戦いの前 ④
赤と青がいくつもぶつかり、熱と冷気を周囲に撒き散らす。互いにぶつかっては消える。またぶつかる。また消える。それを繰り返す。しかし、お互いに開始位置から動かない。
二人ともが同種の魔法。性質を球体に留めた魔法。
最も基本的な魔法ではあるが、数が増えれば操作する手間もかかる。基本であるがゆえに使用者の実力が差を分ける魔法。
だが、衝突の数に対して周囲への被害は無い。何故なら、火と水はその性質上ぶつかり蒸発するからだ。
被弾する可能性があるとするなら、魔法を操る当人にだろうが、それも今のところはない。一人は杖を振るい弾幕を抜けてきた球を消し、一人は指先からほとばしる火が冷たい氷を消す。
おぉ──、これは予想外。
ここまで魔法を自在に操るとは思いませんでした。
最初から才能はあると思っていたが、想像以上ですね。
ちょっとだけ試すつもりが、これではうっかり手を抜くわけにはいかない。だけど、さっきから気になっていることがある。
「カレンちゃん。もう少し本気でやっていいんですよ。どうしてちゃんと狙わないんですか? カレンちゃんが当てる気なら一つ二つはもらっています」
火球はあらゆる方向から飛んでくる。こちらも同じ魔法で反撃しつつ、抜けてきた分を水を纏った杖で消しているのだが、明らかに避けられないだろう箇所からの攻撃も防げてしまう。
火球はカレンちゃんが操っているのだから、意図して当てないようにしているのは確かだ。そして、その理由は致命的だ。
「人に魔法を向けるのは初めてですか?」
やはり確信をついたのだろう。
明らかに彼女の表情が変わる。
それではまともに戦えないだろう。
これは、カレンちゃんが自分の力を自覚しているがゆえですかね。でも、それでは足りない。
傷つけ奪うという覚悟。それがなくては戦えない。
いきなりでは難しいでしょうが、戦う上では必要なものです。そうしなければ何かを失う。
そして、それは取り返しのつかないものかもしれないのだ……。
「少しでも恐ろしいと思うのなら、やっぱりお留守番していた方がいいですよ? 覚悟のない人は邪魔ですから」
優しい子は戦いには向きません。
優しいは自分だけでなく味方すら危険にさらす。絶対に足を引っ張る。終いには命にすら関わる。
もしそれが原因で命を落とす人が現れたら、自分を責めることになる。優しくていい事なんて戦いにおいては無い。
「必ず全員を守りますから。信じて他の人たちと一緒に待っていてください」
優しい子には優しい子の意味がある。
戦うなどせずに力を役立てる道もあるだろう。
だからこそ失ってからでは遅いのだ。
「……それは出来ません」
「──どうして?」
虚勢としか思えない。実戦でこれでは駄目だということくらい、頭の良いこの子には分かるだろうに。
「それは出来ないよな。だって、その選択は一番後悔するから。力があるのに黙って見てるわけにはいかない。それが無い人たちが戦おうって言うんだから」
違う言葉で説得しようと模索していると、いつの間にか目覚めていたらしいユウくんがカレンちゃんとの会話に入ってきた。
この子も優しい子だが男の子だ。女の子のカレンちゃんとは違う。何より、ユウくんはカレンちゃんに戦わせたくは無いと言っていたのに、これでは逆だ。
「ユウくん。起きたんですね」
「ええ、なんだか身体はダルいし頭はボッーっとしますけど。カレン、今の途中からだけど見てた。何も殺す必要はないだろう? あれだけ正確に動かせるなら無力化することだけも出来るはずだ。違うか?」
「また無責任なことを……。確かにカレンちゃんなら無力化することは出来るでしょうけど。それでは、いざという時に困るんですよ」
この子は、起きて早々に何を言いはじめるんでしょうね。それではカレンちゃんを巻き込むどころか、前線に出すと言ってるようなもんです。
寝ぼけてるなら水浸しの刑に処するしかない。
「カレン、聞いてくれよ。この人たちは容赦とか手加減とか出来ない人たちなんだ。俺も酷い目にあった。もっと手加減してくれりゃいいのに」
「──してますよ! 少なくても私は! 会長はどうだか知りませんけど……」
「大丈夫だ。俺が必ず勝つから。だから俺に任せて、この村の人たちのことを気にかけてやれよ。それに戦うのはお前一人じゃないだろ」
無視だと? このマナさんを無視して良い台詞を言っているだと? そんな馬鹿な。
「そうだよね。一人じゃない。そう思ってたのに、いざマナちゃんと向き合ったら怖くなって……」
カレンちゃんまで?!
ここはマナが、カレンちゃんの分まで頑張る的なカッコいい場面じゃないの。そんな流れだったじゃないの!
「それを無視した挙句にこの仕打ち。小僧が調子に乗りおって。女の子にいいとこ見せようなど百年早いと分からせるしかない」
「止めろ。まとまる話もまとまんなくなる。いいじゃねーか、俺らみないなのには分からないことだぜ。一生な。魔物と人間相手じゃ違うんだよ。俺らなら殺しちまうような場面でも、あいつは踏みとどまる」
「何だ急に。そしていったい何の話ですか。スタークくん? 」
ユウくんに突撃しようとした瞬間に、スタークくんに頭をガッと抑えされた。体格差は歴然なので簡単に抑えられてしまう。
「お姉さん気取りはヤメろってことだ。あいつらを子供扱いしすぎだぜ。会長もだけどな」
「子供じゃないですか。みすみす死なせるくらいなら、止めるのが正しい選択だと思いますよ?」
「……はぁ、分かってないな本当に。俺は自分の村を守りたかったし、みんなを助けたかった。だけど俺には何もできなかった。残ったのは消えない後悔と、狂いそうになるほどの憎しみだけだった」
いつもとは違う真面目な顔。その言葉の本当の意味は私には分からない。けれど、いつもなら口を挟むところで声を出すことが出来なかった。
「あの二人を止めちまったら、後悔をさせることになる。あいつらには力があるんだ。決して無理じゃない。足りない部分は俺たちが補佐してやればいい」
「後悔させない為に。それが私のやるべきことですか?」
「そうだ。何でも出来るお前には理解できないかもしれないが、そうする為に俺たちがいるんだぜ」
そんな事を思ってもみなかった。考えもしなかった。無理は無理だと思うから。
けど、一人では無理でも二人なら。出来ないところは出来る人が。こうすることで無理は無理でなくなる。それも事実として知っている。
「私は二人とも死なせたくないです」
「俺もだ。こんなところで死なせるわけにはいかない。ちゃんと帰るべき場所に帰す」
「それはユウくんのことですか? 何か知ってるんですか?」
「さっき会長から聞いた……」
それ以降スタークくんは口をつぐむ。
会長から何を聞いたのだろう? 推測するにしても情報が少なすぎる。でも、スタークくんがそうするだけの理由があるのだろう。




