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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
42/337

 戦いの前 ⑥

♢26♢


 俺とカレンの衣装チェンジが終了し、今は場所も村長の家へと変わり、そこに集まっているこちらの戦力で、会長と村長のお爺さんを筆頭に作戦会議が行われている。


 その会議も自分の持ち回り部分は終了した。もう、残りは聞いていてもいなくても同じ。

 何故なら、俺に失敗は許されないし。あり得ない。失敗は敗北と死を意味するからだ……。


「いいの。話聞いてなくて?」


 俺が出て行くのを見ていたのか、カレンも外へと出てきた。そのカレンの服装はマナさんに着せられたままとなっている。

 あれはもう完全な強制だと思うが、あのやり方はマナさんなりの心配なんだと……は考えられないな。明らかに趣味が入っているし。


 しかし、女の子とは服装ひとつでこれほど違って見えるのか。さっきは気の利いたことも言えなかった。

 おかげでマナさんには会長と共に説教されてしまった。次からは気をつけよう。


「ちゃんと自分のところは聞いたよ。どのみち村のことは任せるしかないんだ。なら、俺はいてもいなくても同じだろ」


「そう。任せるしかないか……。ねぇ、私たちは自分に与えられた役目をこなすしかない。でも、それでだけでいいのかな?」


 与えられた役割ではなく、自分で考えてってことか。分からなくはないけどそれは理想だ。

 俺たちが考えても大したことは浮かばない。浮かんだところで上手くはいかないかもしれない。


 それなら、与えられた役割をこなしたほうが簡単だ。自分のような素人ではなく、歴戦の経験者がいるのだから。


「今はそれでいいんじゃないか。俺はこの世界の事情もろくに分からない。だから、頼ってくれるならそれに応えたい」


「私は頼られてるのかな? それとも、本当は必要ないのかな……」


「頼られてるよ。だって切り札じゃないか」


 カレンは切り札で、切り札とは出したら終わりなのだ。それで勝てればいい。でも、もしそれが出来なかったら詰みだ。


「言われたことは分かってるつもり。けど、その間は誰が傷ついても見てるしかないの?」


「魔力を温存しろ。ってことは、そういうことだろうな。でもいいんじゃないか? 温存しろとは言ったけど、手を出すなとは言ってなかったし。我慢できなくなったら乱入しちゃえばさ」


 へ理屈きわまりない。

 だけど、黙って見てるだけなんてよりずっといい。

 会長はきっとカレンを使わない。

 そのカードは最終手段だろうから。


『切り札など必要ない。俺がさっさと貴族を殺せばいいんだ……』


 そう意識したとたんに恐怖が込み上がってきた。

 それはもう無視できないレベルになっている。

 ずっと頭の片隅をよぎっては考えないようにしてきた。でも、もう限界だった。


「どうしたの。その震え……」


「誤魔化すのも限界みたいだ。俺はずっと自分が怖かった」


「どうして?」


「それは……」


 口には出せなかった。それを一度でも口に出してしまえば、外からの恐怖ではなく内からの恐怖から逃げられなくなってしまうから。

 恐れだと言って、誤魔化せなくなってしまうから。


「分からないけど、それが自分の力のことを言ってるんだとしたら、それは自分次第なんだよ。自らの力をどう使うかは、その人次第なんだから」


 力なんて優しいものではない。

 自分の奥。深く深くに押し込めるそれ、、。

 その感情の名を告げれば、それは一気に溢れ出るだろう。


「私は自覚したときは怖かった。何でこんな力が自分にあるんだろうって。だけど後になって気づいた。それは良い事にも、悪い事にも使えるんだって。選ぶのは自分。なら私は、自分が良いと思うことの為に力を使う」


 それは俺だって同じだ。だけど、本当にそれを選べる自信がない。最後にはきっとカレンの言う悪い事に力を使うんじゃないか? その感覚を拭えない。


『ワカッテルジャナイカ』


 泥のようにぬかるんでいて、底無し沼のように深い。決して認めたくない負の感情。

 消し去ることは不可能で、見て見ぬ振りをして、誤魔化してここまで来た。


「力を上手く扱えないのは、キミ自身が自分を恐れているから。絶対逃げちゃ駄目だよ? 一人で立ち向かえないなら、私が手伝ってあげるから」


 何の震えなのかも分からなくなってきた手に、カレンの手が触れる。その手は暖かかった。


『……アタタカイ』


 握られた手の温かさはゆっくり、しかし確実に震えを止める。少しだけ楽になった気がする。


「魔物避けが必要だったよね。ちょうどいいし、今掛けちゃうね」


 触れられた右の手の甲に赤い魔法陣が浮かぶ。

 カレンは次いで左手に触れる。


「こっちはおまじない。勇気のでるおまじない」


 左手にも、もう一つの魔法陣が浮かぶ。温かさを感じる。まるで彼女の優しさを感じるようだ。


「いないと思ったら二人してバックれて、こんなところでイチャついてたんですか?」


 急にした声に「ビクッ」として、カレンとともに声のした方に振り返る。そこには、ジト目のマナさんが立っていた。



 ※



 かく言うマナさんも、飽きて抜け出してきたそうだ。この人は、まったく人に説教できる立場じゃないよな。


「二人に渡すものがあったんです。はい、これ」


 そう言って何やら紙を手渡される。

 紙の表面を見ると、複雑に魔法陣のようなものが書かれている。ただ、円形ではなく短冊型にだ。


「これはいったい?」


 一見、ペラペラの紙にしか見えない。

 これに何の意味がある……そもそもなんだこれ?


「簡単に言うと携帯電話です。持ってる人同士で会話ができます」


「携帯電話ってなに?」


 俺は携帯電話を理解できたが、分からないカレンからは当然の疑問があがる。

 しかし、これが携帯電話? 紙にしか見えないけど。


「通信の魔法ですかね。カレンちゃんに機械と言っても、上手くは伝わらないでしょうし」


「通信。わざわざ道具を使って?」


「わざわざ道具を使ってですが、これを使うとなんと! 魔法を使えない人とも会話できるんですよ!」


 通信の魔法と携帯電話は同じようなものなのか。

 実際これも携帯できるし、電話ではないけどできることは同じなんだから一緒か。だとしたらスゴいな。


「──すごい! けど、どう使うの?」


「まだ使えません。数時間が限界なので。あと、私が中継役をしないといけませんし」


 こんな紙が携帯電話とは、本当に魔法ってのはなんでもありだな。今のから推測すると、マナさんが中継して会話を繋ぐのか。


「どのくらいの距離使えるんですか? 流石にどこでもは無理ですよね」


「それも正確にはちょっと。試作というか。今日初めて使うというか……」


 あれっ? なんだろう。不安になってきたぞ。

 心なしか、マナさんも自信がなくなってきているような気がする。


「もしかして試してないんですか?」


 マナさんの首が縦に振られた。

 大丈夫じゃないぞ、それは。

 ぶっつけ本番で試していいものではないだろう。


「まあ、なんとかなりますって! ……たぶん。理論上は問題ないはずだし」


「いちお持ってます。期待はしないで」


「なっ──、ユウくん。マナを信用できないと?!」


「今のを聞く限り無理でしょう」


 あれば便利だが、無くても問題はないんじゃないか? 今までだって無かったんだから。使うなら使うで実証実験は必要だし。


「ところで、何で二つも杖持ってるんですか? さっきまで一つでしたよね?」


 実は最初から気になっていた。ただでさえ、自分の背丈より長い杖を持っているのに、それが増えれば目につくし気にもなる。


「……まあいいです。これはカレンちゃんに渡しにきたんですよ」


 そう言われればカレンは杖を持っていない。同じ魔法使いのマナさんは持っているのに。

 それにマナさんは杖自体を武器のように使ってた。会長とスタークいわく、「下手くそ」らしいけど。「サボってばかりいるから上達しないんだ」って言ってた。


「私に? ありがとう。でも……杖って何に使うの? これで殴るの」


「──えっ?!」


「魔法を使うのにじゃないもんな。杖って何に使うんですか?」


「ほ、本気で言ってますか?」


 そんな残念なものを見たような顔をされても困るのだが。


「魔法には陣の他に必要なものがあります。わかりますか?」


「そのくらい俺にだって分かりますよ。魔力でしょう」


「……触媒かな?」


 カレンが言うなら違うのか。触媒ってのは何だ?


「どっちも正解です。それらは同じものでもありますから。魔法使いの持つ杖は、触媒の意味合いが大きいのです」


 魔力は触媒。触媒は魔力?

 それは魔力以外を使っても魔法を使えるってことか?


「だったら私には必要ないんじゃないかな? 自慢じゃないけど、魔力切れを起こしたことは一回もないし」


「カレンの言う通りなら、やっぱり杖は必要ないんじゃないですか?」


「それはカレンちゃんの持つ魔力が飛び抜けていたからですよ。そして魔力が枯渇するほど魔法を使ったこともない」


 俺の杖のイメージは、「ゲームだと賢さが上がる装備」だがそれもないんじゃ、持っていても邪魔なだけなんじゃないのか。


「これからは必要になります。より効率よく魔法を使うのにはね。試しに持ってみてください」


 半信半疑の様子だったが、杖を手渡されたカレンの様子はすぐに変わる。


「……えっ」


 そう、カレンの口から溢れた。


「分かりましたか? その杖ははっきり言うと、大したことのない普通にある物です。ですが、それでも有ると無いでは全然違いますよね?」


「杖だけでこんなに違うなんて……」


「カレンちゃんの魔法は大雑把ですからね。それを使って効率よくすれば、その威力も持続性も大きく上がりますよ」


 まったく話についていけない。

 魔法の話なんて……いや、待てよ。もしかしたら。


「もしかして、俺も杖を持てば魔法が使えたり──」


「──しません。それこそただの棒になってしまいます」


「そのことなんですけど、私に少し考えがあるんです。聞いてもらえますか?」


 その後の二人の話は俺にはまったく分からなかった。でも、カレンはこの時から考えていたんだろう。


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