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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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 愚か者 ②

♢28♢


 人間とは本当に愚かだな……。

 何一つとして敵う道理など有りはしないというのに。それでもこうして戦うことをやめられないとはな。


「お前の悪政はもう見過ごせない。自ら邪魔な奴等を追い出してくれるとは助かった。ずっと機会をうかがっていたのだ。貴様を殺す機会を!」


 眼前には武器を持つ人間が多数。

 そのどれもが等しく愚かだと思う。

 それは勇猛などではないと理解できぬ愚か者共。


「村には貴様を殺した後で救援にいけば十分に間に合う。彼等のもたらしてくれた情報は、天命であると我らは理解した。時間稼ぎと囮役に使い申し訳なく思うが、それもこの国の全ての人々の為」


 魔法使いによる支援魔法が二つ三つと重なる。

 その光は目を覆うほど強い光を放つ。


 無いものを補う、まやかしの魔法。

 しかし、武装に魔法。どちらもあるか。

 それなりに殺す用意はしてきたというわけだ。


「──我等は己の命をかけて、貴様を討つ!」


 一人に周囲からも同調の声が上がる。今にも全員で向かってくるだろう気配。

 その気概はどのくらい保つのか? その戯言をどこまで信じられるのか。愚か……。


「オロカナ。オトナシクカワレテイレバ、イイモノヲ……」


 ──いや、彼等は本気なのだ。本気で「討つ」と口にしたのだ。ならばこれでは失礼か……。

 愚かだとは思うが、その行動は評価しよう。


「その反逆しかと受けよう。この国を預かる貴族としてな」


「「──なっ?!」」


 一挙に動揺が広まる。眼を見開き、全員がありえないと言わんばかりの表情を見せる。


「どうした。言葉を交わすこともろくに叶わないと思っていたのか?」


 言葉が必要がなかっただけのこと。

 この愚か者共にさえ劣る愚か者たちにはな。だが、オレは言葉を使うだけの価値がコレにはあると見た。


「──怯むな! 同じ言葉を話すだけ。それだけだ。決して相容れないのだ!」


「そうだな……。力の無いものをオレは認めない。金だの権力だのを欲するあの無能共など特にな。お前たちは違うのだろう?」


 なら、見せてみろ。命を賭けるのだろう?

 最後の一人になっても、きちんと最後まで見届けてやる。最後の一人まできちんと殺してやる。



 感情など見せない貴族と呼ばれる怪物。

 その男の口元は微かに笑っていた。

 そして惨劇は始まった。



 ※



 ──その同時刻。ムサシの村付近──


「一隊、二隊は盾を展開。下がるな! 所詮は動物。人間に敵うはずはない」


 霧に覆われたこの場所での戦闘はかなり不利だ。その重量もさることながら、何より問題なのはその数だ。


「どうやってこれほどの眷属を集めたのだ? だいたい、どのようにしてここまで連れてきたのか……。偶然などではなく、明らかに人為的に行われている。そんなことが可能なのか?」


 貴族本人でもなければ、あの猪を操るなど不可能だ。なら敵は魔物を操れるとでもいうのか?

 あり得ない。しかし、そうでなければ説明がつかない。


「残りは前進しろ! 敵は目の前だ。村までたどり着けば魔物避けの結界がある。結界の中まで奴等は侵入できない!」


 目先の希望を全体に伝える。それがあれば兵士も奮闘するだろうから。たとえ、進んだ先には人形が待ち構えているんだとしても。


 何を差し置いても一番に優先すべきはこの領主。彼の庇護があれば私は思うままに、望むままに全てを手に入れられる。失うわけにはいかない。

 これで、どれだけ兵を失ったとしても。


「領主殿。霧は無視し魔法で馬車ごと移動します。このままでは埒があかない。二隊ほど残し、残りで村を攻めます」


「……任せる。それより本当にどうなっているのだ。これは?」


「こちらの動向が事前に分かっていたのでしょう。侮っていました。しかし、時間稼ぎをするということは余裕がないと考えられる」


 このやり方。よほど近寄らせたくないのだろう。

 まあ、戦力差は歴然なのだから当たり前か……。

 つまり、村まで着けばこちらの勝ち。そうなのだろう?


「おい、ラット殿もこちらに乗せろ。二人とも一緒の方が守りやすい」


 そう隣の馬車に声をかける。

 ひ弱い印象の男だが、同じ領主という肩書きを持つラット殿にも恩を売っておいて損はないからな。生き残った二人は実に対照的であるな。


「──早くしろ。一気に距離を詰める!」


 仕方ない。できれば人形の始末に残しておきたかったが、それで足元をすくわれるなど、そんなことなどがあってはならない。


「お二方とも少し辛抱してください。少し揺れますので」


 いっ時、風の音が激しくなり周囲の音をかき消す。

 押し上げるまでは力技であるからやむなし。


「何をしている? この風の音は──」


 領主は外の景色を見て驚いた表情になる。後続も自分たちがどうなってるかいるのかを、まだ判断できないでいる。


「──これは飛んでいるのか!?」


「それでは我々しか移動できませんので、もう少し手の込んだ仕様となっています。風で編んだ道というところでしょうか? できれば使いたくはなかったのですがね。何せ、だいぶ魔力を消費してしまいますから」


 跡が道となっていく背後を残りの部隊もついてきている。これなら阻むものはない。後数分で村まで着く。


「こんなことが出来るのか……。魔法というものは」


「まあ、使いようということです。これより速度が上がりますので落とされないように──」


 後続を確認し視線を前に戻すと、チラリと何かが視界の端に見えた。まだ、だいぶ遠い。しかし、相当な速度でこちらに向かってきているような。


 あれは何だ? ……まさか人間か?

 間違いない……人だ。人が急速にこちらに向かってきている。


「なっ──」


「うわぁーーっ、こいつらなんで空中にいるんだよ!?」


「──んなこと知るか! それより自分の心配しないとマズイぜ。マナのヤツ滅茶苦茶しやがって──」


 すれ違いざまに聞こえたのはそれだけだった。飛んできた二人はぶつかることなく後方へと消えていく。


「い、今のは何だ? どうしたら人が飛んでいくんだ?」


「わ、私にも分かりかねます」



 理解がおよぶはずもない。それくらいに突拍子もないことだった。今の出来事がなんだったのかを、彼等が理解するのはもう少し後のことになる。


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