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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
45/337

 策

♢29♢


『ユウ、お前たちが抜けた穴を埋め、尚かつ時間を稼ぐには策がいる』


『……策?』


『マナとジジイにも相談したんだが、やってみる価値はあるだろうとなった。というわけだ。街へ向かう前に一つ頼まれてくれ』


『何をするんだ? 村のことは完全に任せっきりになると思ってたから、俺に出来ることがあるならやるけど』


『よし、言ったからには必ずやれよ。お前に付き合わなきゃならないスタークは青い顔をしていたが、流石だな。勇者様には心配無用だったな』


 その会話の後、村を出た俺とスタークの二人は、ムサシの村より西側。西の村と、俺たちのいた南の村との中間くらいの場所に来ている。

 打ち合わせ通りに移動し、整備された道から外れ、森の中を抜け岩場のような所に出た。


「なぁ、こんなところに居るのか?」


 前にいるスタークに、当初から思っていた疑問を尋ねてみる。現在俺たちは警戒しながら、身を隠しながら進んでいる。


「しっ──、静かにしろ。いるぞ」


 身を隠すのに使っている岩の陰から、頭だけ出して前方の様子を伺う。スタークの見ているところにそいつはいた。


 本当にいたし。本当にデカい。

 想像していたよりずっとだ。

 ……あれは本当に猪なんだろうか?


 この国では絶対に避けるべき魔物であり、その凶暴性は他の魔物とは比べられない。生態としては夜行性かつ群で行動する。昼間は今のように自分たちの縄張りで過ごし、夜になるとエサを求めて活動するらしい。


 大きさも軽自動車くらいはあるだろう。それもスターク曰く、こいつは若いヤツであり大きさもまだまだらしいのだ。見張りは若いヤツの仕事ということなんだろう。

 凶暴そうなのはそれだけではない。長く伸びた牙も確認できるし、それを含む突進をくらえば間違いなく死ぬとのことだ。少なくとも自動車に轢かれるようなものだから、当然といえば当然だろう。


 そして、厄介な点はそれだけではない。猪はフンフンと鼻を鳴らし、匂いを嗅ぐ動きを見せる。その視線は左右に振られ周囲を警戒してる。


(マズイな……。気づかれたなこりゃ。まだ魔物除けの効果が消えるのには時間がかかるんだろ?)


 声をひそめ互いにしか聞こえない音量で、スタークが尋ねてきた。そう言われて、自分の手の甲の魔方陣を確認すると完全には消えてない。


 最初と比べると全体の八割が消えてる。魔方陣は時計回りに一周する要領で消えていっている。この陣が完全に消滅するまでは魔法の効果が残ってるらしい。

 ここまで来るのに十五分くらいだったから……この感じだと残りは五分くらいか?


(もう少し残ってる。後五分くらいかな? あいつの視界に入らない限りは大丈夫なんじゃないのか?)


 今、俺に掛かっている魔法はカレンによる魔物除けの魔法だ。魔物除けの魔法は、魔物を引き寄せてしまう状態と上手く相殺されているようで、ここに来るまで魔物とは一切遭遇しなかった。


(匂いまでは誤魔化せないからな。アイツらの鼻は並じゃない。見張りがウロついてるから、群はすぐそこだ。どうするかな……)


 少し考えたスタークは離れた位置にある木を指差し、ついて来いと手招きされる。そして、音も立てずにスタークは木の上に消えていく。


 すごいな。俺もできるだけ音を立てずに──。


 可能な限り音を出さないつもりだったが、「ザッ──」と地面を蹴るときの音が響いた。それでも木の上に移動は成功したが、別の方向を向いてた猪はその音に気がついたのか、俺たちがいた岩の方にすぐに近寄ってきた。


(耳もいいのか? ……上手くいったと思ったのに)


 隣の枝にいるスタークは下ではなく前方。岩場の方を見ていた。


(野生の獣なんだ。耳もいいに決まってる。人間なんかよりずっとな)


(魔物じゃないのか? 普通の猪の大きさじゃないだろう、アレ)


 獣と魔物。その違いはどこにあるのだろうか? これまで出会ったのがスライムとイノシシでは、例が少ないので分からない。


(魔物は魔物だな。ただ、昔は普通の猪だったんだ。それがこの土地の影響を受けて変化したんだ。正確に言うなら魔獣ってとこか?)


 魔物ではなく獣でもない。

 その二つがかけ合わさったような存在。

 明らかに元の動物とは違っている。それが魔獣。


(魔獣には二つあってな。土地の魔力によって時間をかけて変わったものと、貴族によって強制的に変えられたものがある。アイツらは後者だ。あれは貴族の眷族。人形は見たな?)


 頷き、あの異形を思い出す。村を出発し少し進んだところで、もう目視できる距離まで人形は土煙を上げて近づいてきていた。


(人形は魔王の眷族って話だ。要は生み出した奴が貴族か魔王。そのどちらかの場合に眷族って呼ばれる)


 人形という眷属。その身体は本当に土なんだろう。人型の土の塊。一見、マネキンのようなそれが大量に向かってくる様子は恐怖を覚えた。

 走っているのだろうが、腕は振らず足も上がっていない。だらりと腕をたらし歩いてるように見えた。ただ、その速度は歩いているそれでは無く、走っていると言って間違いない。


 意思もなく、ただ命令のままに動く。その動作に人間らしさは感じられず、ただただ動きが気持ち悪かった。

 人型であるだけに関節も人間と同じなのかと思ったのだかそれも違い、腕も足もありえない方向に普通に曲がっていた。


 あれを生み出した者の狂気を感じた。そいつには、人間はこう見えているんだろうと……。



 ※



 俺たちは村に先行する人形が到着するであろう時間と、後続が村に到着する時間を計算してこの場所に来た。もう人形たちはどうやっても止められないから。

 なら、人形は残らず倒しきるしかないからだ。それには時間が必要だし、その時間は決して短くはない。


 だけど、これが幸いなのかは分からないが、先行する人形と後続とは一時間ほどの距離が開いている。しかし、その時間だけでは人形を倒しきれない。

 そのままで後ろが追いついてしまえば、いよいよ勝ち目は無い。だから、開いている距離を利用して時間を稼ぐというのが作戦の目的である。


『この地の特色とデメリットしかない能力。それを利用する。やる事は簡単だ。魔物を集める体質を使い、魔物を誘導し後ろの連中にぶつける。いい時間稼ぎになる。連中が村に到着するまでの時間と、お前たちが貴族を殺すまでのな。上手くすれば戦力も削れるだろうしな』


 俺たちの最初にやるべき事は、猪を引き連れていくことだ。確かに上手くいけば時間稼ぎになる。

 いろいろと言いたいことはありけど、それで役に立つならやるべきだ。


「そろそろだな。一度始めちまったら、最後までやりきるしかない。準備はいいか?」


 スタークの言うように、もうじき魔物除けの魔法が切れる。もうほんの僅かしか魔法陣は残っておらず、時間切れが迫っていると分かる。


  ──覚悟を決めろ。


 この世界を……いや、あの村を。

 そこに生きる人たちを守るために。

 今だけでいい、前は俺にあったはずのものを。

 守るための、踏み出すための勇気を。


「ああ、行こう。理不尽な支配をもたらす貴族を倒しに──」


 どうして親父が俺を、この世界に行かせたのか解ってきた。一度は諦めた過去。二度とは有り得ない場面。

 もう永遠に取り戻せないと思っていたものがここにはある。ここは、あの日の続きなんだ……。


 何もかもが燃えてしまった。あの日。

 自分の力の無さを呪いさえした。あの日。

 俺が全てを失った……あの日……。


 自分だけが不幸なんだと。

 自分だけがこんな思いをしているんだと。

 自分だけが救われないんだと。そう思ってきた。


 それからは何かに理由を付けて、ずっと逃げ続けてきた。もう何から逃げていたのかも、もう何が憎いのかも分からない。それでも、ふとした瞬間に復讐という言葉が頭をよぎることもあった。


 だけど、そんなことをして何になるんだ?

 それで全て元どおりになるのか?

 そんなこと誰も望んでいない……。

 そう決めつけて生きて(にげて)きた。


 でも、行動どころか口にすら出さなかったけど、本当は真実が知りたかったんだ。知ったところで意味があるのかも、納得できるのかも分からないけど、それでも真実が欲しかった。


「──そして、希望を与えるために」


 人が生きるうえで希望は必要なんだ。ずっと逃げてきた俺には、もうそんなものは無いのかも知れない。だけど、そんな俺でも誰かにそれを与えることは出来るはずだ。


「いつかこんな日が来ると思ってた。ようやく、このクソったれな世界を変える時がきたんだ。退路はなく、進む道は真っ暗闇だ。だが悪くない……。ユウ、勝つぞ!」


 飄々としている印象のスタークからは想像もつかないくらい、今の言葉には強い感情が込められていた。けど、俺だってそうだ。


 あの日を、もう二度と繰り返したりはしない。

 あの時の俺には力が無かった。足りなかった。今は違う。

 見ていてくれよ。父さん。母さん。××× 。もう、あの時とは違うんだ。今度こそ守りたいものを護ってみせる。


「もちろんだ。なにせ、カレンに約束したからな。必ず勝つって。約束は守るさ」


 約束……あぁ、そうだったのか……。


 どうにもカレンを気にかけてしまうのは、気になってしまうのは、そうだったのか。性格だって違うはずなのに、カレンはあいつに似てるのか。

 だからなのか? 懐かしい感じがしたのは。


「お前さん、本当に女の為にが多いな。 ……カレンを置いてきてよかったのか?」


「いいもなにも、カレンには残ってもらうつもりだった。危ない橋を渡るのは俺だけで充分だ。それに──」


『兄貴っていうのは妹を守るもんだ』そう出かかった言葉をギリギリではあったが、飲み込むことに成功した。

 ──危ない、危ない! うっかり口が滑るところだった。カレンにも失礼になるところだった。


「気になるじゃねえか! 言えよ、そこまで言ったならよ!」


 スタークは手に持つ銃に弾を込めながらだが、続きを催促してきた。しかし。


「もう陣が消えた。おしゃべりは後で。だろう?」


「……意外と根に持つヤツだったのか。終わったら聞かせろよ。中途半端は嫌いなんだ」


 終わったら話す機会もあるだろう。

 自分の中で整理が出来た気がするから。

 ここから変わる予感がするから。


 さあ、始めよう。あの日の続きを。


 守るべきは家族じゃないし、戦うのは人間ですらない。それでも、もう一回立ち上がるよ。

 一度は諦めてしまったけど、今度は証明してやるさ。俺たち(、、、)は、出来損ないなんかじゃなかったってな。


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