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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
41/337

 戦いの前 ⑤

♢25♢


「ユウくん。なんかボロボロですね」


「言われてみれば……」


 マナさんに言われて、着ている制服があちこち切れていて、ボロくなっていることに気が付いた。

 結構暴れたから仕方ないとは思うが、これどうしよう?


「というか、身体は傷付かないのに服は破れるんですね」


「身体に密着してるものも身体の一部ということです。ユウくんを覆う魔法は身体より少し外側にまで広がっているのです。こう、押されるとへこんで、また元に戻る的な? しかし、それは本体を守るオマケみたいなもんなので破れるし、ぶつかると痛いというわけです。あくまで魔法と、銃や剣を防ぐための魔法なようなので。まあ、容量の問題という意味合いもあると思いますけどね」


 ゴムのようなものだろうか? 一見、鎧のように硬くもあり、ゴムのように伸縮もすると。

 見えないので言われた事しか分からないが、不思議だ。


「はい、会長! ユウくんがボロいです!」


「マナ、お前が見繕ってやれ。服なら荷の中にあったはずだ」


 近くで打ち合わせしているようだった会長に、マナさんが手を上げ申し出る。それに対し、こちらを見ることなく会長は答えた。

 何というか、『話しかけてくるな』と感じなくもない。


「いいんですか! 本当に! 後で怒ったりは?」


「しない。そのままって訳にはいかないだろう。ユウを連れて早く行け。さっきからうるさい」


 マナさんは過剰に反応し、会長はやっぱり、『話しかけてくるな』と思っていたらしい。


「やったーーっ! なに着せようかなーー」


 そんなことを知らぬようにマナさんは駆けていき、すぐに姿が見えなくなった。

 その後ろ姿にどうとは言えないが、なんだか嫌な予感がする。きっと自分の顔色は青くなっているはずだ。


 ……そういえばスタークも青い顔をしていた。あれは何だったんだろ?

 そのスタークもだが、カレンも姿が見えないな。


「あれっ、マナさんは?」


 マナさんと入れ違いに、姿の見えなかったカレンが現れた。先ほどから一人いなくなると一人現れる。

 スタークがいなくなり会長が現れ、マナさんがいなくなりカレンが現れると。


「何か走っていった。カレンはどこ行ってたんだ?」


「……ちょっとね」


 カレンはひとまず参戦を認められはしたが、カレンも会長も納得していない。

 会長を、マナさんとスタークが何とか言いくるめたようなもんだが、当人たちは納得いっていないようだしな。


「──ユウくん。なんでついてきてないんですか! 振り返ったら一人だったんですけど?!」


 マナさんが走っていったのと同じ速度で戻ってきた。一緒に来いなんて聞いてないのだから、文句を言われる筋合いはないと思う。


「そんなこと言わなかったじゃないですか」


「言われずとも察してください! 着替える本人がいなくちゃ──」


 最後まで言わずにマナさんは停止する。その視線は座っている俺から、隣の立っているカレンに移っていく。そして、カレンを上から下に眺めていき、何故だかニヤリとした。


「ついでだからカレンちゃんも着替えましょうね。その服は戦い向きじゃないですよ? まずは形からですよ」


「──へっ、私?」


 その後のマナさんの行動は驚くほど早く、まだ理解が追いついていないカレンの手を掴み無理やり引っ張っていった。すぐに二人の姿は見えなくなる。


「…………俺は?」


 その後、カレンとは違い雑に選ばれた服に着替えた。あっちはまだ、『アレでもない』『コレでもない』とマナさんがやっている。あれは長引きそうだ……。


「似合ってるじゃないか。ほら、コレも必要だろう」


 打ち合わせは終わったのか、着替え終わった俺の前に会長がやってきた。そして、コレと言って手渡されたのは見覚えのある刀だ。


「これ、村長さんのじゃないのか?」


「お前に使ってくれとさ。貰っとけ。買うと高いぞ? その造形は馴染みがあるだろうしな。慣れない形状の物を使うよりいいだろう」


「そうかもしれないけど……」


 両刃の剣を渡されるよりはいい。しかし、持ち主がいると分かっている物を簡単には受け取れない。

 物には大なり小なり思い入れとか、込められた意思なんかが含まれるはずだから。


「それは斬る為の道具だろう。老いぼれたジジイが持っていては、そいつはただの飾りだ。使われて始めて刀は意味があるんじゃないか? そいつもその方が喜ぶだろう」


 使われてこその意味か。

 そんなことを昔聞いた覚えがある。

 あれは、誰が言っていたんだったかな……。


「これで斬れるのか。貴族ってやつは」


「──斬れる。お前ならな。スタークには説明したが、奴等には明確な弱点がある。体のどこを失っても奴等は再生が可能だが、そこだけは治せない。奴等の核だからな」


「どこなんだ、それ? 一撃で決めたい……」


 相手がどんなやつでも苦しむ姿なんて見たくない。

 殺すなら一撃で。一瞬で楽にしてやりたい。


「心臓だ。膨大な魔力を生み出すそこを失うか、破損すれば貴族は再生はできない。体の維持すら出来なくなる」


「──心臓」


「一撃必殺は望むところだが情けはかけるなよ。そんな余裕はないぞ」


 会長に言われずとも、余裕なんてない。あるはずない。一気にケリをつけようと思うのもそのせいだ。



 ※



 ──何これ?! 私はどうしてこんな格好を……。


 突然、引っ張られて連れてこられて。次々に着替えを渡されて。着替えないと着替えを物理的に強制してくるし。上手く断れない私もどうかと思うけど、着替えてから言うのもどうかと思うけど。これは無理だ。


「ねぇ、これはちょっと涼しすぎると思うんだけど? そこにもっと長いスカートもあるよね。私、そっちの方が……」


「えーーっ、せっかく可愛いのにーー」


 さっきから何度も必死に訴えているが、まったく意見を聞き入れてもらえない。上はまだいい。でも、スカートの丈が……。


「カレンちゃん可愛いんだから、もっと出していかないともったいないよ」


 『何を出していくのか? 』とは絶対に聞きたくない。余計なことを言ったら、これ以上大変なことになりそうだから。


「最初よりはずっと良くなったけど。私は(、、)、もう少し生地が欲しいかな?」


「──でもでも、動きやすいほうが戦い向きですよ。そうやって戦っているヤツをテレビで見てきたんです。あれには感銘をうけました。よって、厚着より薄着。防御力よりも機動性!」


「そこは防御力にしよう」


 私にはムリ。無理だよー。

 こんな格好、似合っているかも分からないのに。

 これで魔法を使える自信なんてない。冷静さなんて保てないと思う。


「まあまあ、一回それで感想を聞きましょう。ありえないとは思いますが、反対が多かったら違うのを考えますから」


「どうしても、これ?」


 答えも。待ってという間もなく、マナさんにより馬車の荷台に付けられたカーテンが開かれる。


「──さあ、ユウくん。カレンちゃんのお着替えが終わりました! 見惚れなさい!」


 シャっと音がして薄暗かった荷台の中に光が当たり、真正面の私の目の届くところに彼らはいた。

 二人ともこっちを見ているのだから、私が着替えたのは理解しているはず。マナさんも大声で叫んでいたし……。


「うぅ、恥ずかしい……」


「「…………」」


 だけど、何の反応もない。二人ともが無言。『やっぱり似合ってないんだ! 着るんじゃなかった!』と一人羞恥にかられていると、隣にいたマナさんが馬車を飛び降りスタスタと歩いていく。


(おい、おまえたち! 女の子が着替えてきたら、何か言うことがあるんじゃないですかね? ね! ユウくん。会長も)


 二人に何かを小声で呟いている。後ろ姿しか見えないから、なんと言っているのかまでは分からない。


「「似合ってるぞ」」


 明らかに不自然に同じ答えが返ってくる。

 駄目なら駄目だとはっきり言って欲しい。

 そうすれば、それを理由に断れるのに。


「なんだよ、揃ってこんなとこにいたのか。向こうに誰もいないしよ。 ……カレンか? 一瞬、誰かと思ったぜ。そっちのほうが似合ってるじゃねぇか」


 スタークがそんなことを言いながらやってきた。

 余計なことを。と思ってはいけないのかな?


「──さすがスタークくん! どこかの二人より分かってる! さりげなく褒める。大事ですよ。それと比べて本当にダメだと思う。どうしてああなんでしょうか……」


「何だ。お前の趣味か。あぁ、自分じゃあちんちくりんで、着ても似合わないから、カレンに着せてみたのか」


 台詞が切れるのと同時に、「どふっ──」と嫌な音がした。その後、スタークはグラリとふらつく。


「なに……しやがる? 本当のことじゃねぇか……」


「──そう思うなら口にしない! 人が気にしてることを。どうしてウチの男たちは、こんなに空気を読めないんですかねーー!」


 一発では収まりがつかないのか、マナさんはイライラしながらスタークにあたっている。

 スタークには悪いがこれはチャンスかもしれない。


「もう着替えていいよね」


「何を言ってんですか。ダメですよ? 賛成多数で可決です。それでいきましょう!」


「……嘘だよね?」


「嫌ならお留守番です。動きにくい格好では危ないですから。参加したいなら動きやすい格好を、です!」


 そう言われて私の意思は無視されました。

 馴れるまで本当に大変でした……。


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