戦いの前 ③
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まったく情けないですねー。
ちょーっと、多くの魔力を失ったくらいで倒れるとは……。でもまあ、これで大丈夫でしょう。
本当はお城も作りたかったんですけど、肝心の魔力の供給源がこれじゃあしょうがないですから、お城はまたの機会にしましょう。
しかし、これで正常なんですよね。さっきまでの魔力の感じは、明らかに異常だったのに。つまり、最初からああだった訳ではなく、会長やスタークくんが接触する以前に何かあったんですかね? あれは一種の防衛本能とでもいうものなんでしょうか?
はっきり原因が分からないので断言は出来ないですが、自己の制御が及ばないほどの魔力の放出はひとまず治りましたね。
「おーい、ユウくん。おきてー。こんなところで倒れていると轢かれるよー」
「……」
「ほら、起きてください。いつまで寝てるつもりですか? もう時間はそれほど無いんですよ。とっとと支度しますよ!」
「……」
呼びかけても揺さぶっても返事がない。
もういっそのこと必要になるまで、このまま放置しておこうかと真剣に考えていると、見知った顔と綺麗な女の子がこちらに歩いてくるのが見えた。
ふらりといなくなったと思ったら、この非常時に何をやっていたんだろう。あの男は!
先輩としての躾けとして、これは少しお仕置きが必要だろうか? 目覚ましがわりの水では量が足りなかったのかな?
「あー、てがすべった! スタークくん。よけてくださいー」
ユウくんから引き出した魔力の残り。それを水に変換して飛ばす。魔法とは呼べない水遊び。
少し出力が高い水鉄砲というところだろう。ただし、当たった場合はちょーーっとだけ痛いかもしれないけど!
しかし、当たらない。半歩だけ体を引いて避けられる。それほど速くもないし仕方ない。
だが、このくらいの対応は予想済み。避けられる事を計算し、水鉄砲には一つ仕掛けを施しである。
ヤツはまだその仕掛けには気づいていない。避けても水は同じ軌道を戻ってくるということを!
ふっふっふ──、これならば避けられまい。観念して水浸しになってもらおうか!
──よし、当たる!
そう確信した時、スタークくんではなく隣の女の子が戻ってくる水に気がついた。指先が僅かに動く。
……赤い光。火の魔法だ。
そう思ったのと水が空中で蒸発したのは、ほとんど同時だった。確かに遊びでしかないものだった。けど、相性ではこちらが有利だったのだ。
僅かな時間で、一瞬の判断で、不利を覆すほどの魔法。この子にはそれがある。
「危ないじゃない。イタズラにしてはやりすぎだよ?」
黒髪の女の子にそう諭される。
魔法に黒髪。それと、自分の知る子供の頃の面影を微かに感じ、目の前の女の子が誰か分かった気がした。
「もしかしてカレンちゃんですか?」
「そうだけど……。どこかで会ったことある?」
一目ではカレンちゃんだと気がつかなかった。
こちらでは珍しい黒髪も、向こうでは当たり前だったから。向こうに滞在していた間に見馴れた黒髪は、こちらではマヨイビトくらいしかまず見ない。その事を瞬時に判断できな──
「──マナ、お前どういうつもりだ!? いきなり魔法なんて使いやがって。しかも、絶対わざとだよな!」
「わざとだなんて人聞きの悪い。うっかり。ですよ? てがすべったんです。事故なんだから、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。顔が怖いですよー」
結果的には当たらなかったんだからいいと思う。
まあ、原因は私の勘違いだったんですけど……しかし、威厳とか必要なので認めない!
「えっ、嘘。マナちゃん? だってその姿、昔と変わってない。娘さんとかじゃなくて?」
「本人ですよ。カレンちゃんは成長しましたね。いろいろと。当たり前ですけど」
十年という年月が経てば、こんなに変わるんですね。背丈だって私のほうが高かったのに。
ずっと女の子らしくなった。その服の趣味は、お母さん譲りなんですかね?
それとも……それだけはずっと覚えていたんですかね。こちらではあまり見ない服装ですからね。
変わらない自分と変わっていく他の人たち。いつもは寂しさを感じるんですけど、今日は違いますね。
あの時の女の子が、ちゃんと成長してもう一度会えるなんて。なんか嬉しいものですね。
「──マナ、聞いてんのか! お前は、いつもいつも、だいたい会長が甘いから──」
この男はめんどくさい。済んだ事をいつまでも……──そうだ! ユウくんを利用しよう。
「スタークくん。実は魔力の使いすぎでユウくんが倒れてしまったのです。介抱してあげてください」
ここでようやく後ろで倒れているユウくんに二人は気がついたようだ。それぞれ慌てて駆け寄っていく。
「おいおい、大丈夫なのかこいつ。大丈夫か、おい!」
二人とも心配そうな様子ですが、大したことないですし特に言うことはないです。スタークくんさえ引き離せれば良かったのですが、カレンちゃんまで駆け寄るのは意外でした。
「そんな……本当に倒れてるなんて」
そういえば、この子はどうしてここにいるんでしょうか? 聞いていた話ではお留守番だったはずでしたが。
『どうしてここにいるのか?』
そう声をかける前に、介抱する男と心配そうな少女を交互に見て気がついた。ヤツが言いつけを無視して連れてきたんだと。
「私も何か手伝ったほうが……治癒の魔法かな?」
カレンちゃんはそう言うものの行動には移せない。
魔法を防いだ時とは別人みたいだ。おそらく、どんな具合なのかが分からないのだろう。
「スタークくんに任せましょう。すでに治癒は掛けました。後は目覚めるのを待つだけです。魔力の欠乏は要因の一つではありますが、主な原因はただの寝不足だと思います」
「……寝不足。それって私のせい?」
魔力を底まで無くしたわけでもないのに意識を失うことはない。なら、別な要因がある。
例えば、日が昇ってすぐなのにもう起きていて顔を洗っていた事とか。今のカレンちゃんの台詞とか。
それらを総合した結果、ユウくんの寝不足の原因はカレンちゃん……だと? この二人あやしい。歳上としては細かく詳細を追求しなくてはいけない気もするが、まずは。
「ユウくんの心配もいいですが、まずは自分の心配をしましょうね。大人しくお留守番しに行くなら見逃しますが、素直に言うことを聞きますか?」
「……」
「だと思いました。唆したのがスタークくんなのは分かってますが、お留守番がカレンちゃんの役目です。勝手な行動は許可できません」
「嫌です。ここは私の村で、みんなは私の家族です。黙ってはいられない」
あっ──、これさっき見たやつだ! 闘ってた場所も近くだし。『私に勝てたら認めてやろう……』ってやれるやつだ。
実は会長ばかりズルいと思っていたのだ。
会長がユウくんにしたように、私もカレンちゃんとやろう。どうせこの様子では、話して納得はしないでしょうから。
「なら、試してあげましょう。カレンちゃんの実力とやらを。でなければ、ここにいる事すら許可できません。魔法は精神の影響を大いに受けます。それは無いと証明してください」
一見しては分からないが、精神的に弱ってる状態では必ず魔法に支障をきたします。そんな子を戦場になど立たせられない。
だからこそスタークくん以外の二人は、カレンちゃんにはお留守番していて欲しかったのだ。
「もしかして心配してくれてるの? だったら大丈夫。もう、決めたから」
おや、なんか本当に大丈夫そうだ。もっとどんよりしているものだと思ってたのに。
ユウくんではないですが、何か吹っ切れたんでしょうか? しかし、戦力の把握という意味でも無駄ではないし。
「半分は心配ですね。でも、残りの半分はカレンちゃんの成長を見たい。あの時の子が、歳月をかけてどう変わっているのかを知りたい。そんな気持ちですね」
とは言え、これからが本番だからあまり魔法を使うわけにはいかないのです。壁はユウくんの犠牲により作成しましたが、それは自分の力を温存するためでもあったわけですから。
「成長ですか。確かに。競う相手もいなかったので、私も自分の実力は把握できていないです。 ……だから私も私を試してみたい」
「おぉ、意外とのりきですね。ならば遠慮はいりませんよ。ですが、周りに影響を出さない程度にお願いします。もう壊れてるところがあるし、せっかく作った壁が壊れたら一大事なので」




