大抵ろくなことにならないのに、今回は二人揃ってやがる。オマケに会長の案にマナが乗っかるっていう、俺の考えられる最悪の展開だ」


 そういえば。スタークはこの作戦を聞いた時も、そんなことを言っていた。今思うと、青い顔をしていた理由もこれだったんだろう。

 というか、こんな事がしょっちゅうあるのか? それは嘘だろ。


「だけどな、なにも試し撃ちを猪でしなくても良くなかったか?」


「じゃあ何か、村の中でやれば良かったのか? んなことしたら大惨事になるとこだっただろう。どの道、外に出なきゃならなかったんだ。結果はたいして変わんねーよ」


「そうかもしれないけど……──うわぁ、近い。話に夢中で気がつかなかった!」


「何やってんだ!」


 何か生暖かい感じがして振り返ると、触れるくらいに群れの先頭が近づいていて、慌てて速度を上げる。するとほどなくして開けた場所に出た。


「──やっと森を抜けた」


「マナ、聞こえるか? ……ダメだな。もう少しか? まだ通信の範囲内には入ってない。少し急ぐぞ。こっからは多少引き離しても大丈夫だ」


 これだけ開けていれば猪たちにも俺たちを見失うこともないだろう。スタークに頷き返し、さらに走る速度を上げる。


「……俺たち。なんか走ってるの多くないか?」


「それ、お前のせいだろ」



 ※



「会長、そっちに一体抜けます!」


「ああ」


 馬鹿正直に。ただ真っ直ぐに。こちらに向かってくる土塊を斬り伏せる。意思を持たぬ土塊とて油断なく確実に斬り伏せ、以降の行動を封じる。

 人形の性能からいえば一撃でももらえば骨は砕け、そのままあっさりとトドメを刺されるだろう。しかし、当たらなければどうとでもなる。


「狙うなら右側だ。話しかけても仕方ないか……」


 右腕の自由がきかないが、意思の無い人形に弱っているところを見分けることなど出来るはずもなく、動く左腕だけで倒せるだろう。

 この人形という存在は、作成者の魔力によって形作られている。その身体は予め決められた形であり、その形から外れた部分は消滅する。土人形なら土に還る。


 まずは機動力を生む足を切断し、次いで這いずろうとする腕を切断する。残るのは胴と頭。これだけでは大したことはできない。そして、切断面から漏れ出した魔力は止まらず、じきに動かなくなり土に還る。

 一体にこれだけの時間をかけるのは得策とは言い難いが、念には念を入れよう。後ろには守るべき存在がいるのだから。


「さて、この分だと人形はどうにかなりそうだな。ここで全力を出して構わないぞ。後続は戦闘にすらさせないからな。平和的に解決しようじゃないか」



 ※



 今のところ上手くいっているな。

 まあ、あの男なら人形ごときに遅れはとらないか。

 おっと、いかんな。見物もほどほどにしなくては。

 妾は言われた通りにカガミとやらの方に行くか。


『これ以上、一つも駒は減らせぬからな』


 せっかくの駒を一つ失ったは予定外だった。

 まさか、妾が表に出ても勝てないとはな。

 それにあの仕掛け。到底自分には思いつかない。

 己が身を犠牲にしてまで、たかが駒を守るとは。


『どこまでも愚かな……』


 どうして。こうも違うのか?

 同じであるはずなのに。それゆえに腹立たしい。


 どうして。あの女にはあって妾には無い?

 同じであるはずなのに。それゆえに憎い。


 更紗(さらさ)、妾と同じ名を持つ半身とでも言うべき存在。お前が直接出てくれば話は簡単だったのだ。その身体があれば、魔王だろうと一蹴してやったものを。

 叶わぬことがない妾を以ってして、壁の内側にはこうして思念体しか潜り込ませられなかった。この壁は内から壊すしかないというのにだ。


 異界と化したこの国には妾は相性が良くない。

 如何なる理もおかしな方に向くからな。それに干渉されずに事を成すには、異な場所から来た者が相応しい。

 しかし、手間がかかった割に手に入ったのは、不出来な者共ときている。あんな出来損ないの、勇者もどき共に賭けるしかないとは情けない。


『……まったく、思い通りにはいかぬな』


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