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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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 過去 ②

 余計なことは話さなかったはずだ。

 あのくらいなら特に問題はないだろう。


 それにしても……。


「死なせねぇか。甘いなアレは」


 同じような境遇を話せば、絶対ああ言うと思ってはいた。これで貴族との戦闘はスタークに任せていいだろう。

 情に弱いがアレで非情な面も見せる。矛盾するそれが、アイツの強さだと考えている。


「後はこっちをどうするかだな」


 真正面から戦闘になれば勝ち目はない。かと言って止まらない人形は全部壊すしかない。そうやって、もたもたしてる間に本隊が到着か。


「時間稼ぎにしても策がいるな。何か使えるものは……」


 ふと、一人きりのはずなのに気配を感じた。

 自分の背後に知っている気配。

 振り返ると、空中に漂うようにソイツはいた。


 四属性のどれでもない魔法を操り、同一の存在を敵視し、もうそれなりに長い付き合いになる女。


「なんだ、聞いてたのか? 趣味が悪いな。サラサ」


 向こうの世界にも同じ名前。同じ顔。同じ力。それを持つ彼女が存在している。

 ユウたちをこの場所に導いてくれた魔法使いが。


「なかなかに面白い話だったな。しかし、何が本当で何が嘘なのだ?」


「嘘などないさ。話した全ては俺の知る真実だ」


「ふん……まあいい。仕掛けは施した。ついでにこの国に結界もな。これで中で何が起きても外には伝わらない」


 全て予定通りというわけか。ただ、予定外の言葉があった。結界など予定にはなかった。

 勝手なのは理解しているが、これは勝手とは違う。


「ずいぶんと行動が早いな?」


「…………」


 サラサは口をつぐみ、フイと視線を逸らす。その様子からばつが悪そうに感じる。

 こちらの意見も聞かずに行動していたのは、そうしなければならない理由があってであり、それは悪い理由だと察した。


「今度は何をやったんだ。俺は忙しいんだ。さっさと吐け」


「──今度は、とはどういう意味だ! それでは妾がいつも、何かしらやらかしているようではないか!」


「いいから言え。お前と遊んでいる暇はないんだよ」


「……駒を一つ失った。昨夜のことだ」


 今度は俺が無言になる番らしい。ユウたちがこちらに来て一日足らずで、一人消えるとは流石に予想できないことだ。


「何があったんだ。最初から見ていたんだろう?」


「そこから話すべきか……。転移自体は成功していた。後はそれぞれ飛び去るだけだった。そんな中、異常は起きた」


 スタークが見たという異変。こちらに来てすぐに、何かしらあったのは分かっていたが、目撃者がいたのは幸いか。


「二人飛び去った後、どこかから魔法による干渉を受けた。その結果。カガミと言ったか? アイツはそのまま真下に堕とされた」


「それでユウはこんな場所にいるわけか。他はどうなった」


「三人は聞いていた通りの場所に到達したようだ。 ……だが、もう一人叩き落とされた。その女の反応が消えた。妾の魔法ごとだ。おそらく既にやられたな」


 叩き落とされた、か。

 しかし、そんなことが可能なのか?


 感のいい奴だとしても、遥か空に浮かぶものを落とせるものなのか。第一、中身が何なのかは分からないようになっていたはずなのにな。


「相当な力を持ったヤツだな。それに酔狂なヤツだとも思う。何せ流れ星を落としてみようなどと、普通は思うまい」


「流れ星? ……そう言えばそんなふうに見えたと聞いたな」


「この地にいた者ですら理由を知らねば、そうとしか見えなかったろう。中身が人間であるなんて想像もつかないはずだ」


「やられたのは女と言ったな。何でそれも分かる?」


 男三人に女二人。それがユウたち五人の内訳だ。

 それはサラサには伝えていない。こいつが知っているはずがないんだが。


「現れた場所で見失わぬように印をつけた。その際に実際に見たからな。そういえば一人。術を弾いたヤツがいたな」


「勝手なことを……。それに魔法を弾いた? 姿すら見えないはずのお前の魔法をか?」


「見えていたのかもしれん。目が合った気がする」


 それは無いだろう。ユウには悪いが、選ばれたとは名ばかりの出来損ないたち。そんな落ちこぼれが、四家からそれぞれ選出されたはずだ。

 ろくに魔法を使えもしない彼等に、サラサの魔法を弾くなど不可能だ。


「あれも女だったな。北に向かったヤツだ。印もなく、もう足取りも追えないがな」


「……全てを知っているつもりだったんだがな」


 やはり、選ばれたメンバーの詳細な素性まで必要だったか。二十日では情報が入るのが遅すぎたな。

 得られた情報は顔と名前。こちらでの動きだけ。


 そこから判断するしかなかったわけだが、火、風、土の三家が出来損ないだと聞いて、水も同じくと思っていた。だが、北ということは水が何かを仕組んだということか。

 それに、イレギュラーもムサシより北だった。北か……。


「それよりどうするのだ? この地での戦闘は予定外。何の準備もないだろう」


 そうだった。今はそちらが重要だ。

 後のことは今を乗りきってからだ。


「確認しておくが、結界はムサシの国全てを覆っているのか?」


「もちろん。奪った魔力は使い果たしたがな。そのかいはあった。こうしている今も、この地で起きていることは把握できる」


「ユウから奪った魔力か。把握できるとは、どの程度なんだ? 出来るだけ詳しく教えろ」


 あの時の魔力。それを利用して大規模な結界をか。

 それに誰も気付いていない。これは有利に働く。


「人物の位置。その人数。それらの状態。表層ではあるが感情も分かるぞ?」


「便利なことだな。この戦い、お前ならどうする?」


「退く。勝ち目が無いだろう。数で劣れば戦は勝てぬぞ? 寄せ集めの集団では、訓練された軍隊には敵わない。まして、こちらの戦力はお前たちだけ。良い武器があろうと村人に期待はできないだろう」


「それができないから困っているんだ」


 以前から思っていた。

 こいつは普段何をしているのか? と。


 互いに余計なことは語らない。

 それ故、ろくにこの女のことを知らない。

 同じ存在がいるのも知らなかったことだ。


 不要なことは必要がないと考えているし、俺たちは利害の一致により共謀しているに過ぎない。

 予め決めた。要らなくなればいつでも手を切ると。


「なら、頭を潰す。そうすれば下は止まるからな」


「貴族は消すさ。でなけりゃ、全滅だ」


「違う。アレの話ではない。兵を指揮する人間。ここでは領主と言ったか? アレだ」


「何……領主も向かって来ているのか?」


 サラサは悪意のある笑みを浮かべて頷く。

 感情すら把握出来るというコイツが言うのだ、奴等にとっても高みの見物では済まない話だということだろう。


「アレを討てば軍隊は止まるのではないか? 上手くすれば軍隊は懐柔できるだろう」


「そうなると邪魔なのは上の連中か。しかし、殺してしまえば懐柔は難しいか? なら領主ごと懐柔するか……」


「それが出来るなら十全だが、上手くいくか?」


「交渉にしろ脅迫にしろ、対等で無ければ無理だな。下だと思われていては相手にされないからな。向こうにも同等の戦力があると見せつけなければ」


 サラサから得た情報は大きい。

 上手くすれば人形との戦闘のみで片がつく。

 見せ付けるべきは戦力か。或は人の力か。


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