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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
37/337

 過去

♢23♢


「──これは?」


「ああ、動くな。その位置で固定しろ」


 ツギハギ作業は思っていたより時間が掛かっている。単にくっつけるだけでは駄目なのだ。

 できるだけ断面をピタリと合わせないと、本当にくっついているだけになってしまう。それよりは、いくらかでも動くようにしておいて損はない。


 これから無茶をやるんだからな……はぁ……。


「で、会長はどこまで知ってるんすか? あの二人のこと」


「なんだ急に……。二人というのはユウとカレンのことか。カレンのことは、話した以上のことは分からないな。あれが俺が知る全部だ」


 ツギハギ作業をするのも飽きてきた。だから、気になっていたことを聞いてみることにした。

 この作業の報酬という意味合いもあるけどな。


「その口ぶりだとユウのことは知ってるんですか?」


「まったく知らないわけじゃないな。本人に会ったのは初めてだが、両親と祖父は知ってる」


 会長が一枚噛んでいるという推測は、どうやら当たっていたようだ。都合よく事が運びすぎている。上手くいきすぎている。そう思っていた。

 ユウがこちらに来てからの展開が早すぎるからだ。


「全部。アンタの仕込みなのか。今の状況は?」


「まさか。偶然だよ。ムサシの国は五人を転移させる地名にはなかった。その事自体が偽りだった可能性もなくはないが、少なくともこの国に協力者とやらはいないだろう」


 全ておいて無関係とは思えない会長の言葉を、そのままは受け取れない。


 本当に偶然が重なっただけなのかもしれない。だが、それまで上手く回っていた歯車が急に狂った。

 それは世界すら巻きこむ異常になりつつある。なにせ、これから貴族と戦いが始まるんだからな。


「あん? それはどういう……」


「この地に送られた五人は、それぞれ向かう先も、やるべきことも予め決まってる。肝心の内容までは分からなかったが、こちらに協力者がいるなら話は通る」


「──あいつは、この地にくるはずじゃなかったって言うのか?」


「そうだ。本来ならリュウキュウ。遥か南に転移されるはずだった。それが、どういう訳かここにいるんだ」


 言われて思い出した。

 夜空を染めた大規模な魔法陣を。


 展開された魔法陣から光の球が四つ飛び去るのに対し、ユウが入っていた一つだけは一直線に落下した。

 あれは仕様ではなく別の理由があったのだろうか?


「ああ、ユウのやつの球だけ不自然だった。一個だけ真っ逆さまだった。それじゃあ、本当に偶然なのか?」


「だろうな。たまたま近くにお前たちもいた。ここまで揃うと、全部偶然で片づけるのもどうかと思うがな」


「それじゃあ、帰りがイワキじゃなくここだったのも偶然か?」


「それは違う。俺は東京から直ぐに、ユウたちを追いかけきたんだ。何より。予定通りに福島まで戻っていては時間が掛かり過ぎる。その間にこちらで何があるか分からないだろう。現に事は起きたわけだしな」


 マナから捜索の連絡が来たのは、光の球が飛び去って数時間後だった。二つの世界間にこのくらいの時間差があるのは知ってる。


 謎の現象に気を取られて、盗賊の接近に気がつかなかった。そして盗賊たちとやり合い、魔法使いを負傷させ、夜闇で移動もままならなくなった。その後の事だった。


「なら、この国のことも全部偶然か? 起きてる事の何もかもが、あの魔法陣がきっかけなんだと思ってたけどよ」


「どこも限界だろう。些細なことでこんな事は起こっていた。キッカケではあるはずだ。これが無ければ、もう少し猶予はあったのかもしれないけどな」


「……気が付いているんですかね。この国の貴族は?」


「可能性はある。タイミングがよすぎるからな」


 貴族が気が付いているのだとしたら。

 それを分かった上での侵攻などだとしたら……。


「このまま戦っていいのか?」


 どこかで予想外の事態が起きる。

 その予想外は貴族とやり合う奴の身に起きる。


「構わない。どのみち退路はないんだ。予定は狂ったが力を見るのには問題ない」


「──っ、それはそうなんだろうけど……。アンタ、あいつをどうするつもりなんだ?」


「利用するさ。本来なら接触するにも時間が必要だったんだ。それがこうして目の前にいる。それに利害も一致してる。何も問題はないだろう?」


「言い方ってもんが……。何も知らないヤツを貴族と戦わせるんだぞ……──分かってんのか!」


 会長の態度に思わずテーブルを叩いてしまう。

 工具が飛び散り、大きな音がテント内に響く。


「おいおい、せっかく繋いだのを無駄にする気か? まあ、こんなところか。反応は鈍いが何とかなるか。わざわざ悪かったな。助かったよ」


「なんで……どうしてそんな……。アレと戦うって意味が分かってんのか!」


「知ってるよ。お前よりもずっとな。 ……言い方ね。『力を貸してもらう』とでも言えばよかったか? 利用すると何が違う?」


「違わない……同じだ。俺たちじゃ敵わない。だから利用する。だけど……」


「──だけど? 昔から思っていたが、お前は甘いな。お前の目的はなんだ? ……復讐だろう。なら、使えるものは全て利用しろ」


「割りきれねえよ。アンタみたいには……」


 会長の言ったことは間違ってない。同じだ……利用するんだ。だけど、俺にはただ利用するなんてできやしない。

 力を借りるんだと、自分に言い訳するのが精一杯だ。


「あいつは。ユウは一度何もかもを失ってる。本来ならこんな場所にくるような奴じゃないはずだ」


「何を言って……」


火神(かがみ)って家は、この世界でいう貴族のようなもんだ。代々大きな権利を持ち、国にさえ影響力を持つ。そんな家に生まれたのがあいつだ」


「──貴族だと?」


「俺はあいつの祖父。火神の爺さんに世話になってた時期があった。息子であるユウの父親とも顔を合わせる機会もあった。だが、それはユウが産まれるより前だからな。あいつは何も知らないはずだ」


 自ら昔話とは珍しい。

 聞いてもまともに答えた事などないのに。


 しかし、この話はなんだ? どんな意味があるんだ。


「そんな火神の爺さんが死んだ。俺がそれを知ったのはずっと後になってだった。後継ぎには息子であるユウの父親が有力だった。 ……だが、悲劇は起こる。自分を残して家族は全員殺されてしまうという悲劇が」


「…………」


「あいつは一人になった。父親の弟がユウを引き取った。でなけりゃ施設にでも入れられたはずだ。そして、逃げるように都会に行き、今に至る」


 アイツは俺と同じなのか……なら、どうして……。

 あいつはあんなに優しくいられる? ……誰かを守ろうなんて思える。俺のように、何を犠牲にしても復讐しようとは思わないのか。



 ※



火神(かがみ)とそれに並ぶ一族が存在する。彼等は、あちらの世界での魔法にあたる技術を秘匿してきた。そうすることで長く権力を得てきたわけだ」


 魔法。その素養がある人間が向こうにもいる以上、魔法が存在していても驚きはしない。

 それが独占できるなら権力も手に入るだろう。貴族という例えも間違いじゃない。


「その中で筆頭であった火神の家は乗っ取られ、今や見る影もない。爺さんが上手くやっていた。だからと言って屑に変わりは務まらなかった。後を継いだ奴は、それすら分からない無能だった」


「殺しの件は誰がやったのか分かってるのか?」


「分からない。それが向こうで出た結論だ。権力を使えば、真実などいくらでも捻じ曲げられる。直接は手を下していないだろうが、一番利益を得たのは爺さんの後釜に座ったやつだろうな」


 そいつが仇だと気が付かないヤツには思えない。

 憎いだろうし殺してやりたいはずだ。


「アイツは何もしなかったのか?」


「正確には、『出来なかった』だろう。それが正しい。ガキ一人でどうにかできる範疇を超えてる。奪われようと、どうすることもできない。そう、今のこの世界のように」


「それじゃあアイツは──」


「可哀想か? だが、手に入れたじゃないか。五年前は持っていなかった力ってやつを。魔法はこちらでしか使えない? そんな筈は無い。向こうにも同様の技術が存在する以上はな。ユウに言った野郎が嘘を言ったのさ」


 魔法が秘匿されている世界。それが真実なら、本当のことを知っているのも秘匿している側。自分たちに都合の悪いことは明かさないことも、排除することも容易か。排除……。


「──待ってくれ! ユウのヤツがこっちに送られてきた理由ってのは……」


「気づいたか。火神の連中はユウを処分するつもりだろう。生きていられては困るようだからな。直接手を下さずにその目的は達成されている。すでに手の届かない場所に放り込んだ。後は死ぬのを待つだけだ。或いは、転移先にその算段があったのか」


 悲劇など無いような世界なんだと思っていた。

 平和ってのは、そういうものなんだろうと。だけど違った。実際は俺たちと変わらなかった。

 結局は力を持つ奴が、権力を持つ奴が支配する世界だった。


「そんな顔をするな。何一つ連中の目論見通りに事は進んでいない。火神の家の中に一人だけ味方がいたんだ。そいつは連中を欺きその子に賭けることにした」


「ここで生き残る方に賭けたってことか?」


「そうだな。その解釈でいい」


 それだけじゃないってか。だけど、話さないってことは聞いても答えないだろう。会長はそんな人間だ。


「俺はアイツを絶対に死なせねぇ。力を持ち帰れば変えられるだろうからな……」


 取りまく環境を。選べる選択肢は確実に増やせる。

 そうすれば、どんなふうにも変えられるはずだ。


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