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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
43/337

 愚か者

♢27♢


 訳も語らぬ急な侵攻のためか、兵たちの士気が高くない。だが、本当の事など言えるはずがない。

 大義など存在しない、ただの虐殺なんだとは間違っても言えない。


 兵の大半は国のため、そこに住む人々のためと思っている。真実を知るのは私と側近の魔導士たちだけ。

 兵には今回の件は見せしめであり、貴族様直々の命令であると伝えた。貴族に逆らう者は殺すと。それが国を正しく統治するためなのだと。


 此度の件に不満を抱える者は少なくないだろう。

 村ごと皆殺しにするなど正気の沙汰ではない。そんなことなら、貴族に弓を引くべきだと意見が出ているのも事実だ。

 しかし、万が一にも兵たちが離反したりすれば、我々の責任になってしまう。そんなことになれば私は昨夜の連中のように……。


 魔導士であっても一撃で殺されてしまった。魔法を使う暇もなくだ。あれでは戦いになどならない。

 我々は思い上がっていたのだ。いくら商会から最新の武器を買おうと、それではどうにもならない。アレは根本から違うのだ。


 今の人間に貴族は倒せない。私はそう結論づけた。ならば、これまで通り機嫌をとり上手くやっていくしかない。


 愚かだった……。


 貴族に取り入って上手く立ち回ってきたはずだった。

 まあ、失敗の補填は村一つですむのだ。

 税収は減るが、分け前を分配する人数も減った。

 良かったと思おう。私の命にはかえられない。


「どうかなさいましたか? 顔色が良くないようですが」


 自分の命運が掛かった馬車の中、自分の前に座る魔導士に話かけられ、我に返った。


「……大丈夫だ。それより、まだ村までかかるのか? 休んでいた間に人形たちは先行してしまったのだろう?」


 気が気でなく、黙って待っている事など出来るはずもなかった。一秒でも早く村に着き、事を成すまでは急ぎたい。

 その様子をじかに見て、安心が得られるまでは生きた心地がしないからだ。


「それは仕方ありません。アレの命令権は我々にはありませんので。後続がついてきていなかろうが、止まることはないのです。ただ、命令を全うするのみ。我々のように」


 所詮、私たちもあの人形と変わらない。

 命令を聞く。代わりのきく存在でしかない。


 ……いや、私は違う。


 私の代わりなどいないのだ。

 だから、私はあの中でさえ生き残ったんだ。

 そうに違いない。そうなのだ!


「人形たちだけで片がつくか? それならいいのだが」


「気づかれていないのですか?」


「何がだ? 人形たちに何かあるのか?」


 魔導士の言葉の意味が分からない。私の反応を見てか、魔導士はやはりといった顔をする。

 何があるというのだ? あの人形に。


「人形たちに命令されているのは村を滅ぼすことではなく、その地点にいる人間を殺すことです。アレに村の人間とそうでない人間とを、見分けることなど出来ません。つまり我々も殲滅の対象に含まれているのですよ」


「──そんな馬鹿な?! それでは貴族様は我々も殺すつもりなのか?」


 あの人形にそんな落とし穴があるとは。もっと高性能な物なんだとばかり思っていた。

 魔導士の言葉が正しいなら、最初から我々も殺すつもりだったということなのか?


 今思えば不思議というか不自然だった。

 私の申し出に対して二つ返事で了承し、屋敷にあった全ての人形を貸し与えられたから。


「人形を借りたのは貴方ではないですか。そのくらいは分かっているものと思っていました。しかし、アレの処理も考えて兵を連れてきていますので心配は不要です。それに、人形が先行している現状も悪くない。勝手に始末を付けてくれますから。我らは後始末のみで済みますからね」


「──そうか! なら、何も問題はないのだな」


 全てを任せきってきた私には、人形どころか魔法の知識もろくに無い。

 しかし、日常の大半のことは些事にすぎない。信を置ける者が近くにいれば、些事はその者に任せられるから。


 そうして自分はただ好きに過ごせばいい。

 誰にも何も咎められることもない。

 私こそが支配者なのだから。


「正直申しますと気になることはいくつか……。まず、村には商会の一団がいたはずです。夜襲が失敗している以上、街の支部から連絡を受けている可能性もあります。彼等のことですから早々に退散しているでしょうが、村に情報が漏れている場合も考えられます」


「着いたら、もぬけの殻の可能性があると?」


 村の連中も、もし自分たちの命が危ないと知れば、何かしらの対応をするか。

 何より村長のあの男は、元は軍の指揮官。二十年以上前は前線に出ていて、尚生き残っている強者だ。決して侮っていい相手ではない。


 だが、この軍勢相手に何が出来るわけでもない。

 それに村を捨て逃げたところで、決してこの国からは出さん。刻限までには必ずケリをつける。


「考えられますね。仮にそうなっても、そんな連中を受け入れる所など何処にもありませんがね。誰も自ら火の中に飛び込みはしないですからね。貴族に逆らう愚か者など、近隣の国を見てもおりますまい」


「その通りだ。エゾチ、リュウキュウ。この二国を除けば支配は行き届いている。後は賊共か」


 各地を荒しまわる賊たち。その被害は多大なものだが一向に根絶はできない。

 陸海空どの場所からでも現れる。それぞれが独立しているようで、中には貴族に近しい奴等もいるという噂もある。だが──


「賊もこの地にはおりますまい。大して拓かれた土地ではないですし魔物も強い。それに、所詮は屑の集まりにすぎません。好き好んで人助けもしないでしょう」


 我慢できずに思わず笑いが溢れてしまった。

 奪うことしかできない奴等に無駄な杞憂だったな。


「ならば他の気になることとは?」


「例の魔法陣についてです。飛び去った先の地からすると流星のように見えたでしょうが、ここから見えたアレは魔法でした。飛び去った四つとこの国に一つ。……どうもアレが気になりまして」


 そういえば、確かにそんな報告が上がっていた。だが、落ちたと推測される地点は魔物ひしめく森の中。

 おまけに森の魔物はスライムときている。魔法を使わねば倒すのは容易ではないと聞くし、長く駆除もされていないから数も相当なはすだ。


「落ちたとされる地点は村の近くです。私は一応調査を進言したのですが、予定が狂ってしまいましたから。まあ、杞憂でしょうがね」


 そんな場所にわざわざ出向いて調査など、馬鹿のやることだ。何であれ魔物のエサになっているだろう。


「そうだ、杞憂に違いないぞ。気にしすぎというやつ──」


 ここまで一定の速度で走っていたはずの馬車が、何故だか急に止まる。


「なんだ? もう村に着いたのか? 休憩を挟んだにしては到着が早いな」


「いえ、まだ距離があるはずです。どうしたのですか?」


 そう魔導士は外の御者に尋ねる。

 開いた窓から聞こえる外の様子は騒がしい。


「それが、──とにかくアレを見てください!」


 慌てる御者を疑問に思いながら自分も外を見ると、前方は霧に覆われ何も見えない。

 晴れているのに不自然な霧。おそらく自然に発生したものではない。


「何だこれは。霧なのか?」


「魔法によるものですね。意図はわかりませんが、ただの霧です。前進しなさい」



 ※



 眼前の霧を見て昨夜のことを思い出した。水を扱う魔法使いが商会の支部にいましたね。いや、魔導士と呼んでいいでしょう。

 あの女の子一人にしてやられましたから……。


「これは大丈夫なのか? 毒という可能性はないのか?」


「ただの霧ですよ。毒の霧だとしたら自分たちも巻き込んでいますからね。風で流れることはないようですが、ただ視界を奪うだけのものでしょう」


 霧など吹き飛ばしてしまえばいい。それを実行すべく、馬車の上に立ち自ら杖をふるう。

 風が瞬く間に霧を吹き飛ばす。自然風ではなく魔法による風が。


「魔法同士なら強い方が勝つのが道理」


 すぐに霧はなくなり視界が広がる。

 しかし、何も霧の全てを消す必要はない。

 自分たちが通る道さえあれば良いのだから。


 前方だけ消せば十分。こんな目くらましに魔力を割くなど無駄でしかない……それが狙いですかね?

 それが目的なら、浅はかだと言わざる得ないですね。


「微かですが風に混じって火薬の匂いがしますね。彼等は逃げないことを選んだようですよ? このまま攻め込み、早く終わらせてしまいましょう」


 走り出したと思った矢先、何故だか再び馬車は止まる。

 視界もあるし今度はどうしたというのか。そう口にしようとして、地面を見下ろして気がついた。地面が不自然にぬかるんでいるのだ。それに兵士たちも足を取られている。


「どうしたのだこれは! どうして地面がこんなことになっている!」


 霧はこれを隠すため?

 だとしたら目的は時間稼ぎか?


 何のために……。


 逃げる時間を稼ぐつもりか?

 なら、火薬の匂いはいったい?

 ここで考えていても確証は得られない。


「──仕方ないですね」


 加減した魔法ではなく、今度は全力を持って霧を払う。そうすれば全て明らかになる。

 今度こそ突風が吹き霧を全て吹き飛ばした。


「──あれはどういう訳だ?! 村に何故あんな城壁がある!」


 やはり村までは距離がある。

 何故、こんな場所に足止めを?

 それに城壁? そんなものある訳が……。


 だが、当目からでも確認できる氷の城壁を、自分の目で見てしまう。現在個人が行使できる魔力量を明らかに超えているだろう大きさの建造物を。


 馬鹿な。どうやって?

 どこからあんな物を作るだけの魔力を……。

 あの女の子はこれだけの魔力を有していたと?

 有り得ないだろう。それは。

 なら、いったいどうやって……。


 次いで、何か地鳴りが聞こえ思考が中断される。


「今度は何だ? この地鳴りは──」


 領主は慌てるばかりで、その声は耳障りだ。


「しかし……この地鳴りの正体はいったい? あれは──」


 周囲を見回し、地鳴りの正体がわかった。夜行性で、夜は街や村から決して出ないようにと注意がされている。この国では誰もが存在を知っている魔物である。


 その凶暴性。雑食で人間さえ食らう怪物。大きさは人の背丈と同じか、それより高い。速度は人間と比べるべくもない。アレに跳ねられれば命はないだろう。


 猪に酷似したその魔物が群れをなし、こちらに向かって来ているところだった。


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